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    メイビス

    @kisaragi__rin

    メイビスです。R指定作品や読む人を選ぶ話を載せる予定。

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    メイビス

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    玲王誕に書いたお話、超特急品なのでそのうち書き直すかもです。
    玲王の誕生日をチムレに奪われて旅行に置いてかれる凪くんのお話、鹿児島旅行編。

    #凪玲

    玲王誕 高二の春に玲王と出逢ってから、玲王の誕生日を二人で過ごすのは凪にとって当たり前のことになっていた。
     だからその投稿を見た時、ようやく凪は自分の勘違いに気がついたのだ。
     玲王のそばに居ることは当たり前でもなんでもない、玲王自身が与えてくれていた特権だったのだと。

    『千切と國神と一緒に縄文杉! 往復十二時間の登山はいいトレーニングになったな!』

     樹齢七千二百年ともいわれる世界自然遺産をバックに満面の笑みを浮かべる凪のパートナー。両隣をお嬢ときんに君に挟まれて、なんとも楽しそうな表情だこと。
     これが他の人間、例えば潔とかだったなら凪も文句を言えたけれど、ライバルリーの時に玲王の傍に居てくれた二人には強く出られない。二人が玲王にとって大切な友人であることをよくよく知っているからだ。
     全ては今までの習慣と玲王からの能動にかまけて約束を怠った凪の失態だった。毎年玲王が全ての予定を決めていて、連絡の通りに動けばよかったものだから。そんな受け身だから旅行に置いていかれることになるのだ。
     今日の日付は八月十一日。時刻は二十三時四十分。玲王の誕生日まであと二十分。
     こんなことなら前もって今年の予定を聞いておくか、自分からエスコートすればよかった。どんなに嘆いても現実は変わらない。玲王たちは千切の地元にある屋久島にいたし、凪は実家の神奈川のベッドにいる。
     芋焼酎の三岳を抱えてご満悦の千切に肩を組まれている玲王の写真を撮っているのは國神だろう。他にもレンタカーを運転する國神や浴衣で雑魚寝しようとしている写真などがSNSにあがっていた。
    「いやなんで、俺置いてかれてるの……」
     眺めているうちにまたふつふつと複雑な感情が湧き上がってきた。
     そりゃあの三人の仲の良さはわかってるから邪魔できないなとは思うけどさ。飲み会だって俺が混ざることもあるけれど、三人だけで飲みに行くことも多いし。
     でもなにも玲王の誕生日に、俺のこと置いていくことはないんじゃない?
     ずーっと受け身だったことも自業自得なことも旅行なんてしたくないインドア派なことも全部棚に上げたもやもやが募っていく。
     やっぱり我慢がならなくなって、気がついた時には通話ボタンを押していた。



     ブーブーと畳の上に転がったスマホが着信を告げる。震えているのは焼酎の瓶を抱えたままの千切のものだ。
    「おい、千切。電話鳴ってるぞ」
    「んー、うわ、こいつ俺にかけてきやがった」
     敷布団を整えつつ指摘する國神に生返事をした千切がうげっと顔を顰める。相手は誰だと思う前にスピーカーモードにした千切が通話ボタンを押した。
    『ねぇお嬢、なんで玲王連れてっちゃうの』
     スマホから流れ落ちる心底不機嫌そうな、それでいて不貞腐れた声。凪のこんな声聞いたことなくて、一瞬別人かと思った。
     國神と俺に静かにしていろと目配せした千切が平然とした顔で答える。
    「なんだよ、俺らが玲王と旅行してなにか悪いのか?」
    『悪くはないけど……でも、なんで今なの』
    「そりゃ俺たちだって玲王の誕生日を祝いたいからに決まってるだろ。毎年毎年あいつのこと独り占めしやがって。一年くらい譲ってくれたっていいだろ」
     へぇ、千切ってそんなこと思ってたのか。
     凪が独り占めっていうか俺が凪と一緒にいたくて勝手に予定奪ってただけなんだけどな。あいつが拒否しないから毎年恒例のようになっていただけだ。
     でも今年はこいつらが誘ってくれたから、たまにはチームレッドの時の三人で過ごすのもいいかななんて思って了承した。凪も誘うか迷ったけれど、三人で飲んだ時にトントン拍子で宿までとってしまったからそのままになっていたのだ。
     それにあいつは元々家でダラダラとゲームをするのが好きな人間だから、山登りなんて絶対に興味無いだろうと思ったのも誘わなかった理由の一つだった。興味無いどころかやりたくないものトップにランクインしてるに違いない。
     毎年ほぼ強制で凪を付き合わせてしまっていたものだから、今年くらいは凪を自由にしようと少しだけ名残惜しい気持ちに蓋をして、誕生日にメッセージだけでも貰えたらいいななんて思っていたのだ。
     実際ハイレベルの登山は面白かったし、國神の運転で島を一周するのも楽しかった。宿もせっかくだからと三人一部屋でとって、川の字になって寝ようと布団も敷いている。明日は俺が行きたいと希望していた島に行く予定だし、この旅行のプランに不満なんてひとつもない。
     ない、のだけど凪の声を聞くとどうしたって会いたい気持ちが生まれてしまう。相棒へ向ける感情としては湿度と質量がおかしいことはとうに自覚していた。
    「つか俺じゃなくて玲王に言えよ。誕生日一緒に過ごしたかった〜ってさ。こっちに文句言うのは違ぇだろ」
    『だって……玲王はお嬢と國神のこと好きだし。すごく楽しそうだったから邪魔したくないし……誘われなかったってことは俺よりも二人と一緒に居たかったってことでしょ。俺は玲王のものだけど、玲王は俺のものじゃない、玲王に文句なんて言えないよ』
     凪の声がしおしお萎んで消え入りそうになっていく。それに反比例するように俺の頬は紅潮していった。冷房はしっかり聞いているはずなのに暑くてたまらない。
     凪のやつ、俺の誕生日を一緒に過ごすの楽しみにしてくれてたのか。そんな素振り、今まで見せなかったくせに。
    「玲王に直接言えないからって俺に八つ当たりするのはいいのかよ」
    『千切が俺のこと誘ってくれたら解決したことじゃん』
    「俺が屋久島の縄文杉トレッキングしようって言ってもお前絶対来ないだろ」
    『玲王の誕生日に一緒に居られるならなんだってするよ。サッカーだって最初は好きじゃなかったけど玲王がいるから始めた男だよ、俺』
     國神と千切のこちらを見る視線がいたたまれない。耳まで真っ赤な自覚があった。
    「そもそもお前が自分から先に動かないから俺らに奪われるんだろ。そんなに玲王のことが好きならちゃんと行動しろ、言葉にしろ。じゃなきゃ玲王には伝わんねぇぞ」
    『……それはすごく反省してる。玲王が俺と一緒にいてくれるのは当たり前じゃないって、置いてかれて身に染みたから。能動って面倒くさくても大事なの、サッカーと一緒だね』
    「ははっ、そこでサッカーが出てくるならお前もとっくにサッカー馬鹿だよ」
     なぁ玲王、と千切が突然こちらに水を向ける。思わず間抜けな声が出て、訝しげな凪の声がスピーカーから零れ落ちた。
    『……玲王? え、もしかしてこれずっとスピーカーだったわけ?』
    「あー、まぁ、実はそう……」
     盗み聞きしていたようで何となく座りが悪い。國神が「うちのお嬢様が悪いな」と告げていて、二人の姿が出不精の凪を飲みの席に引っ張り出す自分たちに重なる。今ここに凪がいない寂しさが吹き出すように湧き上がってきた。
    「……凪、なぁぎ、俺の誕生日祝ってくれるつもりだったのか?」
    『だって、毎年そうだったじゃん。だから今年もそうだって思って、慢心してただけ。……玲王は悪くないよ、俺のせい。でも悔しいから来年の誕生日は予約させてね』
     そんなの、来年だけと言わず再来年も翌年も、これからずっとお前のために空けておくよ。そんな風に言ったら重いと言われてしまいそうで、楽しみにしてると答えた。少なくとも来年は凪とまた過ごせるらしい。
    『玲王、お誕生日おめでとう。旅行楽しんでね』
     ふわり、慈愛のこもった祝いの言葉に日付が変わったことを知る。距離は離れているけれど、間違いなく一番乗りの言祝ぎだった。
     先を越されたと言わんばかりに千切と國神にわしゃりと頭を撫でられて、二人からもおめでとうと祝われる。
    「あーあ、結局玲王に関して凪には勝てないのかよ。ま、しょうがないか。おい凪、今日俺らは玲王が行きたいって言ってた所に行くからな。もし来たかったら着いてきていーぞ」
    「え、ちょ、千切!」
    「県内ってこと以外にヒントはなし、お前の玲王への愛を試してみろよ」
     いやいや鹿児島県だけで他にヒントなしなんて流石に無理があるだろ。つか愛ってなんだよ、相棒愛ってことか?
     色々と混乱しつつも凪に行き先を伝えようとしたのを見越されて、國神に口を塞がれる。本人は困り顔だったので千切の指示なのはわかっているけれど、なら従うなよなと悪態をつきたくなった。通話口の声がすうっと低くなる。
    『……いいよ、玲王のこと絶対見つけるから。待っててね、レオ』








    「……まじか」
    「玲王との会話なら全部覚えてるからね」
     相変わらず動かない表情筋に相対する俺の顔は驚愕の一言に尽きるだろう。もしかしたら歓喜の感情も滲み出てるかもしれない。
     手がかりなんてひとつもないのに種子島宇宙センターに現れた凪は実物のロケットを背景に「前に宇宙旅行したいって言ってたでしょ。いつか一緒に行こうね、約束」と告げて微笑んだ。
     凪が追いかけてきてくれたことが、些細な会話を覚えていてくれたことが、未来の約束をくれたことが、最高の誕生日プレゼントだった。
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