カーテンの隙間から朝の光が差し込む。
　瞼越しに明るい光を浴びて眠りのふちから呼び起された。
　まだぼんやりとした意識にまどろみながらうっすらと目を開ける。
「んっ……」
「れお、おはよう。よく寝れた？」
　耳に馴染んだ声がいつもよりとろりと甘い。
　温めた蜂蜜がじわりと溶け出すような声音に、パチリと目が覚める。
　目を丸くした玲王の視界に、茫洋とした凪が入り込んだ。
「体大丈夫？　昨日は抱き潰しちゃってごめんね」
　傍から見るとちっとも申し訳ないと思っていなさそうな無表情だけれど、玲王にはその瞳の奥に心配そうな翳りが見えた。慮る言葉はあまりにも普段の凪と離れていて、戸惑いが隠せない玲王の顔がかぁっと熱を帯びる。
「えっ、な……」
　健康的な色の肌に、さっと朱が散った。耳まで赤く染まった玲王を見て、ふっと凪の目元が和らぐ。近しい者しかわからないくらいの変化だけれど、確かに凪は笑っていた。
「はじめてみたけど、玲王の寝顔かわいいね。おれ明日から早起き頑張ってみようかな」
　のっそりと身体を起こした凪は、何も身に着けていない。
　綺麗な筋肉のついた身体は抜けるように白く、朝の光も弾きそうだ。
　出会った頃はガリガリで、筋肉なんて欠片もなくて腕も腹もふよふよと柔らかかったのに、今では玲王よりよほどしっかりした体つきになっている。玲王は骨格の関係でどうしても肉が付きにくいから、凪との体格差は上背以上に開くばかりだ。
「……お、おぉ。そうだな。いいんじゃねーの？　早起きは三文の徳って言うしな！」
　猫背気味の背中に走る真新しい傷跡にぎょっとして目をそらしつつ、しどろもどろに言葉を返す。自分でも何を口走っているのかわからないけれど、ただ沈黙が怖くて何かを口にしていたかった。
　薄い桜色の蚯蚓腫れは、玲王がつけた傷跡だ。爪はきちんと摘んでいるはずなのに、あんな風に残ってしまうのか。爪を立てられた瞬間はさぞかし痛かっただろうと思うと申し訳なさも滲む。
「レオ、少し喉が嗄れてる？　ちょっと待ってて」
　するりとベッドから抜け出た凪が、きょろきょろとあたりを見回してその辺に放り投げられていたスウェットパンツを拾い上げる。億劫そうに履いてキッチンへ向かう後姿を見送りながら、玲王は凪が戻ってくる前にこの火照った顔をどうにかしようと四苦八苦していた。結局どうにもならず、戻ってきそうな足音が聞こえた途端、布団の中に潜り込む。でも、悪手だったかもしれない。凪の部屋の布団の中は、当たり前のことだけれど凪の匂いがして何も落ち着かず、心をざわめかせるばかりだ。