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    odgr

    @BanriSuzu
    BMB用隔離アカウント。成人腐。ドギー総受。(世界線は全部別)
    色々書きます。

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    odgr

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    M2オンリー四回目おめでとうございます!!
    今出ました~~みたいな出前感覚で出すのどうかと思いつつありし日の親子の話です。

    理想と現実 学校であったことは、その日の夕食中の話題になることが多かった。だが、確かその日は、父の帰りが遅くなるという連絡があって、夕食が別々になった。
     だからその日聞いてみたかった話は、翌日の土曜、明るい光の射す朝の食卓での話題になったのだ。
    「あのさ、父さん。刑務所って行ったことある?」
     焼きたてのトーストの皿をルークの前に置いた途端問われた言葉に、エドワードは目を丸くした。トーストにバターを塗りながら、エドワードは答える。
    「ああ、あるとも。捜査で、受刑者に面会する必要があったりするからな。急にどうした?」
    「昨日、社会の授業でやったんだ。どんなところなんだろう……怖い?」
    「うーん。刑務官は厳格な人達だが、お前の考えてるようなおっかないところじゃないかもな。俺も、面会室くらいまでしか入ってはないが」
     ルークはどこか不安そうな顔だった。エドワードはコーヒーを一口含んでから続けた。
    「刑務官は、収容された受刑者に無闇にいばりちらしたり、乱暴したりしない。収容者との間には、歴然とした権力の差があるからな。権力を傘に着てそんなことをしていたら人道的にも問題だし、そんな姿勢だと刑務所の本来の役割が果たせなくなっちまう」
    「本当の役割?」
    「受刑者の更生だよ。刑務所は罪を犯した人が罪を償うための場所だが、償いを終えて社会に戻ってから、犯罪を繰り返さずに生きていけるようにするための施設でもあるんだ。服役中に仕事になる技術を身につけて、出所後にちゃんと生活出来るようにしたり、社会で他の人と上手くやっていけるように、心の持ち方の指導や相談をしたりすることもある」
     ルークが感嘆のため息をついた。たっぷりバターとはちみつを塗ったパンを齧りもせず、真剣にエドワードの話を聞いている。
    「そうなんだ……」
    「まだ、ちょっと怖がってるな?」
     ルークの席から遠かった温かいココアのカップを手元に押してやり、エドワードは尋ねた。
    「だって、そこで働いている人たちは、犯人だったひとたちを監視するんでしょ。やっぱり、すごく厳しいんじゃ」
    「そりゃ、厳しいさ。志を持って難しい立場の職を選んだ人たちで、彼らは受刑者のために、誇りをもって仕事をしているからな。だが、決して横柄や横暴にはなっちゃいけない。狭い場所で他の人より強い権力を持つと、力を振りかざしたくなる誘惑にさらされるもんだが、刑務官はそういう心の歪みに打ち勝つ厳しい訓練もするんだ。……ただ、受刑者にも色々いて、素直に言うことを聞くやつばかりじゃないから、身体と心の強さはもちろん必要だけどな」
    「それは、そうか」
    「まあ、知らない場所だから判らなくて不安かもな。図書館があったり、気の合う受刑者同士でスポーツのクラブを作ったりするって聞くし、厳しいばかりの雰囲気じゃないかも知れない。人が色んな思いを抱えて生きているって意味じゃ、刑務所の塀の外も中も同じかも知れない。お前があそこの世話になることはないだろうから……いつかお前が刑事になった時に、自分の目で確かめてみる機会があったら、案外、楽しそうな笑い声なんかも聞こえるかも知れないぞ?」
    「うん」
     ルークは甘い香りのココアに口をつけた。温かく喉を落ちていくココアとエドワードの言葉が、緊張をゆっくり溶かしていく。
     ふと、キッチンのシンクを水滴が小さく叩いた。少し間を空けてもう一回、もう一回と立て続けに落ちる水滴に、エドワードが腰を上げた。
    「おっと。しっかり閉めてなかったか」
     エドワードが呟いた。席を立ち、ルークに背を向けてシンクに向かう。窓から射す朝の光を肩に受け、エドワードが水道に手を伸ばした時、また水滴がひとつ、ステンレスのシンクで弾けた。

    *

     まだ、水滴が落ちる音がする。
     静かに眠らせてほしいのに、わざと眠りを妨げるように音は止まらない。水音に意識を少しずつ現実に引きずり戻される中、腐った水に色々な悪臭がまざった澱んだ空気を嗅いだ。
     力なく壁によりかかった身体中の関節が軋んでいる。血は融けた鉛でも混ざったように重く、身体全体が熱く浮腫んだ感触がある。ところどころ疼痛があり、思い出したように響く激痛で横になることも出来ず、寄りかかって眠った壁や床の石が、冬の気候のせいで氷のように固く冷たい。
     水音に、遠くから響く靴音が混ざったのが聞こえた。今にもスキップでも始めそうなくらい軽やかでいながら、湿った重さのある音だった。靴音を追いかけて、暗闇に鼻歌が反響する。
     音も歌も、次第にこちらに近づいてくる。どうか通りすぎてくれないかと一瞬考えてしまい、ルークの口の中に血の味が薄く広がった。
    「……父さん……」
     数えきれないほど殴られ、傷が塞がるそばから何度も切れて腫れぼったくなった唇から無意識に息が漏れる。
     ここに来てから何度も、日の当たる家の夢を見ている。思い出の中の父はいつでも、本当は厳しさを伴う現実を、その時々の年齢の自分が受け止められるように噛み砕き、嘘がないように教えてくれていた。
     だから、よりによってこの場所に、こんな悪意が存在するなどと知らなかったのかも知れない。看守と収監者の絶望的な権力差。それにより起こる全く意味のない暴力と看守たちが楽しいだけの拷問。いくら無実を訴えても嘲笑され、苦しさに耐え兼ねて情報を吐けば、あとは生きた玩具にされるだけの立場。
     痛い、苦しい、嫌だ、つらい、悲しい、情けない、怖い。
     気力や体力がわずかに回復すれば、何処へも行きようのないそんな思いが渦を巻き、焦燥と共に胸を掻く。こんな感情がもしなくなれば、いつ終わるか判らない拷問にも、生きて出られるかも判らないこの不安にも絶望しなくなって、楽になれるのだろうか。でも、それでは、と虚ろの中でも戸惑った思考に、やたらはっきりした靴音が割り込む。
     閉じた扉のすぐ向こうで、靴音が止まった。錠を開ける音に、楽しそうな笑い声が重なった。
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    odgr

    SPOILERチェズルク版ワンドロワンライ第38回提出作品です。お題は台詞お題の「逃がしませんよ」で。
    暮らドメバレ、チェとルで某スタイリッシュな軟体動物たちでインクを塗り合うシューティングアクションで遊ぶ話です。今回はチェズルクっていうかチェ+ルというか……チェはハイ〇ラントの面白さに気づいたら大変なことになると思う。
    「やばっ」
     現実でルークが発した声に、画面の中の小さな悲鳴が重なる。
     まっすぐに飛んできた弾丸に貫かれ、携帯ゲーム機に映っていたキャラクターが弾け飛び、明るいパープルのインクがステージに四散した。
    「フフフ……。逃がしませんよ、ボス」
     リビングのテレビの画面では、楽しそうに笑うチェズレイが操るキャラクターが大型の狙撃銃を構えている。スナイパー役のチェズレイが睨みを効かせている間に、テーマパークを模したステージがチェズレイのチームカラーにどんどん塗り替えられていく。スタート地点である自陣に戻され、ルークは焦りと感嘆とを長い溜息に変えて唸った。
     夕食後、ルークがリビングで一息ついていた時、そわそわとした様子のチェズレイにゲームに誘われた。一週間ほど前にルークがチェズレイの前でやってみせたゲームをルークの不在時に練習したので、一緒にやって欲しいという。海生軟体動物と人型を自由に切り替えられるキャラクターを駆使して広大なステージ中を駆け回り、カラフルなインクを射出する様々な種類の武器を用いて、ステージのフロアをチームカラーで侵食しあい陣取り合戦をするその対戦アクションゲームを気に入ったようで、仲間たちと同時プレイが出来るように携帯ゲーム機本体とソフトまで買ってきたという気合いの入れようだった。携帯ハードの方は既にルークの自宅のWi-Fiにも接続してあり、インターネットを介した同時プレイの準備も万端だった。
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    odgr

    SPOILER2014.4.14開催、ウィリアムズ親子オンリーイベント「My Shining Blue star」での無配ペーパーでした。雨で外に出られない休みの日、父さんの身の上話したり『父さんの父さん』の話をしたりする親子の話です。実際こういうシーンがあったら、父さんは『ヒーローを目指すきっかけになった人』みたいな感じで己の父親像を語ってくれそうな気もしつつ。市民を守って殉職した警官だった、みたいな…………
    水底の日 雨樋からひっきりなしに流れ落ちる水が、排水溝に飲み込まれていく。
     あまりにも量が多すぎて溢れそうになっているのか、空気を含んだ水が排水管の上で波を立て、とぷとぷという音がしている。まるでプールに潜っている時に聞くような音に、ルークが唇を尖らせた。
    「午後だけど、全然止まないね……」
     カーテンを開けて確かめるまでもない土砂降りの音に、ルークは八つ当たりのようにソファのクッションに背中から重さを預ける。雷こそ鳴っていないが、春の空は昼前ごろからずっと厚い雨雲に覆われていて暗い。それがまた、憂鬱に拍車をかける。
    「久々の父さんの休みだったのに」
    「まあな。だが、外に行けなかったのは残念だが、こんな風に家でのんびり過ごすのもいいもんだぞ」
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    odgr

    SPOILER4/14発行になるっぽいです。ほんとか。
    マジェ昼の部捜査前の12月、クリスマスチャリティーヒーローショーに出演が決まったことをきっかけに、『演じる』『ヒーロー』というあたりのキーワードからウィリアムズ親子を考えるモクマさんの話です。モクルクです。
    マジェMカのバレとトンチキネームのモブがそこそこ出ます。実在の団体や個人とは一切関係ありません。
    アクターズ・エンパシー 月がきれいに見える部屋は、朝の光もよく入る。
     つまり自ずと目覚めが早くなることにモクマが気づいたのは、そのゲストルームを選んで借りた翌日の朝だった。正確には自分で選んだというわけではなく、広さと個別の洗面室がある方のゲストルームを気に入ったチェズレイが真っ先に部屋を選び、アーロンはアーロンで「詐欺師の近くでさえなくばどこでも良い」というものだから、モクマはアーロンが使わなさそうな方に決めたのだ。部屋は適度な狭さで、その割には窓が大きく、ひとりで過ごす時間も大切にしたいモクマとしては都合が良かった。多少朝が早くなるとしても、気の置けない仲間たちと過ごす時間が増えると思えば、十分にお釣りが来る。
     このゲストルームの窓から、緑の庭木と生け垣が茂る庭が見えるのも良かった。ウィリアムズ家の庭は、父母と子供がひとりかふたりいるような家庭の邸宅と考えるとちょうど良い広さだった。『ちょうど良い』というのはこの家全体に言える感覚で、本来ならば家の主となる夫婦の部屋、子供のための部屋、家族の時間を共有するリビング、ふたり以上での作業が快適に行える動線を想定したキッチン、窓から光が入り清潔感がある広い洗面室とバスルーム、それから、時に大事な友人を招いて快適に過ごしてもらうための部屋──チェズレイに言われて初めて気がついたが、成程ここは、理想と信念を抱いて働くエリート国家公務員の男が、家族と過ごすありふれた幸せを望んで買い求めた『設定』にひどく相応しい造りだった。
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