悪役Ωは高嶺に咲く 悪役Ωは高嶺に咲く
アレクサンデル・サルトゥは悪党だ。
そう息巻く相手の様子を見て、公爵令息の青年はその美しい顔に小さく笑みを浮かべた。
サルトゥ伯爵家は中央からは遠く離れた辺境に程近い領地を持つ、古くから在る名家であった。
しかし、当主の放蕩三昧のせいで多額の借金を抱え、然りとて貴族としての見栄を張る為に更なる借金を積み上げ没落寸前。アレクサンデルはそんなサルトゥ伯爵家の次男として生まれた。
幼いながらに家の状況を憂いたアレクサンデルはやり手商人だった叔父に幼い頃から教えを乞い、直ぐに頭角をあらわして辣腕を奮ってはありとあらゆる手を用いてサルトゥ家の財政を立て直してみせた。
そんな彼を近隣領地の者達は皆恐怖と畏敬の念を込めて「悪魔の申し子」だの「黒獅子」だの好き勝手な渾名で呼んでいる。当の本人は「好きに言わせておけばいいでしょう。あんまり舐めてかかってくるようならばまた締めてやります」と飄々としているのだから青年にはまた愛おしい。
9578