鍾魈(途中)「魈、本当にすまない」
焦りを含んだ声でそう言われて、魈は戸惑った。視線が泳ぐ。
壁に掛けられた山の画。瓶に活けられた赤い華。
こだわった調度が並びつつも落ち着いた雰囲気の家──正確にはその玄関である。
その玄関で魈はこの家の主、つまり鍾離に謝罪されていた。
自分が謝られるなど恐れ多いし、まずその前に鍾離が謝らねばならない理由もない。その前にこちらが謝るべきではないか。混乱したまま言葉が出ず、魈はまた少し見慣れ始めた邸宅の景色に視線を彷徨わせた。
層岩巨淵の一件以降、鍾離は頻繁に望舒旅館を訪れるようになった。
最初のうちはかなり身構えて対応していたように思う。層岩のこともある、それに帝君がわざわざ足を運んでいるのだ。すわ一大事かと思うのも無理はない。
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