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    はるはる

    デジタル初心者

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    はるはる

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    ゴダルカ自陣の妄想を更に魔女の窯でイーッヒッヒッした代物。
    毒を飲み慣れたアルカナしか読めません。

    自陣《愚者》《女帝》の三次創作要素あります。世界観などの妄想あります。殺さないでください。

    祈りは虚空へ消えた 機関研修所では、12歳から15歳のアルカナ適正者や機関員への登用を希望するこどもたちの専門教育を行っている。
     15歳になったマリオン・ハイタワーは16歳のアルカナ・部隊長着任を前に、顔見せを兼ねた院外研修を各地で行っていた。
     実際の戦線に出ることはないが、戦闘訓練、特殊施設や戦場の見学に加え、座学を行うこともある。訪問先によってはアルカナたちも命を賭けた戦いの合間に対応するため、極々短期間で終わることもある。教育科目の判断は各アルカナと研修生本人に任せられる。

     ファーノース北方の厳しい土地柄と、それに負けてられないというようにひらかれた華やかな歓楽街。限られた山道を素早く通過するために工夫された組織力。土地の条件の悪さは《塔》区画もそうだ。しかし、《隠者》区画とは狭く、海沿いとはいえ、平地での交通が可能だ。泣き言を言ってられないと感じた。
     そんな環境下でも、ファーノースの者たちは強く結び付いて連帯しているように見える。何とか全員で集まって宴会を開いてくれたのはこの地方だけだ。寒さに負けない人の温もりがあった。

     同じレイクランドの仲間たちには、先輩であるランチョルやルナベルがいる。昔話をしたり、実際の内務処理に関する書類を学んだり、穏やかな時間を過ごした。
     ガブエルとミネルヴァはどちらも個性的な人物だが、研修内容はむしろランチョルやルナベルよりも手抜きが無かった。ほのぼのとした表情から繰り出されるガブエルの課題とミネルヴァの剣撃に圧倒された。

     ウエスト・フォートは、神話激戦区については常に非常事態宣言を喰らっているようなものなので、研修員は《正義》区画までしか行けない。その先で覚悟を決めて住み続けている人々に敬意を抱いた。
     《正義》を務めるカロク・ミナヅキは、その名が示す通り東洋人の血筋だ。ルナベルと同様に、芯の強い女性である。この区画には初代正義が蒐集した知的財産が多く残る。元の世界に思いを馳せた。また、《魔術師》や《恋人》が司る工業プラントにも圧倒された。余裕があれば、《塔》でも何か生産できないか考えてみようと心のメモに付箋を貼った。

     イースト・ロンドンの《女教皇》・《教皇》の区画には、農業用地下プラント「ヘンリエッタの庭」や、そこを中心とした農業地帯がある。マリオンが楽しみにしていた見学先のひとつだ。もちろん地上でも農業は営まれているが、質がいいとは言えないし、生きるのに必死な野生生物や、時折襲来する神話生物に荒らされることがある。様々な農作物が、美しい状態で芽を出し、苗となっていく。これを元手としてロンドンの農業は成り立っている。感謝の念を抱いた。
     次いで《運命の輪》や《戦車》区画にある港や遠征隊施設、研究施設の見学を経て、最後、《愚者》区画へと至る。何故かというと、《愚者》区画には元の世界で『イギリス』の首都だった本物の『ロンドン』があるからだ。廃墟からあるものだけでもと修復された大英博物館や大英図書館が存在する。遠征隊が持ち帰ったものを検分する作業はここでも行われるそうだ。
     残された主要建築については、純粋な観光に近い。限られた建材で再現されたロンドン塔や、バッキンガム宮殿。ロンドン・ウォールと呼ばれた瓦礫。最後まで足掻いたイギリスという国の、首都のいまだ威容ある街並みである。
     ただし、それらの遊覧は座学が終わってからである。しかしながら、マリオンは今、歴史書曰く大火や戦争をして再建され、世界の終わりを迎えてもまた修復された誇り高きセントポール大聖堂の屋根にいた。


     本来、アルカナというものは内政に関与しない。軍事組織の一員に過ぎない。区画運営を担うのは機関室長率いる上層部の貴族たちである。しかし《愚者》は周りの区画が遠征や研究に特化していることもあり、一番柔軟な状況判断力を求められるため、政務者との連携も欠かせない。常に区画内外の戦線や内政状況を把握し、補助を行うのが常となっていた。
     《塔》やファーノースの区画は理由は違えど似たようなものだ。自分は戦闘員だから、という考えだけでは成り立たない。
     旧カーライルロードを境とした我が《塔》の区画において、大動脈となる道はあれど、アイルランドから神話生物の襲来が数多くあるため、配給品がそのまま無事に支給されるとは限らない。
     そのため、《塔》北部や山間部での飢餓はそれなりに存在する。《世界》の拠点都市であるグラスゴーが地続きではあるが、あちらもキンタイア半島など物資や戦力を十全に届けるには難が多く、また、同じファーノース地方の仲間であり、山と島で構成されている、《塔》よりも余程地理的条件の悪い《節制》の援助も必要だ。助けを求めるなんて烏滸がましかった。
     政務官たちもそれを踏まえて対策は講じているが、結局のところ必要なのは武力だ。故に、《塔》の歴代着任者は──そしてマリオンもまた、自然と内政の意識と責任を負っていた。
     なので、《愚者》の政治に関する知識や意見交換は楽しかったのだ。が、マリオンは次に示された課題を見て逃走した。

    ──チームワークとグリーフケアについて。

     当代のアルカナは新しいアルカナの来歴をごく簡単に説明される。《愚者》の当代はそれ以上に、先代についてよく知っていた。共に任期を同じくした期間があったからである。
     アルカナ死亡率の高さは神話激戦区・ファーノース北方に並んで《塔》も顕著だ。神話生物との衝突の多さにどうしても比例してしまう。アイルランドに防衛拠点を前進させる悲願もあり、プレッシャーを感じる《塔》はそれなりに存在した。
     新しく顔見せに来たマリオンは割り切ってまずは足元を固めるつもりであると、そのことは然程気にはしていないようだ。それがいいだろう。本来ならたった一つの区画に任される事業としては重すぎる。しかし、先代は真面目な気質であるため、亡くなる少し前まではかなり計画を練っていたようだ。
     《塔》先代は、この研修員・マリオンの養父である。報告書には簡単な記載しかなかったが、個人的な調査により「弟の死を迎えて様子がおかしくなり、その後養女の目前で自死。」という情報を得ている。彼女が機関入りする上で、アルカナ適正者でもなければ放逐もあり得たほど、かなり反抗的であった事実も記載されてあった。
     グリーフケアのやり方について学んでいる彼女の姿勢は問題がなかったが、自身の経験について問われた途端に、マリオンは素早く席を立ったかと思うと、転身し、逃走した。逃げ慣れている。唖然とした《愚者》の元に、配属されたばかりのアルガス=コギーがやってきた。

    「今、研修生が……廊下に出たかと思ったら窓から…豪快に飛び出して行ったんですが…」
    「申し訳ないが、探してきて欲しい」

     その渋面から、彼があの娘が逃走を図ったのでは?と直感していることがありありと見て取れた。
     捜索を命じると、「ややこしいことに巻き込まれたぞ。」という表情が隠しきれずに漏れ出る。素直な了解の返事とはうらはら、ちくはぐの態度に笑ってはいけないと知りつつ、「窓からか…。」と呟いて思わず口の端を上げてしまった。


     アルガス=コギーは先程の少女が研修生であるということしか知らない。少し前に研修に来た。施設見学に連れていくのは新人隊員たちの役割であったため、彼もまた帯同した。言葉は交わしたが、簡単な質疑応答だ。教育中に逃走するタイプには見えない、というか、どちらかというと真面目な人物に見えていた。

    (厄介だな…建物が多い。どこへ逃げ込んだかわからない。)

     キョロキョロと小一時間街中を走っていると、さすがのアルガスも息が上がってくる。これって本当に俺の仕事なのか? ぜぇぜぇと息を整え汗を拭っていると、ぽん、と肩を叩かれた。
     振り向くと、とてつもない美少女がいた。機関員の制服を着ているから、身内の人間なのだろう。研修生のマリオンと然程年齢が変わらないように見えるし、華奢なタイプであるのは確かなのに、妙に迫力と圧がある。

    「あれは、高いところを好むぞ。」
    「は…あれ? あれって、」

     突然訳知り顔で話し掛けてくるから、内容に追い付けない。

    「そうだな…このオールド・ロンドンなら、セントポール大聖堂のドームの上だろう。あそこの屋根は独特だからな。マリオンには、ルナベルが戻れと言っていた、と伝えれば良い。」
    「えぇ…?」

     マリオン、と名が出てきてようやく合点がいく。あの研修生の行き先についての話題だったのだ。しかし…「大聖堂の屋根の上」? 人間の話をしているんだよな? と訝しむ。
     ふふ、と笑みを浮かべると、「まあ、他にあてがあるのでなければ、行ってみるといい。」とこちらの疑心を見透かしたかのようなことを言う。そして軽やかな足取りで、連れであろう隊員たちと共に街並みに消えていった。……進む先々で人々が振り返り、中には膝をついて五体投地するものもいる。とてつもなく不思議な光景だった。
     しかし、大聖堂の屋根…。さすがにな、と思いつつ、他に情報も無いため賭けだと思って従ってみる。窓から飛び出して逃走する少女だ。もしかしたらそういうことも…「………本当にあるのかよ」。遠目に、明らかに人がいるはずのないところに、人影らしきものが見える。相当の高さなはずだ、自殺願望でもあるのか。
     大聖堂は再建の折、仕様を出来るだけ保ったまま復元している。内部から狭い階段や通路を抜け、螺旋階段を登る。ひたすら上がり続けるだけでもなかなかなのだが、マリオンは回廊の、そのまた上のランタン部分の外壁に腰掛けていた。

    「あんた…いや、君、マリオン、マリオン・ハイタワーですね?」

     呆れて年上の体裁を忘れかけた。どうやら気にかけていないようだが、彼女は未来が決まった正統なアルカナ継承者だ。年下とはいえ、すぐに自分より格上の身分を得る人物には丁寧に話し掛けておくに越したことはない。
     こちらに視線を向けられて、目がしっかりと合う。先日の見学中には見せなかった、荒涼とした眼差しだった。人が違ったかと思う程で、思わずどきりとする。

    「────あ──、えっと、ごめんなさい。」

     しかし、その気配は一瞬で何事もなかったかのように消える。

    「えっと、ああ……ごめんなさい本当。というか、何でここに?」

     慌てて飛び降りてきて、肝を冷やす。命が惜しくないのか? そんなに足場にゆとりがある訳ではないのに。しかし、当の本人は事も無げだった。
     「何でここに。」はこちらの台詞だが、相手からしても謎だろう。こんなところ、すぐに探して見つかるものではない。事実聞き込みをしたとしても、限度があった。何故なら、相手は逃走するために行動している機関員の卵だ。この身のこなしからしても、覚えがある、自信があるタイプのそれだった。

    「『ルナベル』という方が『ここにいるだろう』、『帰るよう伝えろ』と助言してくれたんです」
    「…ルナベルが!?」

     ヒュン…と息を呑み、真っ青になるマリオン。アルガス自身も正直驚いたが、マリオン本人はそれを更に上回るだろう。「何で逃げたのがバレたんだろ…。」「嘘でしょ…。」と頭を抱える。
     しかし、やはり逃げたのか。

    「…何で脱走したんですか?」
    「………。」

     苦虫を噛み潰したような、というのはこういう表情かというお手本だ。マリオンは渋面を作り、答えあぐねているようだった。
     それは、ほとんど面識のない男に立ち入ったことを訊かれたからだろうか? それとも責められているように聞こえたのだろうか? 口を閉ざした少女からは、何も返らない。しかし、思いつくことはある。
     マリオンは研修中、人懐こい表情や応答をしていた。しかし、パーソナルスペースだけは絶対に保っている。足捌きを見れば、距離感が適切な人間性であるというよりは、体術としての、意図的な行動だとわかる。これは明らかな警戒心だ。
     表情を見れば、どちらかと言うと人懐こくて素直なタイプなのだとわかる。それなのに、こうも他人に対して距離を無理矢理置こうとするちぐはぐさが不思議だった。
     やがて答えるつもりはないというように、スッと大人びたような、冷めた顔になる。明らかに壁を作っていた。

    「ご迷惑をかけました。座学に戻ります。」

     なるほど、会話は終了ということだ。
     ルナベルという名を聞いた時はよほど人間らしい顔をしていたのに、随分と人形のような態度をする。明らかに年相応ではない感情や思考を抱えていることは明白だ。それをどうこう言う権利は、彼女の隊員になるでもない赤の他人である自分にはないだろう。
     だから、ひとつだけ助言をする。

    「……言いたいことを言うってことは、悪いことじゃないと思いますよ。」

     先程の表情も、普段の態度も、今回の脱走も、きっと本質は同じことだ。観察していないとわからない、強く押し留めた本音。不安や警戒心、そして、不信。
     マリオンは見ている者にはわかりやすいタイプである。あのルナベルという少女はきっと、マリオンをよくよく観察していた人間なのだろう。だからこその的確な助言なのだ。
     16歳の少女が、死を迎えるまでの責務を担う。それはどれほどの重荷だろうか。耐え切れるようなものなのだろうか。ましてや、自ら精神の孤立を選ぶ人間が。
     当代の《愚者》は、大人であってもしっかりと頼れる相手には甘える。それは甘さではなく、精神の均衡を保つ上で人間として必須の技能でもある。社会性というやつだ。その大事な部分が、この少女には欠けているように見えた。
     マリオンは、曖昧な表情で、虚空に消え入るような声で返事をした。何と言ったかはわからないが、きっと、立場が異なる自分が深入りすべきではないだろうと瞑目する。少なくとも『ルナベル』という、彼女がただのこどもに戻る仲の人間がいるなら、きっといつかは乗り越えられるだろう、と。
     《愚者》に引き渡した後、二人は何を話しただろう。何を話さなかったのだろう。それは誰も知り得ない。片方は翌年に死亡し、片方は語ることをしないまま、『その時』を迎えるのだから。


     ここは『城塞都市ロンドン』。世界の崩壊に抗う最後の砦。
     いつかなんて言葉は虚ろに過ぎないと知りながら、彼らはいつでも未来を信じている。



    *****



    【ルナベル】
    アイデアクリティカル!
    【アルガス】
    目星・アイデアいっぱい成功!
    聞き耳・最後のアイデア失敗!
    【マリオン】
    跳躍連続成功!
    POWファンブル・失敗!

    なアルガスクリニック失敗話です。
    マリオンって本編でも物理系しか安定して成功してないんだよなぁ…。


    「私は、私でいたらいけないんだ。」
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