ホワイトデー 甘いお返しを 『今日は何の日か、覚えているかい』
九尾先輩にそう話を切り出されて、はや3分。
全く思い出せない。
「なん…でしたっけ?3月といえばえーと、あ!ひな祭り!」
『それは女の子のお祭りだろう?その先にあるのは?』
「えーー…わかんねー」
なんか忘れてるような気もしたけど、やっぱり思い出せない。なんかあったっけ?
『そうか、この袋見てもまだ分からないかな』
そう言って取り出した紙袋は、とても白くて、光沢感のある綺麗な飾り気のないものだった。でもそれだけでは、何なのか分かるわけが無い。ヒントのつもり?
「わかんねー!え、それ何入ってんの、教えて!」
『せっかちだなあ君は。はい。』
袋を俺の前に突き出すと、先輩は俺の顔をまじまじと反応を見るかのように見つめてくる。
(え?俺に?)
そっと紙袋の紐を受け取り、中を覗く。そこには水色のリボンが結ばれた白く平たい箱が1つだけ入っていた。
「なにこれ」
『…、ホワイトデーだよ!この前一応貰ったから、っ…とにかく僕は、借りは作らない主義なんだ。ここまでいえば、分かるだろう』
(ホワイトデー?チョコ…?あ、もしかしてバレンタインにテキトーにあげたチロルチョコのことか?)
「あけてもいい?」
『どうぞ』
中の包みを全部剥がすと、箱の中には猫の形をした白いチョコが6つ。それぞれ顔が違うようだ。
(これ…俺のために、わざわざ?いや、そりゃないか…女の子ウケするチョコっぽいし、余りでもくれたつもりなんだろ。)
『ああ、1つ言っておくけど。そんなチョコレート。女の子には絶対あげないからね』
「…え?」
『君くらいだよ。そんなもの』
先輩がそう言うと、ちょうどよく学校のチャイムがなり始める。その音を聞いてさりげなく…俺に後ろ手に手を振った。
「俺くらい…なんだ。そっか。」
俺は深く考えず、箱の中のチョコレートを1つつまんで食べて紙袋に戻した。
白いチョコレートの味は、…とても甘くて、少し苦かった。
(終)