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    浬-かいり-

    @Kairi_HLSY

    ガルパ⇒ハロハピの愛され末っ子な奥沢が好き。奥沢右固定。主食はかおみさ。
    プロセカ⇒今のところみずえなだけの予定。

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    みずえな

    #プロセカ
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    22時の来訪者たち 午後10時。朝比奈まふゆは、パソコンを開き大学に提出するレポートを書いていた。提出日まではまだ余裕があるけれど、先に済ませておけば作詞の時間も取れる。
     暫く集中していると、突然のインターホンがタイプ音を遮った。こんな時間に一体誰が訪ねてきたのか。宅急便も特に頼んではいない。
     確認しようと一度立ち上がったところで、机に置いてあったスマホが震えた。手に取って、たった今受信したメッセージを開く。


    『まふゆ、今家に居るでしょ』

    『開けて』


     送り主は、同じサークルのメンバーである東雲絵名からであった。まふゆは合点が行く。マンションに一人暮らしのまふゆの家に、こんな夜遅く突然訪れてくるなんて遠慮のないことが出来る知り合いは彼女くらいだ。
     こういう時の彼女はきっと折れないと分かりつつあったが、一応返事を送る。


    『どうして』

    『いいから、中入れて』


     やっぱり。まふゆは溜息を吐きながら、『わかった』と絵文字も無い素っ気ない一言を送って、エントランスの施錠を解除した。
     暫し待っていれば、再びインターホンの音。鍵を開けると同時、扉が勢いよく開かれる。訪ねてきた相手の顔を確認するより先に、まふゆに抱き着いてきた。飛びついてきた、の方が正しいかもしれない。


    「絵名、重い」


     まふゆは驚く訳でもなく、淡々とした口調でそう告げて絵名を引き剥がした。
     潤むチョコレート色の瞳が、まふゆを見上げて睨みつけた。これは面倒なことになるな、と睨まれながらそう予感する。


    「あんた、私がこんなに落ち込んでるのに慰めの一つも無いわけ!?」

    「慰めてもらいたかったら、私じゃない人のところへ行けば良かったと思う」


     それこそ彼女が懐いているサークルの作曲担当とか、中学時代からの親友とか。慰めて優しい言葉を掛けて欲しいのなら、もっと適任が居るように思う。
     それでも、絵名が夜に遠慮なく突撃してくるのは決まってまふゆの家だった。無関心過ぎて深く詰めてこないからとか家が近いからとか、色々理由はあるらしいがまふゆ本人からしたら迷惑な話だ。


    「今日はなに」

    「……瑞希と、喧嘩した」

    「早く謝りなよ」

    「なんで私が悪いの前提なわけ!?」


     納得のいっていない様子の絵名は、きゃんきゃん喚きながら家の中へ入っていき、ソファに倒れ込んだ。ウサギのクッションを抱き抱えてうずくまる。もう勝手知ったる家の様子だ。
     まふゆがそれを見て溜息を吐き——ただここで文句を言っても無駄なのでいつものように放っておくと決めて——パソコン横のスマホが震えた。先程自分にメッセージを送ってきた相手は今はソファを占領しているので、別の人からだろう。

     “暁山瑞希”。案の定、スマホを開けばそこには絵名の恋人であり同棲相手の名前があった。


    『まふゆ、ごめん。そっちに絵名来てない?』


     おおかた予想通りの内容。まふゆが絵名の方をちらりと一瞥すれば、絵名はうつぶせの姿勢のまま動かない。寝ているというより、拗ねているのだろう。
     視線をスマホの画面へと戻す。


    『来てるよ』

    『早く回収しに来て』


     続け様にそう送る。邪魔だから、と打たなかったのはせめてもの情けだ。流石に人の恋人に対して邪魔とはっきり言うほどの無神経さは持ち合わせていない。


    「もう!! 瑞希ってば本当信じらんない!!」

    「絵名、うるさい」


     やっぱり邪魔かもしれない。うるさい、と言われた絵名は八つ当たりのようにウサギのクッションをまふゆへ投げつけると、再びソファに顔を伏せた。ぼすん、と悲しげな音を立ててクッションが床に落ちる。
     この状態の絵名にどう声を掛けても怒るだろうということは、まふゆは今までの経験上分かっていた。絵名も機嫌が悪いし、自分は気の利いた言葉は掛けられないし。だからレポートの続きに戻ることにした。
     タイピング音だけが響く部屋の中、絵名は何も言ってこない。これもいつもと同じ流れだ。

     それから15分くらいだろうか。インターホンが鳴ったのでモニターを覗く。慌てた様子の瑞希が、息を切らしていた。


    「絵名」

    「…………」

    「瑞希、来たよ」

    「…………」


     返事はない。インターホン越しに「入っていいよ」と告げてロックを解除する。


    「ちょっと! なに勝手に開けて……!」

    「何も言ってこなかったのは絵名の方だよ」


     そもそも、ここはまふゆの家だ。来客を招くのも彼女の自由だろう。エントランスのロックを開けて玄関の鍵も開ければ、飛び込むように瑞希が中へ入ってきた。


    「ごめんまふゆ、お邪魔します!」

    「うん」


     慌てて靴を脱いだ瑞希が、どたどたとリビングのソファまで駆けていく。一応後を追えば、ソファに突っ伏す絵名の顔を覗き込むように、瑞希が膝を立てて座っていた。


    「絵名、迎えに来たよ。帰ろうよ」

    「……帰らない」

    「ごめんって、ボクが悪かったから。夜遅くに一人で出てくから心配したよ」

    「…………」


     小さい子を宥めるような優しい言葉掛けに、絵名がゆっくり顔を上げる。真っ赤になってしまった瞳が、瑞希を睨みつけた。怯まない瑞希が微笑みながら頭を撫でれば、絵名が小さく声を漏らす。


    「……私も、」

    「うん」

    「私も、ごめん」

    「……うんっ!」


     消え入りそうな声で紡がれた謝罪に、瑞希の顔がぱっと華やぐ。そのままぎゅっと抱き締めれば、絵名も遠慮がちに背中に手を回した。


    「終わったんなら帰って」


     何かなんだか分からないが、一応解決したっぽい。そう理解したまふゆは声を掛けることにした。まだレポートも残っているし、25時になればいつも通り作業を始めることになるだろう。
     流れを切られたことに絵名は気に入らない様子だったが、流石に遠慮が無さ過ぎた自覚があるのだろう。今はバツの悪そうな顔をして瑞希に手を引かれている。また何かあった時は避難所にされるのだろうけど。


    「本当にごめんね、まふゆ! また25時、ナイトコードで!」

    「……ごめん、今度何かお詫びするから」


     そんなことを言い残しつつ、二人が出て行って玄関のドアが閉まった。先程まで騒がしかった部屋の中は、今は元通りの静けさに包まれている。
     今はこんなことを言っているが、またどうせ同じことが起きるのだろう。瑞希も絵名も、毎回同じやりとりをしてよく飽きないものだと思う。それとも、そのやりとりすら楽しんでいるのだろうか。


    「……よくわからない」


     その呟きに反応して怒る声も、苦笑いする声も、もう今は無い。25時になるまでの、束の間の静けさだ。
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