MIU404短歌本『ほんもののいぬ』解説**
◎朝に漂白されしアルコールはいお味噌汁ね 噛み癖すごいね
起きたら伊吹の家で、開いた窓からゆるく風が吹き込んでて、昨晩の酔いなんて1ミリも残っててくれなくて……みたいなイメージだった。作った時は朝って澄んでるなとよく思ってて、多分だからできた歌。味噌汁置いて少し間を空けてから切り出すように後半が呟かれてる気がする/伊吹藍は酔った勢い(「だけじゃないけど」)でそうなった翌朝、早く起きて味噌汁作ってくれる男だと思う。
◎生協に放牧されし子を眺め***
前の短歌と多分同じ日の歌。伊吹の家の近所の生協に来て、駆け回る子どもを動物っぽいな〜と思って伊吹を見るんだけど、消化し切れてない気まずさやらからふい〜と逸らして今度は適当なものを熱心に見つめて(るふりをす)る、そんな一連を伊吹に見られてるイメージ。
◎首の下で喜ぶのは猫***
前の短歌からは恐らくしばらく経ってる。じゃれたり撫でたりしてたらうーん!って唸って、こっちの方が好きアピールをしてくる。大型犬って感じ。
◎閉じないよ撃って撃たれる瞬間はちゃんと見てたいじゃあもうしない
キスで目を閉じない伊吹とそっけない(または大人げない)志摩。
◎やましさのない首晒し涼しげなひとのやましさ隠せしフード
志摩の噛み癖に夢を見て/志摩の首の丸出しっぷりと伊吹の厚着を想って作った歌。伊吹のほうが秘密を隠せそうで……。
やましさ=噛み跡のつもりが分かりにくくなった気がしてちょっと心残りがある。
◎すまなげにされしばしそのせいに***
「慢性腰痛」で切ろうかと思ったあとにいや、デスクワークじゃないし体が資本だし、違うかな……と思い直した歌。伊吹のごめんねって顔になんで謝んだよ(※謝ってない)ってちょっとムカついてる志摩。
◎首のここいいにおいする匂い知らないけどたぶん絶対にバラ
どっちかの家でのんびりじゃれこいてるシーンをイメージして作った歌。前後で距離が近いのが好きで、これも多分後ろからスンスンしてる。タイトルを付けるなら「んなわけあるか」
◎どこにでも行けた日曜は互いの目の中歩き疲れて終わり
エッチな歌エッチな歌……と念じながらできた歌。天気がいい休日に一日中睦み合ってることも(特にカップル中期は)きっとある。熱烈な見つめ合いがeye sexと言われるように見つめ合うってかなりセクシーで、「見つめ合う」って時に隠語で……とかを思って込めて作った歌。
◎うれしいねうれしいかうれしいよ***
天気のいい日に2人で外を歩いててチューリップを見かけたときの歌。ロマンスに基づく幸せ? って赤〜ピンクのイメージがあるので、チューリップの白でそれぞれの色彩が際立ったらなあと思った記憶があるけど、際立ったかは微妙。
甘ったるい前半に対して少し引き締まってほしくて「白い」を漢字にした覚えがある。
◎ああ犬に噛まれてはいえっ***
犬、犬って内外構わずあんなに言ってたらね……ふふ……と思いつつ作った歌。犬モチーフの歌を作りたくて、なんとか歌に落とし込めないか……って色んな慣用句をこねてできたうちの一つ。
◎もしきみが訳せば走ろうと囁くロマンスだらけの世になったろう
「月が綺麗ですね」訳は実際にはなかった、と教わった後でも超訳には夢がある……と思って作った歌。ロマンス、はもともと恋愛、にしていたけど、後者より広いニュアンスがある気がして「ロマンス」にした。
◎一割になっても撃たないくらいには信用してるよこのなげー線
一話「現実の刑事は9割が引退まで拳銃を抜かない。撃たないじゃない、抜かないんだ」六話「俺の生命線は長い」から。その、じゃなくてこの、の距離にいる二人を意識して作った歌。
余談:既に作った歌と同居人の歌との配置をあれこれ考えていて、もしかしてもう少し私の歌があった方がいいな……?と思って急いで作った(結果的にわりと好きな歌になって嬉しい)。同居人の歌『それからのこと』の後なので、暗い過去から未来に続くような雰囲気を意識した覚えがある。
どの歌も初春(3月)に作ったので、自然と春の二人をイメージしたものばっかりな気がする(その点犬迅短歌は冬っぽいものが多い)。夏、秋、冬も見たいな〜見たいよ〜〜。
お付き合いいただきありがとうございました!