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    Chai16491411

    @Chai16491411

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    Chai16491411

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    間章二幕扇底春秋1周年記念に、まだ書きかけも書きかけの鍾魈小説あげときます🙏
    魈くんが色々あって先生宅の壺を割ってしまうお話。(魈くんのせいじゃない。)

    鍾魈(途中)「魈、本当にすまない」
     焦りを含んだ声でそう言われて、魈は戸惑った。視線が泳ぐ。
     壁に掛けられた山の画。瓶に活けられた赤い華。
     こだわった調度が並びつつも落ち着いた雰囲気の家──正確にはその玄関である。
     その玄関で魈はこの家の主、つまり鍾離に謝罪されていた。
     自分が謝られるなど恐れ多いし、まずその前に鍾離が謝らねばならない理由もない。その前にこちらが謝るべきではないか。混乱したまま言葉が出ず、魈はまた少し見慣れ始めた邸宅の景色に視線を彷徨わせた。
     

     層岩巨淵の一件以降、鍾離は頻繁に望舒旅館を訪れるようになった。
     最初のうちはかなり身構えて対応していたように思う。層岩のこともある、それに帝君がわざわざ足を運んでいるのだ。すわ一大事かと思うのも無理はない。
     しかし。
    「新茶が出回っていると聞いてな」
    「言笑殿の料理を食べにきた」
    「茶と共に荻花洲の景色を堪能しているんだ」
     毎回、鍾離の要件は驚くほどあっけないものだった。
     そのたびに魈は困惑したり、話を聞いたり、食物を振る舞われたりした。
     食事をしたり茶を飲んだりしながら、鍾離は様々な話をした。堂主の機嫌がいい、近所の犬が子供を産んだ、万民堂の新作料理が挑戦的すぎて流行らなかった……等々。魈に伝えるべき内容だとは思えない。目的が分からないながらも、魈は真剣に聞いた。もしかしたら降魔に関わる重要な話なのかもしれない。しかし、玉の市場価格や流行の陶器の彩色などが降魔にどう関わってくるかは、なんど考えても分からなかった。
     旅館に品々を求めにきたついででは、とも思ったが──そうでないことも増えてきた。
     はるばる徒歩で旅館に来て、茶と食事を楽しみ、そのまま帰る。そんな鍾離の姿を見て、察しの悪い魈でも流石に思い至った。
     ──鍾離は、自分に会いに来ているのではないか。
     今の鍾離は凡人だ。彼が帝君であったことを知る者は少ない。凡人として生きていくためには過去を大っぴらにする訳にはいかないだろう。市井になじんでいるとは言え、不用意なことを口にしないよう気を張ることも多いのではないか。
     そうなると、気兼ねなく話せる相手もまた少なくなる。璃月港にはピンがいるが、街中には他人の耳がある。旅人は不在の事が多い。絶雲の間には理水たち鍾離の友人が多くいるが、わざわざ山を登るのは面倒だし何度も通えば周りにも不審に思われるだろう。
     その点、望舒旅館とて港からは遠いが、絶雲ほど遠くはない。上階に上がれば人払いもできる。話し相手である魈は──大して気の利いた返しもできないが、壺に話しかけるよりはましだろう。
     自分は、鍾離にとって気兼ねなく話すのに一番都合がいい相手なのではないか。魈はそう考えた。
     そうならば、わざわざ足を運ばせるのは申し訳ない。話の聞き役を務めるなら、魈が鍾離の方に行くべきだろう。魈なら一瞬で長い距離を渡れる。
     魈はそう考えたが、なかなか言い出すことは出来なかった。まずどう切り出せばいいのかも分からなかったのだ。
     そうしている内に、海灯祭の時期になった。魈は璃月港で鍾離と出会い、会話を交わした。
     魈は──腹を括ることにした。

    「今度は我が、鍾離様のお住まいに行ってもよろしいですか」
     向いに座った鍾離が茶碗を持ったまま目を見開く。慌てて魈は言葉をつづけた。
    「不躾で申し訳ございません……! 毎回こちらに足を運ばれるのも、ご負担になってはいないかと……」
     愚考しまして……とたどたどしく繋げる。
    「そんなことはない、が……いや、そういうことならば、俺の家の場所は知っているか?」
    「は、はい」
     鍾離の気配をたどれば住まいはすぐに分かる。頷くと、鍾離はまっすぐこちらを見つめたまま、ふわりと微笑んだ。
    「では待っていよう。いつでも大丈夫だ」
    「いつでも、ですか」
    「ああ。どんな時であっても、璃月人は知人が訪ねてきたら必ず招き入れて茶を振る舞いもてなすものだ。訪れる側も、話しに行くだけならば手土産は持たないものだぞ」
    「……分かりました」

     これで次からは長い距離を歩かせなくて済む。そう思いながら、旅館から去る鍾離を見送った後で、魈は具体的な日にちを伝えていないことに気が付いた。まず日時を決めてすらいない。
     不敬と思われないか、その事ばかりを気にしていて、他を失念していた。鍾離はいつでもいいと言っていたが、それでも突然来られたら都合が悪い時もあるだろう。予定を聞いておけば良かった。また鍾離が旅館に来た時に聞こうとも思ったが、彼は魈が来るのを待っているのだから、魈が赴くまでこちらには来ないのではないか。
     ──どうすれば。
     結果から言うと、魈は礼儀を捨てて前触れもなしに鍾離の家を訪れた。鍾離は魈の姿を見るや破顔し、いたく喜んで迎え入れてくれた。
     それから、天衡山のふもとにある家を訪れることが増えた。今では鍾離が旅館を訪れるのと魈が赴くのとが半分半分になり、最初はひどく緊張していた魈も次第に慣れてきている。くつろぐまではいかないが、岩のように固まったまま鍾離に蒐集品を披露してもらうような破目にはならずにはすむようになった。


     そして、何度目かの鍾離宅への訪問の日、魈は玄関先でいきなり謝られてしまったのである。
     仙術で家の前に降り立ち声をかけると、普段なら鍾離は自ら戸を開けて迎え入れてくれる。しかし今日は中から入っていいと声がしただけで、入って見ると彼は慌ただしく荷造りをしているところだった。
     鍾離曰く、軽策荘で急な用事があり、往生堂の客卿として出向かねばならないとか。なかなか帰ってこられないかもしれないそうで、今回の約束は一旦保留にしてほしいと言われた。
    「本当にすまない。埋め合わせは必ずしよう」
    「我の方こそ、お忙しい時に失礼しました」
    「今日来てほしいと誘ったのは俺の方だ。契約を反古にされたと怒ってもいいんだぞ」
    「そんな、滅相もない……」
     言葉に詰まった時、外から「鍾離さーん! 準備できたー?」と声がかかった。鍾離がちらりと玄関扉に視線をやる。
    「鍾離様、我は大丈夫ですので」
    「……呼ばれる前に茶を入れていたんだ。良ければ飲んでいってくれ。軽策へ発つ前に一度家に戻る予定だから、戸締りはそのままでいい」
     そう言って鍾離は名残惜しそうに家を出て行った。途端にしんと静かになる。
     予定も無かったので──正確には予定はあったが今しがた無くなってしまったので──とりあえず魈は言われた通り茶を飲むことにした。いつもお邪魔している卓につく。
     茶を含みながら、改めて辺りを見回した。棚に収められた数々の調度品に、壁に飾られた絵画、青々とした鉢植え。魈には調度の良し悪しはまるで分からないが、鍾離の口ぶりからしてよほど拘った品々であることくらいは分かる。値も張るのだろう。そのわりには、威圧感がなく落ち着いた雰囲気があるのが不思議なところだった。鍾離の家だから緊張してしまうのであって、それを除けば魈にとっても居心地よく感じる空間だ。
     窓辺の広い机には硯に壺、鉱石、木箱、書か画か分からない巻物などが所狭しと置かれていた。最近の鍾離は魈に自身の蒐集品を見せるのが趣味のようで、この机にはいつも違ったものが置かれている。よほど急ぎだったのだろう、机の傍の窓は開け放たれたままで、山から降りてきた穏やかな風が室内に入ってきていた。
     戸締りはそのままで良いと言われたが、いささか不用心ではないだろうか。天衡山の麓にあるこの家は港から近いが、それでも郊外は郊外だ。周りに家も少ない。仮に宝盗団にでも入られたら──いや、魈に思いつくことなど、鍾離はとっくに考えているだろう。凡人の暮らしについては彼の方が圧倒的に詳しいのだから、自分があれこれと心配する必要はない。
     そんなことを考えながら、少し香りの違いが分かるようになったような気がする茶を味わう。すると不意に目の前を小さな影が横切った。次の瞬間、壁際からドンと大きな音が響く。
    「……!」
     入ってきたのはヤマガラだった。間違って窓から飛び込んできたのだろう。混乱したように部屋の中をめちゃくちゃに飛び回る小さい姿を、魈の目ははっきりと捉えていた。
    「おい、落ち着け」
     思わず口に出す。しかしヤマガラにそれが聞こえるはずもなく、あちらの棚に当たったと思えばこちらに机にぶつかり、落ち着く気配もない。
     このままでは不味い。壁にあたって首を折るやもしれない。
     一瞬の迷いの末、魈は仙法を発動した。翡翠の光を散らしながら瞬時に天井近くまで移動し、両手でヤマガラを包みこむ。
     すとん、と床に着地し、そっと両手を緩めた。極力力加減をした結果、ヤマガラは怪我もないようで、首をあちこち向けながら手の中でもそもそと動いている。
     潰したりせず捕まえられて良かった。魈が安堵の息を漏らした──その時だった。
     ガシャン、と。
     背後から、不吉な音が聞こえた。
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