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    syadoyama

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    ハイパー美少年に目をつけた殺人者、美少年がマフィアのドンで返り討ちにあう話

    美しきものたちの庭(殺人鬼と子チェズ) 大学からの帰り道で、ある親子を見かけたことがある。都市部から離れた郊外の一軒家のテラスで、本を読んでいた。腰掛けた椅子から足をぷらぷらと揺らして、美しい母親の朗読に聞き入る少年。少女と見間違えるほど可憐な姿に、私は心配になった。
     午前の講義を終わらせて帰る途中――つまり、まだ昼間だ。今朝は通学する同じ年頃の子供を見かけたから、学校が休みという訳ではないのだろう。学校に通っていないのだろうか。折れそうに細い体ではあるが、つやつやと美しい髪や内側から光るような肌は健康的だ。家から出られないほど病弱な子供には見えない。衣服もクラシカルだが上質なもので、金銭の問題は無いように見える。
     この親子は何なのだろう。まるで社会から隔絶され、美しいものだけ与えられているような、妖精郷の存在。ぼくはじっと二人を眺め、我に帰って少し買い物をして帰宅した。

     買ったものは双眼鏡とカメラだった。美しい彼らの庭が見える角度に、古い納屋がある。その影で白樺の枝に降り立つ野鳥の観察をするふりをしながら、ぼくは彼らの生活を盗み見る。少年はまだ十そこそこだろうに、甲斐甲斐しく母の世話をした。肌寒い日にはひざ掛けをもってきてやり、立ち上がる時には手を取る。完璧な少年だ。雨の予報のある日は早めにテラスの椅子を軒下に運ぶ。その小さな手を手伝えたら、とぼくは夢想する。
     庭先は完璧な絵画で、崩壊するなどと思わなかった。
     彼らが外で本をあまり読まなくなった、早すぎるヴィンウェイの秋。花が枯れるように、美しい母がベランダから身を投げた。寸前まで縋りついて、落ちていく母を助けようとする美少年。ぼくは双眼鏡を握りつぶしそうになるほど熱中して、彼らの行く末を眺めた。母親の死体は角度的に見えなかったが、きっと、薔薇のように美しかったのだろう。
     何台も車が来る。警察も救急車もいない、黒塗りの高級車ばかりだ。郵便物を確認していたが、彼らは公的機関と何もかかわりがなかった。行政からのチラシも、ボーイスカウトの誘いも、なにもない。外敵と隔絶されていたからこそ、彼らはあんなにも美しい。
     しかし、少年は黒服の男たちに囲まれ、どこかへ連れて行かれる。完璧な庭園の終わりが、近づいていた。

     少年が戻ってきた時には、日がとっぷりと暮れていた。一人の背中にぼくは居た堪れなくなり、拳を握りしめる。このままでは彼も、現世に触れて穢れ、そして消えてしまう。少年の中にある完璧が犯されてしまう。
     ぼくは決意した。

    「あの、すみません。このあたりでナボコフさんというお宅はありませんか」
     ドアベルを鳴らし、インターホン越しに話しかける。声変わり前の少年の声がした。
    「知りません」
     初めて聞く彼の声。想像以上の、天上の花。透明な鈴が、天使によって揺すられているような。
    「……っ、おかしいな、この住所なんですけど」
     ぼくは懸命に興奮を隠し、新聞紙をがさがさと言わせる。少年は無言になり、ドアの鍵を開けた。
     肩口で切りそろえた美しいブランドの髪を揺らし、少年が姿を表す。間近でみると視界が光に埋もれて、はっきりと輪郭がわからない。すみれ色の瞳が、思っていたより理知的で――そう、楽園の住民にしては冷酷な光を宿していた。
    「ほら、見て下さい」
     ぼくは新聞記事の、一際小さい文章を指差す。少年が身を乗り出す。迷惑そうな顔をして、ぼくの新聞に顔を近づける。
     ぼくは新聞をばさりと勢いよく彼の頭に被せた。そして指の間に隠していたスタンプ式の麻酔薬を握りなおす。どこでもいい。少年の柔肌に突き立てれば、一瞬で彼は倒れる。そうしたらぼくのものだ。ぼくの家に連れて帰って、ぼくが守ってあげられる。ぼくは天使を守るのだ。ぼくが守らなければ少年も俗世に触れて穢れて死んでしまう。ぼくが彼をこれ以上成長しないようにしてあげる。ぼくの膝の上で微睡むだけの人生を与えてあげる。

     ぼくの膝に激痛が走った。小さな、ぱすっという音と共に。

     少年はぼくに抱きついて、指先で注射器を捻り上げて奪う。少年はぼくの腰に手を回して、ベルトに挟んでいた銃を奪う。
     少年は悪戯な微笑みを浮かべ、ぼくを蹴り飛ばす。衝撃で膝からズボンへ、勢いよく血が染み込んでいく。
    「ぐ……ぃた……」
    「武器は、これで全部ですか?」
     少年はまだ少し煙の上がっている小さな銃を拾い上げる。美しいものたちの庭に似合わない火薬のにおい。これを手放して、ぼくの銃を奪ったのだろう。
    「答えなさい」
     痛みに足をかばい続けるぼくの身体に、少年が絡みつく。細い蛇のようにぬるりと。そしてタブレットやロープを抜き取り、つまらなそうに投げ捨てる。
    「どこのものですか?」
    「……ぁ……え……?」
    「どこの組のものか、と聞いているんです。誰に頼まれて、殺しに来たんですか」
     あぁ、タブレットからハックすればいいか。少年はタブレットを起動し、ぼくの手を取る。冷たく細長い指は、ピアノでもやっているのだろうか、鍛えられて美しい。指紋認証をぼくの手で開く。
    「ちぁ……違う……ぐぁっ」
     立ち上がった少年がぼくの膝を踏みつける。
    「ボスになったらこういう手合いが増えるのか……」
     ぼくの言葉には興味が無い様で、タブレットの中の連絡先や通話履歴を確認する。収穫は無かったのか、つまらなそうにぼくを睨んだ。
    「下層のヒットマン……ただの弾丸」
     少年は、ぼくの銃を構える。ぼくの口に向けて、がちんとぶつける。歯と唇がぶつかり、痛みが増える。
    「殺しに来たんでしょう。残念でしたね」
     少年は美しい顔のまま、ぼくに言い放つ。なにも信じられない顔をして。
    「ちが」
     ぼくの口に銃がねじ込まれる。
     違う。
    「さようなら」

     ぼくは君を守りに来たんだ。





    おしまい。
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    nochimma

    DONEモクチェズワンドロ「ビンゴ」
    「あ……ビンゴ」
     もはや感動も何もない、みたいな色褪せた声が部屋に響いて、モクマはギョッと目を見開いた。
    「また!? これで三ビンゴ!? しかもストレートで!? お前さん強すぎない!? まさかとは思うが、出る目操作してない!?」
    「こんな単純なゲームのどこにイカサマの余地があると? 何か賭けている訳でもないのに……」
    「そりゃそうだが、お前さん意外と負けず嫌いなところあるし……」
    「……」
    「嘘です……スイマセン……」
     ため息と共に冷ややかな視線が突き刺さって、肩を落として、しくしく。
     いや、わかっている。療養がてら飛んだ南国で、早二週間。実に何十年ぶりという緊張の実家訪問も終え、チェズレイの傷もだいぶ良くなり、観光でもしようか――とか話していたちょうどその時、タブレットがけたたましく大雨の警報を伝えて。もともと雨季の時期ではあったけれど、スコールが小一時間ほど降ったら終わりなことが多いのに、今回の雨雲は大きくて、明日までは止まないとか。お陰でロクにヴィラからも出られなくて、ベッドから見える透き通った空も海も(厳密には珊瑚で区切られているから違うらしいが)もどんより濁って、それで暇つぶしにとモクマが取り出したのが、実家にあったビンゴカードだったのだから。ゲームの内容を紹介したのもさっきだし、数字はアプリがランダムに吐き出したものだし……。
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