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    蝋いし

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    蝋いし

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    ガスマリ(ワンドロ)、匂い

     ガストが土曜の、このくらいの時間に帰ると大抵マリオンが出迎えてくれる。ドクターはノース部屋にいたとして自室だし、レンはとっくに寝ている。
    「ただいまー」
    「ガスト、遅かっ……おい、なんだその匂い」
     マリオンはガストを向くなり不快そうな顔をした。
     今夜のガストは特に、酒やタバコの匂いがキツい店にいたわけではない。酒もタバコもやらないマリオンは、どちらの匂いも酷く嫌っている。だから自然とガストも身体に匂いが移りそうな店は避けていた。
    「えっ、俺なんかにおうか?」
    「におうから言ってる。さっさとシャワーを浴びてこい」
     ガストは慌ててシャワールームへ向かった。これ以上いたら鞭を振るわれそうだ。
     何の匂いかとガストは首をひねったが、脱衣所で着ていた服を脱いで思い当たった。弟分の香水だ。弟分のひとりが彼女に振られたと言い、ネガティブに興奮していてガストは繰り返し抱きついたり肩を組んだりされた。
     そのときに香水の匂いが服へ移ったんだろう。話を聞いてやるのに手いっぱいで、匂いのことなんて意識になかった。ジャックに頼む洗濯カゴへ服を落として、気をつけよう、とガストはひとり頷いた。

    -

     ガストはパトロール帰り、目についたものをときどきノース部屋へ土産に買うことがある。
     ちょっとした菓子だったり、調味料だったりいろいろだ。特に菓子は、研修チーム結成直後の今よりギスギスしていた時期でも、部屋へ置いておくとマリオンが手に取ってくれたのがガストは嬉しかった。猫のパッケージで甘くない菓子だとレンの手も伸びる。
     ガストは今日は、カフェで店頭販売していた焼き菓子を買った。甘そうなのと、レン向けにチーズやハーブで甘くないのを選んだ。別にガストがこういう菓子を好きというわけではないが、目に留まると「アイツら喜ぶかな」と買ってしまう。これならドクターのコーヒーにも合うだろう。
     焼きたてと聞いて、ガストは真っ直ぐタワーへ帰った。タワーへ着くころには冷めていようが、焼きたてという言葉には人を急かす力がある。
    「ただいまー。ドクターは、もういねぇか」
     パトロールが終わったばかりだから、戻ってまだ全員部屋にいるかと思っていたが。
    「アイツなら、研究の続きをするとか言ってラボへ戻った」
    「ははっ、ドクターらしいな」
    「サブスタンスの話ばかりうるさいから、あんなヤツいない方がマシだ。……? オマエ、何かいい匂いがする」
     鼻をすん、とさせてマリオンが言った。
     リビングの奥にいたレンもこっちを向いたので、ガストは買った焼き菓子をテーブルに広げた。土産だと伝えて、甘いのと甘くないのをより分けて見せる。
    「ふぅん。コレは、公園の先のところの店か。あそこのパンケーキは悪くない」
    「お、知ってたか。これとこれは甘くない種類だから、レンも食べてくれよ」
    「紅茶を淹れてやる」
     言ってマリオンはキッチンに向かった。戸棚から出した茶葉は、マリオンがご機嫌のとき振る舞ってくれるいい香りの茶葉だ。眺めてガストは、買ってきてよかった、と顔が緩んだ。
     しかしガストは、匂いでマリオンが土産に気づくと思わなかった。言い出す前に気づかれて困ったわけでもないが、冷めた焼き菓子に対するリアクションとして単に意外だった。
     猫カフェから帰ったら自宅の猫にやたらと匂いをかがれて戸惑った、というのを何故かガストは思い出した。前にレンが見せてくれた写真付きの記事だ。
     マリオンが猫みたいだと言ったら、ガストは怒られるんだろう。それとも、嗅覚も凡人とは違うのだとマリオンは得意顔をするだろうか。考えている間に、紅茶のいい香りがキッチンから漂い始める。

    -

     一緒にシャワーを浴びて、バスローブに身を包みガストとマリオンは広いベッドでくつろいでいた。
     マリオンはスマホを枕わきへ戻した。着信があったようだが、ノヴァ博士やジャクリーンたちじゃなかったみたいだ。もし家族からの連絡だったら、マリオンはいそいそとすぐに返信する。
     ガストはマリオンの正面へ身を寄せた。そうして座るマリオンの腰を抱きしめる。
    「マリオン、明日は茶葉が買いたいとか言ってたか?」
    「あぁ。気に入ってる茶葉がこのあいだ切れた。あとはノヴァのラボに置くお茶請けが欲しい。帰りにでも、公園のところの店で」
     先日ガストが焼き菓子を買ったカフェだろう。思い出すガストの胸にマリオンがとん、と額を当てた。猫が甘えてする頭突きみたいだと思ったが、口にはしないでおく。
     そのまま顔を上げたマリオンは、ガストを引き寄せるとガストのうなじへ顔を寄せた。
    「うん? あぁ、今はマリオンと同じ匂いだろ。ここのソープ、いい匂いだよな」
    「……そうだな」
     なんだ、今の間。
    「あー、あんまりマリオンの好みじゃなかったか?」
    「そんなことはないけど。ただ、オマエの匂いが少し、遠い感じがする」
     マリオンの鼻がガストの耳の下あたりをくすぐった。
     ガストの匂いとは何だろうか。まさかいつもにおうのか? でも敢えてマリオンがかごうとしているなら、嫌われてはいないと思ってよいのか。
     ガストが困っているあいだに、マリオンは息をついた。
    「ときどき、オマエがいつもと違う匂いをさせているのは好きじゃない。変な香水とか。お菓子の匂いなら、まぁいいけど」
    「お、おぉ、そっか。ひょっとしてマリオン、俺の匂い好きなのか?」
     ガストを突き飛ばしたマリオンは頬が真っ赤だった。
     そんなわけないとマリオンは慌てた調子で言うが、この様子は照れているときのマリオンだ。恋人の匂いが好き、と表すとたしかにちょっと照れが湧くかもしれない。
     突き飛ばされたが、ガストはめげずにマリオンを抱き直した。腕の中のマリオンはまだむっとした気配だが、ガストが再び押しやられることはなかった。少しほっとする。
     マリオンは気を取り直したみたいに、ガストの胸へ顔をうずめた。匂いをかがれているだろうか。取りあえず、嬉しくて緩みきってしまった顔をガストが鞭で打たれる心配はなさそうだ。
     ガストは胸元の華奢な肩を抱いた。マリオンのするままさせて、ガストは指でマリオンの髪を梳いてやった。

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