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    krt_v3

    @krt_v3
    V3百王
    小説メインだけどたまに絵もあるかもしれない

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    百王/ハピダン時空。少し不調の百と、ちょっかいかけにきた王の、海辺での一幕。そういうバグが紛れ込む事もある、+でもあり×でもあるみたいな話。

    #百王
    hundredKings

    cut out 燦々と照りつける太陽。からりとした暑さは日本のジメジメとしたそれに比べればすこぶる快適だ。心地良い潮風が椰子の木を揺らし、適度に汗ばんだ髪も撫ぜていく。波が打ち付ける音がBGMになる、理想的な南国の風景。学生時代の思い出作りには最適の環境。
    「――なのによー。何だってんだ、これは」
     
     百田は喉元を押さえながら、内側からつっかえているものを吐き出すように溜息を零す。だがその程度では晴れてくれなかった。胸の辺りをジワジワと侵食し、時折ズキリと痛む感覚があった。
    (プログラム世界の、バグか何かか……? どうしたもんか……)
     百田の格好はいつもの制服だが、昼間の海辺を歩くには暑いので、上着はコテージに置いてきていた。シャツの袖を捲りながら防波堤の傍を散歩していた所で。

    「なるほど。それで潮風にでも当たれば変わるかなー、なんて思ったわけだ。安直だね!」
    「ぅお!?」
     突然背後から声を掛けられ、びくーっ! と百田の背筋が針金のように伸びた。百田が気付かなかったのか、文字通り突然現れたのか。百田が振り返ると、王馬が防波堤に腰掛けて足を投げ出していた。
    「うげ、何だよ王馬、……オレ声に出してたか?」
    「うげって何、ひどいなー。別に大して声には出してないし意味ないよ。オレってば人の心読めちゃうからね」
     言葉の割に傷付いた顔もせず、へらへらと嘯く王馬は、海パンにパーカーを羽織ったラフな格好をしている。海かプールかでひと遊びしてきたのだろう。大概そういう時はキーボが巻き込まれている。数日前に『オレはあいつの潜水能力の開花の為に身を粉にして働いてるんだよ!』などと力説していた。翻訳すると、自分が愉しむ為には努力を惜しまないという意味になる。その情熱を別の所に向けられないのか、と百田が巻き込まれたクラスメイトの苦労を想っていると、王馬がそっと目を細める。百田は身構える。こういう目の王馬は碌な事を考えていない。そうではない時がどれだけあるのか、という話ではあるが。

    「――キミ、確か今日は塔の何番目かのパーティメンバーに入ってたよね。このクソ暑いのに制服なのは、その直後って所? で、さっきから老け込みそうな顔して胸を押さえてブツブツ呟いてたのを見るに、体調がおかしいんだろうね。何か状態異常の技でもくらった? それで、何故か塔を出た後も残っちゃってる。意味分かんねー、オレは百田解斗だぞ!? って混乱中。足りない頭で絞り出した答えが散歩ってわけだ」
    「……ぐ。う、うるせーな老け込むだの足りねーだの! テメーは言葉が余計なんだよいちいち!」
    「あー、否定するのがそういう言葉尻だけ? 図星かー」
     再度百田が言葉に詰まる。残念ながら王馬の見解はほぼ正解だった。しいて違うと言えば、状態異常の攻撃をくらった覚えは無い事くらいだ。切っ掛けが不明という気味悪さが、余計に百田の悩みの種だった。
     どちらにしろ、正直な所、王馬が特別勘が良いわけではなく、誰から見ても体調が良くない事は読み取れただろう。だから人気の少ない海辺を散歩コースにしたのだ。なのに、全クラスの中でも一番厄介そうな奴に見つかったのは誤算だった。
    (……いや、もっと厄介なのも居なくはないか)
     さすがに3年間一緒に過ごしたクラスメイトなので、相手の仕方は(他のクラスの破天荒な奴らに比べたら)百田も分かっているつもりだった。百田が無言で踵を返して歩き始めると、王馬は何か尻尾でも出さないか探るように、防波堤の上を器用にスイスイ歩きながら追いかけてくる。

    「まだ話終わってないんだけどー」
    「……いーから、他の奴らに言いふらすなよ」
    「言いふらさないと思う?」
    「…………何なら、変な尾ひれ付けて言いふらすだろーな」
    「分かってんじゃん! 百田ちゃんは自分で獲ったグロテスクな海産物をオレなら食える! とか妙な自信で食べて腹壊して、トイレから丸3日出てこなかったんだってね!」
    「トイレの個室で茶化す小学生かテメーは!?」
     最低限の名誉は潰してくれるな、と百田は頭痛を覚える。だが、ここでネタバラシをするという事は逆に行動に移さないのでは、と推察もした。それに普段はともかく、王馬はこの合宿では子供のような他愛ない悪戯しかしていない。これは百田だけでなく他のクラスメイトも気味悪がって……もとい、疑問に思っているらしい。旅行気分で機嫌が良いのか、思い出作りの合宿をぶち壊しにはしないだけの常識は持ち合わせているのか。ともかく、今に限っては、致命的に百田の立場を危うくする行為はしないだろう。

    「っていうかそれ、マジでどうすんの?」
    「大丈夫だ、適当に休憩しときゃ治る! ……どーしてもダメなら、プログラム世界の事だ。不二咲に相談する」
    「あ、そういう頭は回るんだ」
    「テメーは口を開く毎に罵倒しなきゃいけないノルマでもあんのかよ」
     文句は言いながら、この憎まれ口にも百田は慣れたものだった。だが、この男にずっと付き合っていると、休憩出来るものも休憩出来ない。どうにか興味を逸らせないか、百田は思案していた。なので、少しばかり意識が王馬の方からも逸れていた。
    「――――。あー、そっか。キミ、……苦しい時の呼吸の仕方、忘れたんだ」

     
     百田は足を止めた。百田より若干高い位置を歩いていた足も止まる。百田が横を向けば、澄んだ青空を背景にして、王馬がこちらを見下ろしていた。いつものように、クラスメイトに悪さを仕掛ける時のように、何ならつい数秒前までのように、意味ありげに口の端を吊り上げている。太陽がその背の方にあり、逆光が王馬の表情のニュアンスを曖昧にさせる。

    「…………誰だ? テメー」
     不調な体からも、迷い無く出た言葉だった。王馬は、ハ、と僅かに笑い飛ばす。
    「いや、仕方ないよね。健康優良児だもんね、は。忘れるも何も、知らないか」
     王馬は勝手に納得したように、もー世話が焼けるよね、と頬をわざとらしく膨らませ、防波堤の上でしゃがむ。少しバランスを崩せば海に落ちそうなのに、そうはならない妙な安心感があった。或いは、百田には、そこには実の所王馬は居ないような気さえした。そんな想像を笑うように、潮風は、確かに王馬の黒髪を無造作に揺らしている。

    「知らなくてもいい、無理に明かさなくていい事なんて幾らでもあるけどね。オレは嘘の無限性を愛しているからさ。でもまあ、は、どうしようもない。キミが想像している通り、バグだ。キミが経験するべきではないものだ。プログラム世界だからそういう事もあるんだろうね。そういうバグを切り落とすのは、世界の外に居るヤツの役目だよ。オレとかね」

     目の前のクラスメイトらしきものが語る言葉は、百田にはどこか知らない国の言葉のように聞こえた。聞こえる声も、先程までより僅かに低い。一瞬のうちに、別の世界に放り出された気分だった。その声の意図が掴めなくて、だが知らなければいけない気がして、一歩、二歩、王馬の方に歩み寄る。王馬がしゃがんでいるので、視線の高さが丁度同じくらいになっていた。距離はいつしか、王馬の白い手が真っ直ぐ伸びて百田の頬を捕らえる程度には近くなっていた。王馬の瞳に、蛇に睨まれた蛙のような自分の顔が映っているのも百田には理解出来た。だが、それ以上頭が回らない。

    「オレも別に、あいつほどプロじゃないけど苦しい経験はあるからね。プロっていうと怒鳴り散らしてくるかな。……うわ、近くで見ると顔青っ。それで取り繕うの無理があるよバカなの? せめてちゃんと呼吸してよ。そうそう」
     酷く口が渇く。何をされようとしている。百田の頭はどうにかして理屈を組み立てようとするが、蜘蛛に絡め取られたように上手く動けない。目の前のコイツは自分の知る王馬なのか。何かを根本的に間違えていないか。スミレ色の瞳が細められる。睫毛のカーブや、白い肌の質感まで視認出来る。距離のせいか声のボリュームがぐっと下がり、囁くようなそれになる。
    「荒療治だけど、猫に噛まれたとでも思っといてよ。そういう事も、何でか知らないけどあるんだよね。オレだって未だに疑問だよ」
     まさに猫のような瞳の形。ここまで近くで見たのは当然初めてだった。明らかに、クラスメイトのラインではない何かを仕掛けられているのに、声は何だか愉しげだったり不機嫌そうだったり弄ぶ様に跳ねるのに、瞳の奥の光だけは妙に真剣で、そればかりが目についた。今は眠る月のように、鋭利なもの。
    (……だからテメーのそういう態度は、どういう反応していいか分からなくなる。あの時だって、まるでオレを貶めるような振る舞いをしておいて、やった事と言えば解毒薬を————)


     王馬は、ピタリと動きを止めた。唇に吐息が掛かる程度の距離だった。
     自らわざと止めたのではなく、肩にはっきりと押し返す力を感じたからだった。押し返すと言っても、うっかり海に王馬が落ちないように、肩を強く掴みながら押し留めたという所だった。王馬は黙る。黙って、目の前の男がこちらを見るのを待った。

    「…………止めろ。そこまで、しなくていい」
     
     その言葉が発された瞬間、王馬は理解し、眉を顰めた。百田もそれを確認し、一歩後ろに下がる。
    「……はー。出てくるタイミングが最悪じゃん。もう少し前か後か、どっちかでしょ」
    「知るかよ。……もう大丈夫だ。帰るぞ。オレらの出番じゃねー」
    「……、キミに引きずられたんだろうから世話してやったんだけど?」
    「……わーってるよ、……その、……助かった。でもは余計だろ」
    「何の事ー?」
    「……わざとらしーな」
     王馬のとぼけた顔は、百田の怪訝な返答でかわされる。なので王馬も不機嫌そうに手をひらひらさせる。
     
    「そう言うなら、これっきりにしてよ。二度はないからね」
    「いや、オレが制御してるもんじゃねーんだが……いや、そりゃ言い訳だな。何が何でも自分で何とかしてやるよ!」
    「あっそ。出来ない事を約束するの、悪い癖だよね」
    「テメーが言ったんだろ!? 大体、出来ないって決めつけると本気で出来なくなるぞ!」
    「はいはい、どうでもいいよ。——ああ、でも」

     防波堤、コンクリートの塀の上でしゃがんだままの王馬は、頬杖をついて百田の方を見る。瞳は笑うように。夏の思い出の、単なる1ページのように。
    「残念だな。こっちののファーストキスはお預けだね」
     ふわふわとしたトーンは、如何様にでも受け取れるものだった。敢えてその形で出力する事で、目の前の男を試していた。
     今、この瞬間に目の前に立つ男と、先程まで居たはずの同じ顔の誰かへの態度の間には、この海と陸の境目のような明確なラインは無い。遠慮は無く、何度も世話を焼く程の思いやりは無く、■も■■も無く。
     百田は少しだけ黙ったが、すぐに呆れたように息を零す。
    「……むしろ勝手に決めるなっての」
    「それもそっか。出来るならキミとの妙な腐れ縁は一世界こっきりにしたいな〜!」
     無いものばかりの中で、有る違う事と言えば、その妙な縁ひとつくらいだった。
     もう懲り懲りだよ、と王馬は言葉を吐き出すと、そのまま陸の方に向かって、たん、と足を踏み出す。サンダルの先が地面についた時、その着地音にしては随分と明瞭な、ぱちん、という音がした。


     
     僅かな静寂の後、百田も王馬も目をぱちくりさせていた。波の音、風で椰子の木が揺れる音。先程までしていた会話。それが一瞬断絶したような気配がしたのだが、どうにも確かめる手段は無く。ただ、百田は数秒して、先程までと明らかに変わったものがある事に気付いた。
    「…………あ? 治った」
    「え」
     その声で王馬が百田の方を見る。明らかに取り繕いを忘れた音だったのだが、百田は自分の変化の方に気を取られてしまっていた。己の喉や胸を確かめるように触っている百田を眺めながら、王馬は少しずつ表情をわざとらしく緩ませる。
    「……そうなんだ? …………よかったねー、オレが異常治癒スキル持ってて!」
    「待て、テメー何かしたか!?」
    「何そのオレが元凶みたいな発言! オレが諸悪の根源だった事なんて3回に2回って所じゃん!」
    「大半じゃねーか!?」
    「百田ちゃんって大さじ1と大さじ3分の2を同じだろって言う人? お菓子作りで失敗して爆発させるタイプだね!」
     言い合いが始まれば、些細な違和感は煙のように溶けて無くなっていく。体の懸念も無くなったので、そろそろ戻る頃合いだと百田も思った。時間も昼時だ。結果として二人並んで歩きながら食堂に戻る事になる。

    「料理なら、そのくらい直感で何とかするもんだ!」
    「あーあー絶対爆発させるなこれ。お菓子作りと料理って考え方が別って言うよねー。オレは包丁持った事すらないから分かんないけど!」
    「たまには厨房手伝……いや、ダメだ。どんなもんを仕込まれるか分かったもんじゃねー……何か思いついたみたいな顔すんな!」
     騒がしい声が青空に響く。電子空間であっても、仮に作り物であっても。その空は確かにどこかに成立している。



    #この時空の二人は悪友関係。ひょっこり出てきて帰った誰かさんたちは、この時空の二人よりも精神的に4歳と10ヶ月くらい年上のイメージ。関係は預かり知らぬ所
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