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    syadoyama

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    syadoyama

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    ファントムとモクチェズの三人でわやわやする話
    いろいろガバです

    色即是空 ファントムを引き摺り出すために繰り広げられたルーク・ウィリアムズ救出劇は、皆の協力によって大団円を迎えた。本当に感謝している。
     ――それはそうと、我々は未だに……弱化したジイス国の立場に便乗して現れた反政府組織、彼らに武器を売り払う商人、それに乗じて発生したゴロツキ……エトセトラエトセトラ、について責任を問われていてね。ファントムを引き渡せないのなら、解決をしろと。
     流石に大国ジイスを二人では骨が折れるだろう。ファントムを三日間貸し出す。
     やれるな? 怪我の治ったチェズレイ。
     早く終わらせたいならモクマも協力してくれ。

    「というわけだ。よろしく頼むよ」
     ナデシコちゃんからのメッセージを聞いた次の瞬間には、隠れ家のドアの呼び鈴が鳴らされていた。俺が出るとチェズレイを制して先に立ったものの、にこやかで隙のないこの男になんと言えばいいのかはわからない。
    「やぁ、どもども……」
     俺が頭を掻きながら紡ぐ言葉を考える後ろから、にゅっとチェズレイが顔を出す。チェズレイは冷たくも熱くもない声で、ファントムに言った。
    「ファントム。あなたを牢から出す計画がミカグラで動いていました。こんなことだろうと思いましたよ」
    「だから三日前に拠点を大忙しで変えたのか。身分を購入する時間もなく」
    「ええ、おかげで私達二人は突然現れた謎の人物です……モクマさん、後は中で話しましょう」
    「え、あ、うん」
     俺は頷いて、チェズレイとファントムの間から避ける。ファントムがコートを脱いで、玄関のコート掛け、俺の羽織の横にかけた。
     
     話のスピードが早い。チェズレイが一言いうと、意図を汲んでファントムが資料を出す。ジイスは国際テロリストを出した上に彼が戦争を始めようとした責任問われているという。その原因がミカグラによるファントムの管理不足だと。どこまで漏れているのか。
     ちら、とファントムが同席しているだけの俺を見る。
    「――つまり、ジイスは無理難題をふっかけて、俺、というか便利なファントムを取り戻そうとしているんだ」
    「それを阻止するため、私達はジイスを平和にしなければなりません」
    「阻止、ねえ……」
     俺はこっそりとチェズレイに身を寄せる。二人がけのソファで、チェズレイは意図を組んで、耳を傾けた。
    「チェズレイ。ルークがエドワードに会えなくなるのは忍びないが、ファントムがジイスに行くっていうのは無理な話なの?」
    「無理、ですね。ジイスの斥候や戦術のレベルが上がってしまう。あのディーゼルを育てた国ですよ? 力があれば振るいたくなるのは国も人も同じ」
    「さよか……」
     ファントムは穏やかに微笑み、俺が入れた煎茶を飲む。おくちにあいましたでしょうか。
    「すまないね。だが、ジイスの反政府組織を消滅させるのは三日で事足りる」
    「ええ。インターネットと現地工作員を駆使した人心操作で済むので、国へ行くのはおろか、この隠れ家から出る必要もないでしょう」
    「ただ、問題がある」
    「そう。人の噂も七十五日と、モクマさんは教えてくれましたね」
     ファントムとチェズレイが、交互に喋る。交互に喋っているというのに、まるで脳が繋がった一人の人間と喋っているようだった。
    「この作戦は速度が勝負……点火させたら、燃え尽くすまで、あらゆる情報を監視して薪を焚べる必要がある」
    「もしかして……三日間、ずっとファントムがいるってことかい?」
    「すまないね。新婚カップルの邪魔はしないさ」
    「えっ?」
     俺は思わず顔をあげる。チェズレイを見る。チェズレイは眉間を揉みながら呻いた。
    「……私は話していませんよ。どこから察しました? 共同生活の距離感から?」
    「いや。ナデシコ・レイゼイが話してくれたよ」
    「……豪放磊落なお方だ」
     ナデシコちゃん! 俺は心のなかで彼女を拝んだ。正直、言われなければこちらから、なんとかオブラートに包んで「らぶらぶの俺たちを邪魔しないで欲しい」と言おうと思っていた所だ。そうすれば追い返せるまでは行かなくても、別な宿で過ごしてくれるだろうと踏んでいた。
     正直、俺はファントムと仕事でも仲間になれる気がしない。チェズレイを傷つけ、ルークを裏切り、シキをテロリストに仕立て上げ、フウガを暴挙に走らせた。今回も皆を危険にする作戦をたてた男だ。これ以上、人を嫌いになりたくない。
    「気にしませんよ。あなたの寝室は一番奥です。作業部屋へ案内します」
    「へ?」
     チェズレイは平然と言い放ち、俺の傍から立ち上がる。パソコンが数台とモニターがその倍準備されている部屋へファントムを案内した。
     仕事として割り切っているのだろう。何も感情はないのだろう。
     チェズレイは髪を緩く縛り、眼鏡をかける。
     部下にさえ見せない事務仕事モードになり、ファントムにパソコンの使い分けを指示するチェズレイを見ていると、俺は、ますますファントムを嫌いになってしまう。

     一日目の夜は更けていく。俺にできることは少ない。というか、ほぼ無い。散らかしたままのように見える書類さえ、使用頻度まで考えられて配置されているとわかっていた。俺は普段のチェズレイのシゴト――部下からの相談や、許諾に対応しながら、二人を盗み見る。
     とんでもない速さで世界が動いている。デマが飛び交い、デマのほうがマシな事実が明らかになり、世論が二転三転する。それに油を注ぎ、誘導して、チェズレイとファントムは世界を操る。
     ファントムが席を外した隙に、俺はチェズレイの傍へ静かに歩み寄った。タイプを続けるチェズレイの目が座っている。眠気と目の疲れ。マッサージでもしてやればすぐ寝てしまうだろう。
    「……お茶でも淹れてこよか」
    「おねがいします……」
     チェズレイは細い声で、俺に目を上げないまま頷いた。

     慣れない新居の台所にパタパタと駆け込む。ヤカンを探す目線が、オールバックの男に捕まった。盆に乗せられたポットと、三セットのティーカップ。ふんわりと広がる茶葉の香り。
    「チェズレイの集中力が切れた頃だろう」
    「……やぁ、お客さんにやらせて悪かったね」
     俺が手を伸ばしても、ファントムは紅茶の盆を渡さない。
    「チェズレイは徹夜する際、二時頃に濃い紅茶を要求する」
    「へえ」
     ファントムは俺に薄く微笑む。
    「覚えておくといい。従者になるのなら」
    「相棒だよ」
    「君が配膳するかい? 手柄にするといい」
     台所のテーブルに紅茶を置いて、ファントムが両手を上げる。銃でも突きつけられたように、武器を持っていないと示していた。
    「……ありがとさん。でも」
     俺はファントムを押しやり、背後にある冷蔵庫を覗く。今朝買ったばかりの牛乳を取り出し、封を切る。
    「俺はチェズレイに寝て欲しいんでね」
     ポットの中の、完璧な温度の紅茶に、俺は直に牛乳を注ぎ込んだ。

    「ぬるいです、モクマさん」
     じっとりと俺を睨むチェズレイは、エナジードリンク代わりにかもう一杯紅茶を要求する。
    「ごめんて。でもほら、そろそろ寝る時間だし……」
    「寝る?」
     俺に配膳させた二杯目の紅茶を飲みながら、チェズレイは目を丸くする。
    「チェズレイの部下の……ほら、あのパソコン得意なチームの子を五人呼んだよ」
    「情報戦術部か。まぁ、技術としては申し分ないですが……」
     チェズレイが顎に手を当てる。休憩のおかげかその目はまだまだ冴えていたが、俺は肩を揉む。
    「三日かかるんだろう? 分担させていかないと」
    「その通りかもな。俺と交代で眠ろう」
     ぬ、とファントムが俺の背後に立つ。気づいてはいたがリアクションはしない。
    「ファントム……」
    「お前の教え子たちの腕も見てみたい。チェズレイ、今日は寝るといい」
     判断に困った時は起こすがな、と補足して、ファントムはまたパソコンに向かう。
    「……では、多数決に従いますかね」
     チェズレイは紅茶を飲み干して立ち上がる。シャワーを浴びに行くのだろう。
     目標達成。俺の心以外、パーフェクトだ。

     二日目の朝はでっかいサンドイッチを作ってやった。チェズレイの部下たちは喜んで食べたし、チェズレイ本人はナイフで切り刻んで小さくして食べた。俺と二人の時なら齧りついてくれるのに。モソモソと俺はサンドイッチを食べる。
    「ファントムは十時頃起きるそうです。今日も頑張りましょう」
     ファントムの分も食べにくいほど大きなサンドイッチを作り、ラップをかけておいてやった。

     俺、心狭いのかな。ファントムをまったく気にしていないようなチェズレイが気になってしまう。またチェズレイがファントムに心を許して、裏切られる事になりはしないか。食器を洗いながら、俺は考える。
     それもチェズレイの人生じゃないか。チェズレイがそれでもいいと思えば、何度だって傷ついていい、はずだ。一人の人間なのだから。
    「嫌だなあ……」
     俺はチェズレイがなんと言おうと、チェズレイに傷ついて欲しくないのだ。水で冷えた手で、額を冷やした。

    (一旦削除中です)

     ちょっと話をしないかと、俺はファントムを呼び出した。客間で二人きりになると、仮面から表情が抜け落ちる。
    「感情が無いんだっけ」
    「自己分析の限りだが、当事者意識が欠落している。よって、自分の内側から沸く感情を観測できない」
    「そっか」
     俺は椅子に腰掛けた。立ったままのファントムを見上げる。足を開いて、その間に手をついた。座面を握りしめる。
     言った。
    「そんなことってありえるのかい」
    「……どういう事だ」
     俺は身体から力を抜き、指で小さく文字を書く。ミカグラの字で「無」と書いた。
    「俺たちの信仰ではね。無欲、無我の境地っていうのは修行を重ねてほんの僅かな人間がたどり着けるものだ。そして、たどり着いた人間は足るを識る――欠けてることを欠けていると受け入れず、得たいと思う。それが感情でなくなんだって言うんだ」
    「……すまないね、信仰には疎いんだ」
    「じゃ、スパイのお仲間、忍者の言葉ならどうだい」
     俺は手の中に武器をイメージする。手裏剣を隠し持つイメージ。
    「忍者の攻撃は、仕留める技だ。相手の隙を狙って、隙を生ませて仕留める。この戦いかたで最強の攻撃ってわかるかい?」
     ファントムは顎を撫でる。無精髭が俺と似ていて、嫌だった。
    「……闘いを起こさない攻撃か」
    「そう。殺気ゼロで近づいて、そのまま終わらせる。この無我の境地もまた、修行の末に体得するものだ」
     言葉を区切る。ファントムはなるほど、と頷いた。
    「今のように殺気を出してしまうのは、修行中というわけだ」
    「まぁね。俺もまだまだ伸びしろがある。あいつのおかげで」
     俺は椅子から立ち上がる。ファントムの正面に立つ。 
    「無ってのは……俺たちが憧れて得ようとするものだ。無になり欲することを辞めれば、満たされるも同然だ」
     ファントムはなんの表情もない顔を、ただ俺に向けている。表情が無いだけだ。
    「その無が嫌いってのは、立派な感情をお持ちだね」


    「えっ? 終わった?」
     午後のおやつのビターチョコとお茶を持っていった俺は、チェズレイの口から意外な一言を聞くことができた。
    「終わりました。無事、暴動も最低限で治まり……」
    「三日かかるんじゃなかったのかい?」
    「予想より部下が優秀でして。かなり酷使しましたが、プランを大幅に短縮できました」
     へとへとの部下たちが手を俺に振っている。画面には手作りのフェイクニュースが映っていた。
    「ま、終わったならいいが……」
    「解散、だな」
     ファントムが伸びをして立ち上がる。その仕草は妙に人間臭い。
    「俺は少し観光でもしてから帰るよ」
    「まっすぐ帰って下さい」
     ファントムはちらりと俺を見る。
    「それから、チェズレイ。恋人の母国を守るためとはいえ、部下に無理をさせすぎるなよ」
    「それは」
     チェズレイが言葉を遮ろうとするのを無視してファントムは俺に語りかける。あくまでチェズレイへの言葉として。
    「ミカグラに戦禍が飛び火しないよう気付かうなんて、やはりお前は思っていたのと違う」
     チェズレイは目を細める。そして俺を睨みつけた。
    「思った通りの人間なんて、そう居ませんよ。そこのニンジャさんとかね」
    「確かにな」
     
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    ぱんつ二次元

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