苺同道するモクチェズ ブン、と羽音を耳が拾った瞬間サッと目を走らせた。
黄色と黒の縞模様。危険信号を発しているその体はしかし、臆病そうにモクマから離れた位置でふよふよと飛んでいた。
「なあんだ、ミツバチか」
身構えた姿勢を緩めると、横に歩いていたチェズレイは「おや」と声を出した。
「この一帯はずいぶんとミツバチが生息しているのですね」
「近くに苺農家でもあるんじゃ無いかねえ」
「苺……なるほど、受粉のために敢えて飼育していると」
「そうそう。大方、どっかのビニールハウスの巣箱から出てきたんだろう」
穏やかな田園が広がる景色の中で、ポツポツと半円の細長い建物が見える。
悪党が歩くにしてはずいぶんと不釣り合いの道に見えるが、これもまた仕事の一環だった。次なるターゲットの情報を得るために、モクマの旧縁の情報屋にツテを辿ったところ、かつては酒場のマスターをやっていたはずだった男は急遽転身、都心から離れた田園部で土地を買って農作を始めたのだと言うのだから驚いた。
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