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    蝋いし

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    蝋いし

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    ガスマリ(ワンドロ)、制服

     小さい頃から家の付き合いで、正装というほどでなくともその年齢にしては気取った格好をする機会が多かった。多かったので、ポケットチーフだの各種タイだの小物の扱い方に困ったことはない。
    「オマエはいつも制服の着方がだらしないんだ。ネクタイだって、きちんと締めろ」
    「えぇー、息苦しいんだよなぁ」
     ガストとマリオンのやり取りをノヴァ博士がニコニコして眺めている。
     武器のメンテナンスでガストがラボへ来たところ、またちょうどマリオンがノヴァ博士を訪ねてやって来た。マリオンはおいしそうな茶菓子を博士へ買ったのだと言う。ノヴァ博士は今回もガストの分まで飲み物を淹れてくれた。良い匂いのする紅茶だ。
     マリオンは不服そうにするも、ノヴァ博士がガストを歓迎しているので普段ほどガストへの当たりも強くない。ガストは博士に勧められるまま茶菓子に手を伸ばしていた。
     そうして三人で雑談するうち、ガストの普段の身なりの話になった。
    「制服って、やっぱ肩が凝るんだよ。だから首周りくらい解放感がほしいというか」
    「ノースセクターのヒーローがだらしなくしていていいワケがないだろ」
     ガストを睨みつけてマリオンは言った。だらしなさでいったら、ノヴァ博士の方がよっぽどだろうに。ノヴァ博士はマリオンの育ての親だと聞いているが、この親から如何にしてマリオンのこの気質が育まれたものかガストは不思議だ。
     といっても、ヒーローとして街に出るガストと、ラボでヒーローのサポートにあたるノヴァ博士とでは立場が違うことはガストも理解している。
    「つってもなぁ、俺はもうこれで長いこと過ごしてるし」
    「頑なだな。もしかしてオマエ、ネクタイの締め方がわからないのか?」
     と、言うマリオンは何故か得意げだ。
     まさか、とガストは答えてやる前に、マリオンの得意顔が気になってしまったのだ。そのうちに「ボクは教わらなくてもできた」「慣れていないなら鏡を見て練習するといい」などマリオンはガストにアドバイスした。
     マリオンの機嫌を損ねても何なので、ガストは笑って紅茶のカップを傾ける。
    「締め方がわからないなら、メンターとして教えてやってもいいけど」
     ガストは飲みかけていた紅茶を小さく噎せた。
     水没したノースでの観光案内以来、マリオンはガストのこともメンターとして指導することが増えた。優しい態度になったのでこそないが、街中・スタジアムの戦闘それぞれの立ち回りや、トレーニングする上でのポイントなどマリオンはガストにもアドバイスしてくれるようになった。
     マリオンは、ノヴァ博士やレンへの態度を見るに決して面倒見が悪いわけじゃないのだ。それがこちらへも向くのが、ガストはむずがゆくももちろん嫌ではなかった。
     が、ネクタイの結び方なんて、そんなところまで気に掛けられるとは思わない。
    「おい、こぼすな」
    「っ、いや! 別に俺、締め方がわからねぇワケじゃ」
    「強がりを言うなよ」
     マリオンは女王様の顔をして、ネクタイを引きガストをマリオンの方へ向かせた。
     止めてくれ!のつもりでガストはノヴァ博士へ視線をやったが、博士は微笑ましくガストらを見つめるばかりだ。仲よく遊んでいるようにでも見えているだろうか。マリオンは得意げにガストへ顔を寄せて、ネクタイの結び目を解いてしまった。焦って妙な具合にガストの心臓が跳ねる。
     いやいや、何を焦ることもないはずだ。マリオンが教えてくれると言うなら、ガストは知らなかったことにしてマリオンにネクタイを締めてもらえばいい話だ。
     何を狼狽えることがある、と自身へ言い聞かせる間に、襟へ触れるマリオンの指でガストはドキドキした。マリオンはネクタイを交差する前に、ムッとした顔でガストのシャツのボタンを留めた。
    「長さは左右このくらい」
    「お、おぉ、うん」
    「短い方は位置を留めて、こう、形を整えながら」
     伏せた睫毛で影ができていることに気づき、ガストはマリオンの顔から目を離すことができなくなった。
     マリオンの説明に上の空で返事する。鞭で打たれる恐怖とか痛みとかへのドキドキとは明らかに違う感覚だ。マリオンの指を解いてネクタイを取り上げ、ここから逃げてしまいたい、よりも屈み寄る華奢な身体を抱き込んでもいいだろうか、とガストは思い浮かんでいた。
     ノヴァ博士がカップをソーサーへ置いた音で、ガストははっと我に返った。同時に、マリオンの指がずいぶん長いこと、ガストのネクタイを引いていたことに気づいた。
    「へ? マリオン?」
    「うるさい、ボクを急かすな」
    「マリオン。人のをやってあげるときは、後ろからの方が自分でつけるみたいに締めてあげられるよ」
    「……あ。そう、だな」
     椅子から立ち上がったマリオンはガストの背後へ立った。
     マリオンは途中まで締めていたネクタイを仕切り直すみたいに解いた。そしてわざとらしく堅い声で締め方の説明をした。教えてやっているのだから感謝しろ、他のことは考えるなとまるで言っている声音だった。
    「あとは、形を整えながら結ぶ。ほら、いつもこうしろ」
    「わぁマリオン、上手にできたねぇ」
    「当然だ」
     とん、とマリオンの手がガストの胸元を叩く。
     結び目は首元なのでガストには見えないが、いつものマリオンの首元と同じように締まっているんだろう。マリオンの手が離れていってほっとするような、惜しいような。ない交ぜの気持ちのままガストは笑った。
    「あ、あぁ、さすがマリオンだな。向き合って締めるのは難しかったみたいだけど――」
     自分のを締めるのと同じ向きなら、こんなに早く綺麗にできるんだな。とガストが続ける前に「は?」とマリオンが声をあげた。声音に怒りを感じる。
    「なんだ、オマエ、ボクが最初の向きじゃできなかったって言うのか」
    「言ってねぇよ!? いっ、いまは休憩の、お茶会中だろ! 鞭はしまえって!!」
    「あっ、マリオーン、ダメだよ。抑えて抑えて」
     博士、止めるならもっとちゃんと止めてくれ。
     ノヴァ博士は「あぁ」と痛ましく感じているみたいな声を漏らした。漏らしたものの、指に抓んでいた茶菓子をぱくんと口に挟んだ。空いた手でガストとマリオンのカップをテーブルの中央辺りまで引っ張り寄せる。たぶん、ひっくり返されないようにするためだ。
     ガストはマリオンの睫毛の影に感じていたのとは、別の感覚で胸がドキドキしだした。さっと立ち上がってマリオンに向き合い、構えながら自分の首元へ手を伸ばす。
     緊張からだけでなく、息苦しい。ガストは無意識にネクタイを引っ張り弛めていた。ボタンもいつも通りに外す。
     その途端、マリオンの鞭がガストを打ちつけたのだった。

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