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    蝋いし

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    蝋いし

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    ガスマリ(ワンドロ)、ジューンブライド

     ガストが部屋へ戻ると、リビングではマリオンがソファでくつろいでいた。
    「た、ただいまー……」
    「あぁ。なんだオマエ、外に出てたのか」
     マリオンはガストの手にしていた本屋の紙袋を見て言った。ガストの見る限り、マリオンに怒っている様子はない。まだ例の噂はマリオンの耳に入っていないようだ。
     詳細は省くが、事情があってガストは雑誌にウエディングドレス姿のマリオンと撮影した写真が載った。写真はマリオンだとわからないように撮られたが、わからなかったせいというのかどうか、その花嫁がガストの恋人ではないかと噂が立っている、らしかった。
     らしかった、というのはガストもつい先ほどその噂を聞いたばかりだからだ。ガストはジュニアからのメッセージで噂を知った。おおかた早耳のビリーがグレイに噂を教えて、A班三人でいたグレイがジュニアへ伝えたんだろう。ガストはジュニアと、ちょうどその記事についてやり取りをしているところだった。
     花嫁がマリオンだと知られていないとはいえ、噂はマリオンからすれば不名誉なことに違いなかった。何せ自分の部下と恋仲扱いだ。
     花嫁が当初の予定通りに女性モデルだったなら、写真についての噂は「ガストの演技が上手かったのだ」で済んだだろう。しかし写真の花嫁は撮影時、ガストにとってはっきりとマリオンだった。そのうえ改めて写真を確認したら、我ながら呆れるくらい本気で見惚れる表情をしていた。これではそんな噂が立ってもしょうがない、というレベルで。
     ガストは女の子が苦手だが、マリオン相手ならいつもの変な緊張は湧かない。緊張せずに向き合った相手が可愛いのだから、見惚れもする。ドレス姿でベールを被ったマリオンは、今思い出してもガストが見惚れるのは仕方のないくらい見事に花嫁だった。
     噂は遅かれ早かれマリオンの耳にも入るだろう。それなら、早めにガストから伝えてしまった方がよいのか。悩みながらガストはリビングのソファへ足を進めた。
     そうしたら、部屋の入口からジャクリーンの声がした。
    「お洗濯が終わったノ!」
    「ジャクリーン、走らないでクダサイ。マリオン、ガスト、乾いた洗濯物を持ってきマシタ」
     ジャックとジャクリーンが洗濯物を抱えてやってきた。
     二人が持ってきてくれたのは、昨日洗濯を頼んだ衣類だった。ジャクリーンは畳んだタオルを、ジャックは残りの入った洗濯カゴを手にしている。
    「ありがとう、ジャック、ジャクリーン」
    「あぁ、いつもありがとな」
     応えてガストはジャックから洗濯カゴを受け取った。
     ジャクリーンはマリオンへタオルを渡すようで、小走りでリビング奥のソファへ向かった。マリオンがタオルを受け取ろうと、しゃがんでジャクリーンを迎える。そうしたところで、ジャクリーンが何かに足を取られた。
     ガストが買ってきた雑誌の紙袋だ。ジャックからカゴを受け取るのに、ちょうど今いったん近くへ置いたのだった。
     ガストは洗濯カゴを手放し大慌てでジャクリーンを支えた。幸いにもジャクリーンはよろめく程度で済んだので、ひどく転ぶことにはならなかった。
    「ジャクリーン! 大丈夫か!? おいオマエ、リビングの床にものを置くなんて」
    「悪りィ!」
    「マリオン、怒らないでクダサイ。ジャクリーン、走らないで、と言ったデショウ」
     しょんぼりするジャクリーンにガストは繰り返し謝った。
     マリオンは落ち込んだジャクリーンを抱き寄せて、走るのはいけない、と静かに諭した。バカなヤツが床にものを置いていることがあるから、と。バカなヤツとは自分のことだなぁとガストは唇を引き結んだ。しかし申し訳なくて自身へ苦く思ったのも束の間、次の瞬間に苦さが意識の隅へいった。見やったマリオンの頭に白いタオルが掛かっていたからだ。
     ジャクリーンの手を離れた大判のタオルは広がって、しゃがんだマリオンの頭が受け止めていた。マリオンはジャクリーンが心配でタオルを避けるどころじゃなかったみたいだ。ガストにはマリオンの格好が、先月の撮影のときベールを被っていた姿と似て見えてしまった。
     さっきまでそのことで悩んでいたのだった。思い出したのと、撮影のときの記憶が相俟ってガストは心臓がドッと音をたてた。俯いて少しずり落ちたベール、ではなくてタオルがマリオンは少し邪魔そうだ。焦るままガストが取り去ってやる。
     片手でサッと取ってやればよかったのに、何故かガストは思わず両手が伸びた。それこそこのあいだ、マリオンのベールを上げた動作だ。変に自分の頬が熱いことで余計に気持ちが焦る。
     気づいたマリオンが怪訝そうにガストのことを見上げるので、ガストはなんでもない、と言葉と手振りでどうにか誤魔化した。
    「……なんだ、朝から大勢集まって。あぁ洗濯物か」
    「あっレンちゃま、おはようございますナノ!」
    「レン、もう朝なんて時間じゃないぞ」
     ジャクリーンとマリオンに言われて、レンは少し気まずそうにしながら自分の洗濯物を取りに来た。レン自身も今日は寝坊の自覚があるらしい。動作が妙なガストをちらりと見やったが、レンは特に何も言わなかった。
     レンはまだ少し寝惚け眼で、洗濯カゴから自分の服やタオルを取り出し始めた。ふと今気づいたように、ガストを振り向いて言う。
    「あの雑誌、今日発売だったんだな。アキラからメッセージが来て、着信で目が覚めた。いや、アキラからというか、ジュニアの代筆?だったんだが」
     アキラは機械音痴だ、そこは仕方がない。
    「お前、変な噂が立ってるんだな」
    「あ、あぁーっと、それは」
     ガストが止める間もなくマリオンが訊き返して、レンは噂を説明してしまった。
     写真の花嫁がガストの恋人だと思われている、とレンはマリオンにはっきり言った。マリオンの後ろでガストは冷や汗がとまらない。下手に何か言うよりマリオンのリアクションを待つ方がいい、と思うが口が勝手に開いてしまった。
    「え、えっと、ははっ、おかしな噂だよな! いやっでも別に、その、結局は噂だからな!」
    「そんな話になってるのか。ということは、やっぱりあれがボクだとバレなかったんだな」
    「あっ、あぁ、そう! そうだな!!」
     マリオンは少し誇らしげにふっと息をついた。
     ジャクリーンが話に挙がった写真を見たがったので、少し気持ちの落ち着いたガストはさっき買った雑誌をジャクリーンに開いてやった。ジャクリーンは写っているノースのメンバーそれぞれを格好良いとはしゃいで褒める。
     ジャクリーンがガストと花嫁の写真を指差した。
    「これも、マリオンちゃまナノ?」
    「そうだよ、内緒だ」
    「とっても素敵ナノ! ベールを被って、さっきのマリオンちゃまみたいナノ!」
     不思議そうにするマリオンを見て、ガストは腕に掛けていたさっきのタオルを咄嗟に身体の後ろへ隠した。隠したせいで余計にマリオンの視線が怪訝そうだ。隠さなきゃよかった。
    「うぐ……白状すると、さっきは俺もちょっと、ほんのちょっとだけ撮影のときみたいだなーって、思いました。不快にさせたなら悪かった! 怒らないでくれ!」
    「っ、別に、ボクは、そんなことで怒ったりしない」
    「マリオンちゃま、もう一回やってほしいノ!」
     ジャクリーンを前にマリオンは、ガストへの腹立たしさを抑えているようだった。オマエそんなこと思っていたのか、と気配が言っている。マリオンはガストから白いタオルをぶん取って、ヤケクソ気味でベール様に被った。
     マリオンだってやりたくてドレス姿を引き受けたわけではなかったのに、やっぱり悪いことをしてしまった。とガストは思うのにマリオンの格好を見れば、あのときのベールみたいだと考えてしまう自身の頭は単純だ。
    「おい、オマエは見るな」
    「え、なんで」
    「うるさい、黙れ!」
     見るなと言われれると余計に見たくなる。
     ガストはなんとかそちらを気にしないように自分の洗濯物を片付け始めたが、気づくと視線がマリオンの方を向いてしまっていた。マリオンの苛立ちにひやひやし始めたところで、ジャクリーンから写真のポーズの再現をねだられる。
     ジャクリーンのお願いは極力叶えてやりたいマリオンだ、ガストはマリオンの圧力にやられ、ねだられた写真の再現に応じた。
     ガストと向き合う格好になったマリオンは、ベール、もといタオルの下でガストをひどく睨み上げていた。これはジャクリーンたちが部屋を出ていったら、ガストは確実に鞭でしばかれる。わかっているのに胸は未だそわついていて、ガストは気持ちがいっぱいいっぱいだ。何が何やら。
     写真を撮ろうかと申し出たジャックの言葉に、「やめてくれ!」と言った二人の声が重なった。

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