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    kanaria0197

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    kanaria0197

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    偽いち♂襲来編、1話!
    健全。

     ある日、千年王国研究所に依頼が舞い込んできた。
     依頼人の男性は「叔母が妙な宗教団体にのめり込んで……」と話し始め、この千年王国研究所の主である、悪魔くんこと埋れ木一郎は、自分の机で偉そうにふんぞり返りながら「消費者センターに相談しろ」と目もくれず突っぱねた。しかし一郎の相棒であり、経理掃除依頼対応など推理以外の全ての業務を担当しているメフィスト三世がいつものように「こら! うちの帳簿はいつでも赤字なんだぞ!」と反論した為に、二人はその宗教団体について調べる運びとなった。
     千年王国研究所から離れた場所にあった、森の中の古い講堂。確か以前は所有者が死去し、誰にも整備されずに割れたガラスと蔦だらけの壁の晒していたが――今では新築同然に美しく整備され、割れていた二階ホールは曇り一つ無いガラス窓が全面に嵌め込まれていた。人通りは以前と同じく無いと思われたが、一人の老婆がこの講堂へと入って行った。二人は視線を交わらせると、この講堂へと入って行った。
     奥まった場所にあったホールから、少年のような声が聞こえてきた。見張りの一人も置かぬ施設で、二人はその部屋の外でそっと聞き耳を立てた。
     その少年の声だけが静かなホールに響き、時折信者たちが拍手をしたり、感嘆の声を上げたりするのが聞こえる。話が終わると、一人の信者らしき人の声が「教主様、お疲れでしょう。本日の講話はこれにて……」と言うのが聞こえた。教主は敬語など一切使わず、「うん」と返事をした。
     しかし教主というには実に幼い声である。声変わりがまだ済んでいなそうだ。二人はその教主とやらが引っ込む前に、姿だけでも確認しようと扉を少しだけ開き、覗き込んだ。
    「…………!?」
     メフィストの息を呑む音が聞こえた。反応は無いが、一郎もこれには酷く驚いた。
     教主の姿は、埋れ木一郎を男にして、少し幼くしたような姿だったからだ。

    「……なぁ、悪魔くん。……悪魔くんに親戚とかって……」
    「……何も」
     千年王国研究所に戻ってきた二人は、死んだような沈黙の中で意見を交わそうとした。あの一郎によく似た少年の正体は何者か、何故新興宗教の教主などやっているのか。
     一郎の出生は特殊で、幼い頃、養父である埋れ木真吾が魔界で拾ってきた子供だと聞き及んでいる。それ以前のことはあやふやで、魔界に居た時一緒に暮らしていた伯爵や、よく遊びに来ていたストロファイアと再会したことにより少しは思い出すこともあったが、依然全ての記憶を思い出すには至っていなかった。故に、親戚どころか、産みの親さえ分かっていない。二人は再び重い沈黙の中に居た。
    「あの教主の法話、変なところは無かったな」
    「普通の……平和とか、幸せとか、身近なものを大切にとか言っていたな」
     依頼人は何を感じ取ったのだろう。二人は別日、再びその宗教施設に潜り込むことにした。
     今度は信者を装って潜り込む。マスクにサングラスという実に怪しげな格好をした変装だったが、警備など無いに等しいので誰にも文句は言われなかった。信者らしいおばさんにも「あら、花粉症? 辛いわよねぇ、あれ」などと言われる始末である。
     赤や橙色の大きな羽織を引き摺りながら教主が出てきて法話が始まり、そして終わった。
     教壇に立って早々、教主が「あれっ、お前」と言ったからである。お粗末な変装をした一郎とメフィストは、舞台脇から出てきた信者たちによって拘束され、そのまま教主と共に舞台裏へと連れて行かれてしまった。
    「お前たち、下がっていいよ」
    「しかし……」
    「知り合いなんだ。三人きりで話したい」
     小さな部屋に手を縛られて連れてこられた二人は、何某かの荷物が入っているだろう木箱の上にどっかと足を組んで座った教主に見下されていた。足音が遠ざかり、誰にも聞かれていないと分かった時点で、一郎は話し掛けた。
    「おいお前。お前は一体何者だ。一体何を企んでる」
     それを聞いて、教主はくすくすと嘲笑い、二人を見下ろした。
    「やっほー、オリジナル。ぼくはピュシスが産んだ天使。ストロファイアに言われて、この宗教を立ち上げたんだ。オリジナル、お前も手伝いに来てくれたのか?」
    「ストロファイアだと……」
     一郎はその名を聞いて苦虫を噛みしめたような顔をした。三世も話に飛び込んで、「ストロファイアってことは、どうせロクなことじゃねぇんだろ!」と叫んだ。一郎を模した偽物の天使は、二人の反応を見てきょとんと首を傾げた。
    「ロクでも無くないよ。ぼくもストロファイアも、全ての魂の幸せの為に従ってる。でもホラ、肉体があると飢えや欲に振り回されるし、他の魂も傷付ける。だったら、そういう肉体の檻から、解放してあげた方がいいよね」
    「良い訳あるかァ!!!!」
     メフィストがそうツッコんだ。教主は理解出来無さそうに「えー」と言った。一郎と同じ顔が付いているのに、こうも表情豊かだと違和感を感じる。
     頭の中で結ばれた解答を確認する為に、一郎が教主に問い掛ける。
    「じゃあこの宗教の教えというのは……」
    「ん、人々の救いの為に物質という檻を捨てようというものだよ」
    「危険思想ォ!!!!!」
    「因みに地下の一番下の階が解放の場になってるよ」
     教主は敵対していると認識していないのか、毒など一切ないように「見に来る?」と扉を指差した。

     教主は二人を全く警戒していないようで、拘束を解くと階段でコツコツと降りて行った。途中の階で、人々が生活しているような音が聞こえる。
    「そりゃあ、苦しいまま死ぬと、魂に傷が付いちゃうから」
     何でもないようにそう言い、三人はもっと奥深くへと降りて行く。
     小さな部屋だった。石で出来た扉を開けると、部屋の真ん中に石で出来た、人一人横になれそうな台がある。
    「此処に寝かせてね、眠らせるの。完全に眠ったら、こう、ぐちゃっと」
    「…………っ」
     教主の説明に、メフィストは辛そうに唇を噛んだ。それに教祖は気付かず、「ホラこれ。昔オリジナルが使っていた奴によく似てるでしょ。ストロファイアがくれたんだ」と、巨大な赤い石の鎌を虚空から出してきた。
    「これを持ってる時だけ、ストロファイアは優しそうな目でぼくを見てくれる……」
     教主はそう呟いて、大事そうに、その鎌を抱き締めた。
     一郎はそれを見て、「まさか、ストロファイアが、僕の代わりを作ったのか?」と考えた。外見以外、全然似ていないが。
     教主はすぐににぱっと笑うと、二人に言った。
    「じゃあ、今日からお前らぼくの仲間な! まず地下一階の清正さんのところを手伝いに行って――」
    「ちょっ、待て待て待て待て」
    「僕達はストロファイアに言われて手伝いに来た訳じゃない。悪魔くんとして潰しに来たんだ」
    「えぇっ!?」
     教主は二人の言葉に驚いて、赤い鎌を抱き締めたまま、「じゃあ、えっと」と呟いて、言った。
    「戦う?」
     次の瞬間、炸裂する一郎の右ストレート。持っていた鎌を離してしまい、倒れた瞬間に下敷きになる教主。ただ見ているしか出来なかったメフィスト。
     既に教主は目を回している。今の一郎によく似せたのだろう、耐久度まで一緒だった。一郎は「メフィスト、ロープ」と催促すると、メフィストの取り出してきたロープで教主を縛った。そしてそこら辺に落ちてた棒に括り付けて豚の丸焼きのような形にすると、メフィストに片端を持たせて、心做しか輝いている瞳で一郎は言った。
    「実は前から弟が欲しかったんだ」
     そして二人は教主を担いでえっさほいさと階段を昇って行った。教主と瓜二つの一郎が「姉です。弟がお世話になりました」と言うので信者たちは皆信じてしまい、「あらまぁお姉さんが居たのね」とか、「天蓋孤独の身と聞いていたから、家族が見付かって良かったわ」などと話していた。これからもきっと皆で助け合い、新たな互助組織として存続してくれるだろう。

     魔界、見えない学校に棒に括り付けたままの元教主を、先代悪魔くんにして一郎の養父、埋れ木真吾の前に一郎は放りだした。
    「弟が出来た」
    「……えぇー……」
     目をキラキラと輝かせながら――それは真吾と一郎にしか分からなかったが――一郎がそう言うと、真吾は苦笑いをした。
     偽物の天使は床で「くそー! これを外せオリジナルー!!」と叫びながらばたばたと跳ねている。
    「しかしストロファイアが一郎に似せた天使をね……。僕の時とは違って、全く似ていないね」
     真吾は床で跳ねている偽物の天使をまじまじと見ながらそう呟いた。偽物の天使は「何!?」と言ったが、首を頑張って一郎の方を向けて、ふん、と鼻を鳴らした。
    「ぼくの方が可愛いもんね!」
     一郎は天使のお腹を踏み付けると、「僕の弟らしく矯正してやる……」と凄んだ。
     真吾は二人の様子を見て、この天使はストロファイアと違い、まだこの世界を愛せる余地が有るらしい、と見た。なので、床で縛られている天使に術を掛けて、大部分の権能を封印した。
     これでもう、この小さな天使はほんの少しの天使の力しか使えない。殆ど人間の子供と同じ存在となった。
    「……? 今何をしたんだ? 埋れ木真吾」
    「ふふ、君への祝福だよ。どうか、君があの世界を愛せますように」
    「…………?」
     まだどんな術を掛けられたのか分かっていない天使は、「じゃ、もう行く」と言って出て行こうとする一郎に引き摺られていった。それを真吾が呼び止める。
    「待って、一郎。その子を弟として扱うなら、名前を付けてあげないと」
    「…………名前」
     一郎は何も考えていなかったらしい。色々なところに視線を彷徨わせて、最終的に涙目の天使を見ると、口を開いた。
    「ポチ。お前はポチだ。よし行くぞポチ」
    「ポチ!!?」
    「えっ、それ僕の名前? ねぇオリジナル」
    「姉ちゃんと呼べ」
     そして今度こそ二人は立ち去ってしまった。
     真吾は微笑ましいものを見るような顔のまま、机の引き出しから胃薬を取り出した。
     育児のお供である。
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