しろい狐とあかい猫今日は何となく、図書室に足を向けた。
今日の放課後は部活がないから、ただ寮に帰るのではつまらない。何か本を借りてじっくり読もうと…色んなジャンルの棚を目移りさせる。
ふと、普段は見ないはずの棚一覧に、”狐と猫”という、グリム童話が見えた。僕はなぜか、その本に目を惹かれた。
内容は言わずもがな、最終的には1つだけ逃げ道を知っていた猫は助かり…沢山逃げ道を知っていたはずの狐が猟犬に襲われてしまうというものだ。
猫…僕は猫は少し、苦手な気がする。
「九尾先輩?」
『…!君か。急に話しかけないでよ』
この子は寺刃ジンペイ。僕と反りが合わない人間のひとりだ。先輩である僕に遠慮なくつっかかってくるし、僕の最愛なるえんら先生にもちょっかいを入れる。
「何読んでんの?絵本?」
『…グリム童話だよ、手に取ってみただけ。それより、君が図書室なんて珍しいね』
「まあな!宿題の参考資料借りるからってコマくんが」
『なるほどね…で、どうせ君は借りないんだろう?』
呆れながらにそう言ってみた。どう返してくるか。
「んーいや、1冊借りてみたくなった」
『…何をだい?』
彼の話が意外なあまり、普段よりワントーン声色が上がってしまった。
「えへへ、先輩の持ってるそれ!」
『は?これグリム童話だよ。勉強では必要ないだろう?』
「いいじゃん、何か面白そうだし。かして!」
戻すのも面倒だったので、彼に言われるがままにその本を手渡した。
狐と猫…あの有名なグリム童話と言っても、グリム童話の中ではこの話はマイナーな方。それに話としては短編集の一つに過ぎず、話も短い方だ。そんな話を読みたいだって?
「ありがと。ところで九尾先輩は何か本借りに来たんですか?」
『…別に。何か興味あれば、借りるつもりだけど。今日はなかったよ。』
「へぇー先輩も本読むんだ」
『まあね。君よりは読んでるよ』
たわいもない会話。早く帰ってくれないかな。
「じゃあこれ借りよっと!九尾先輩じゃあなー」
『…ああ、またね。』
変わった子だ。
僕が鼻を高くして見下げたつもりでも、彼には毎度振り回されてばかりだ。後輩なのに、先輩の僕に歯向かってくる態度。かと思えば、今みたいに甘えた声で猫のように笑顔を向けては去っていく。
なんだか、君は猫のよう。
そして僕は、狐のようだった。
心の奥で忘れているような気持ちに…胸がムズ痒い気持ちになった。