ハッピーバースデーランガ❄️ 一休み、と並んで座ったのを、ランガはチャンスと見なして逃さなかった。暦も油断していたらしく、傍に置いたドリンクボトルを指でつついては往生際の悪さを見せていた。
「いや何つーかさ、ここは日本だし沖縄だけど……お前はカナダで暮らしてきたんだからそっちの文化? 習慣? てのは大事にしていいんじゃねぇのって俺も思うわけよ」
うん、とランガはシンプルな相槌を打つ。
「それはそれとしてだ。ここは日本だし俺はずっとここにいたわけ」
また、ランガはただ頷いた。
それ以上の反応がないことが、暦にとっては圧力になるらしい。ちら、と視線だけで様子を窺った。
「だからぁー……お前からしたら何でもないかもしれねーけど、俺としてはすげートクベツっていうかぁー……」
「暦、それもう三回くらい聞いた」
何でもなくはない。頬とかにはしても口にはめったにしない。ランガは毎度そう答えてもいた。
「だから、今日まで待っただろ」
暦が膝を抱えているので、隣に座っていたランガもつられて同じ格好になっていた。伏せられた顔を覗き込む。
ランガは首を伸ばす。ここまで来て、と暦に目で訴える。
縮こまっていた暦の脚が解ける。少しだけ自由がきくようになると、身体ごとランガの方へ向き直った。
誰も来ないでほしいな。ランガは切にそう思った。
唇を真一文字に引き結んではいるけれど、暦は目の前にいる。ランガが暦の両頬に手をかけると、目は見開かれ泳ぎ出す。それでも包み込む手は離さない。やがて、ぎこちなく瞼が伏せられた。
あとは何も難しいことなんてない。手の内にある唇に触れればいいのだ。実際、これといって上手くはないにしても、失敗には至らず、お互いの乾いた唇と、ほのかなスポーツドリンクの香りを味わった。
だけど、暦の頬や唇の温度は全くどうであったか分からなかった。もしかして緊張していたのかと、ランガは後になって自覚したのだ。
「……トクベツになった?」
ゆっくりと離れると、暦はたちまち俯いた。口元に軽く手をかざして、余韻に浸っているのか、言葉を探しているのか、しばらく動かなかった。
「……お前は」
いつもの暦の声のようで、水で湿らせたような、初めて聞く響きにも思えた。言いようのない感覚がランガの身体をめぐる。その勢いのまま、前のめりで答える。
「なった。トクベツ。一生忘れない」
驚いた暦は顔を上げて、いつのまにかランガに肩まで掴まれていたのでまた逃げられなかった。そのうち呆れたように、そりゃよかった、と笑う。
その火照った頬に不意打ちでキスをする。今度は見た目通り熱い感触が、確かに唇から伝わってきた。
(十八歳の誕生日のこと)