雨の日と二匹の犬 スーツケース内の一角。窓の外ではしとしとと小雨が降る音が心地よい。部屋の隅には白黒のボーダーコリーが自分専用のベッドに座り哲学書を前足で弄んでいる。その姿はまるで読書により新たな知識を求める哲学者のようだ。
「おはよう、ピクルス」
ヴェルティは彼の側に近付き、目線を合わせるように屈むと挨拶をする。それに応えるかのように白黒のボーダーコリーは顔を上げると短く声をあげた。
『おはよう愛しい人。頭を撫でてほしい』
そう犬は言っています。有能な翻訳機は彼の言葉を代弁する。
「頭? いいよ」
ヴェルティは右手を差し出し彼の頭にそれを近づける。もう少しでふわふわの毛並みに触れるというところでピクルスは頭を傾けそれを回避した。彼の表情はまるで読書の邪魔をしないでくれとでも訴えているかのようだ。
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