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    sumire421232

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    sumire421232

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    マフィアチョロカラが駄弁ってる話

    雑談ビルの屋上から目標地までの射程距離は700M。
    ターゲットはオレたちのボスの殺害計画を企てたナルコの幹部。
    愛人とともに身を潜めている別荘2階右奥にターゲット確認。今からルーティーンの風呂だな。ターゲットは風呂上りに必ずバルコニーに出て日光浴するのが日課だ。バルコニーに出た瞬間、眉間を狙って撃ち殺す。その算段はもう整えてある。
    風速徐々に強まってきているが弾道には問題なし。周囲に気配なし。今の時間は護衛班が手薄になるのは把握済みだ。逃亡経路もばっちり頭に叩き込んである。
    スコープ越しのターゲットにも問題なし。こちらに気づいている様子もないな。
    よしよし。これなら楽に狙撃できるはず。
    「チョロ松、セットしろ。発砲準備開始だ」
    「はぁーーー……」
    隣で腹ばいの低い体勢を取りながらスコープを見つめる狙撃手が、低くだるそうな声を出す。
    「?どうした? 何か問題か?」
    「素っ裸でセックスしてぇ……」
    オレの完ぺきな集中力を途切れさせたのは、一つ下の弟および相棒および恋人のチョロ松だった。
    「な、なんだ急に…。仕事のしすぎで壊れたか?」
    「いや素っ裸でカラ松とセックスしたいなあって……」
    「何言ってるんだ!? いまからターゲット暗殺するってときに言うことじゃないだろ!?」
    顔を見て怒鳴りたいが光学機器から目を離すことは出来ないため、いつもより控えめの声になる。
    そんなオレの声には耳も課さず
    「ねえ、帰ったらしない?」と言ってくる始末。
    「おい……、いまは目の前の任務に集中しろよ」
    「大丈夫だって。ターゲットは今からバスタイムだからまだ射殺位置に来ないだろ。バルコニーに出てくるまであと10分後くらいある。それまでちょっと雑談してようよ」
    「修学旅行の恋バナのノリやめろ!お前いつもはこんな感じじゃないのにどうした!?」
    「別に普通だけど」
    「トド松が観測のときもこんな調子でおしゃべりしてるのか? 緊張感なさすぎだろ」
    「あいつとは無言だよ。今日はお前しかいないからつい本音が漏れちゃうんだよね」
    「嬉しいような嬉しくないような…」
    ファミリーの狙撃チームは、射手である狙撃手スナイパーチョロ松と、風速や射程距離、弾道計算を行いスナイパーを手助けする観測手スポッタートド松、そしてその二人が射撃に集中しているあいだ周囲を警戒し、敵を見つけ次第排除する後方援護と安全管理の側衛手フランカーオレ・カラ松のスリーマンセルで動く。
    今回はトド松が別任務に出向いているため、オレがスポッターとフランカー両方の役割を担っていた。
    二人きりの大事な任務だ。
    そんなときに藪から棒にド下ネタなワイ談をされたらさすがのオレでも驚く。
    オレは気を取り直して周囲をくまなく監視する。
    「僕イチャラブ史上主義者だからさ。裸セックスに憧れるんだよね」
    「チョロまぁつ!?」
    いくら窘めても続けようとする弟に驚きを隠せない。マジでどうしたんだ?こいつ。
    もしかしていつもしているセックスじゃ物足りなくなったとか?
    それにしてもこんなときに言うことではないだろう。
    「そもそもなんで素っ裸でセックスすることがイチャラブになるんだ? 服を着ていてもオレたちはイチャラブだろう!!」
    「いやいやいや……僕に素っ裸のロマンを語らせたら長いよ?」
    「すまん、語らなくて結構だ」
    きっぱりと断ると、チョロ松は「はぁーーー…」と大きなため息をついてそれきり黙ってしまった。
    そうだ、それでいい。狙撃に集中しないと。
    相手側のスナイパーは……、スコープ反射無し、窓陰にも叢にもいないな。
    よしよし、順調にこなせそうだ。
    「…………」
    「…………」
    語らなくて結構だとは言ったものの、自分で聞いておいて会話を遮ってしまったことに若干のうしろめたさを感じる。気まずい。
    今なら、……ちょっとくらいなら聞いてやってもいいかもしれない。
    罪滅ぼしのために会話を続けようと乾いた口を開いた。
    「えーと、その……チョロ松は裸が好きだったのか?」
    「うん?」
    「いやその、意外だなと思って……。お前は着衣プレイやずらし挿入の方が大好きそうなのに」
    「何それ。暗に変態って言ってる?」
    「いや……まあ、……うん」
    咄嗟に出てきた言葉がそれで申し訳ないが、否定してもしようがないので仕方なく頷く。
    だっていつも着衣でセックスしてちゃんと興奮してるじゃないか。
    「別に裸が性癖ってわけじゃないよ」
    チョロ松はさらに声を潜めて言う。
    「仕事や立場を忘れて、ありのままのお前を見たいってだけ」
    「ありのまま……? いつも見せてるが?」
    別に着飾ってるわけじゃないし、チョロ松の前で素を出していないわけではない。確かに兄ぶって嫌がられたりすることはあるけど……。でもありのままってどういう意味なんだ。
    頭の中で反芻しながらも、仕事の集中は切らさないように目標地及びターゲットの見張りは続ける。今のところ異常なし。
    チョロ松はさらに大きなため息をつく。
    「鈍いなあ。スーツもサングラスもホルスターもとったお前を抱きたいって言ってんの」
    「え、あっ、そういうこと?」
    「その肌身離さず持ってる銃や袖の下の仕込みナイフや足爪の毒針や奥歯に隠してる自決用のカプセルとか諸々とっぱらってさ。何もない真っ裸のお前と抱き合って朝までゆっくり眠りたいんだよ」
    「………」
    「不安なことは全部ない世界で…人殺したあとの高ぶりを鎮めるためのセックスじゃなくて、普通の恋人同士みたいな……」
    「それは無理な話だ」
    今度はオレが目を細める。
    「オレたちがマフィアで、トップの右腕同士である以上ありえない。オレたちの役目はボスを守ることであり、それ以外は二の次だ。……だからいくらお前の頼みでもこの銃は手離せない」
    命を賭けて組織に準じている以上、弱さを晒すことはできない。恋人との睦言の最中だろうとも。
    「はぁ……だよねぇ」
    チョロ松の浅いため息とともに、カチカチとスコープの照準を合わせる音が聞こえた。
    「そう言われることは予想してたけどさ……」
    あからさまに落ち込んでいる。
    「す、すまん。でもこればっかりは……」
    「分かってるよ。……じゃあさ、僕たちがこの仕事引退したら、裸でセックスしてくれる?」
    チョロ松がトリガーに指をかけながら聞いてきた。
    諦めが悪い性格は昔からだ。そこまで粘らなくったっていいだろうに。
    「いいけど……でもそのときまで生きてる保証はないし、もし生きていたとしても五体満足じゃないかもしれない。しかもそのころには俺もお前も若くないだろうし、老けたオレの身体じゃ性欲がわかないだろう」
    「は? お前がどんな姿になってもどんな歳になっても抱きつぶせるわ。舐めんな」
    「え……。それって、どういう……」
    「だからぁ、僕はお前が」
    チョロ松が言葉を紡ごうとしたとき。
    黒い影がレンズに映った。
    「!!……きたぞチョロ松!セット!」
    ターゲットが姿を現した。
    風呂からあがったようだ。水にぬれた髪をオールバックにし、上機嫌で歩く姿がカーテンの引かれていない廊下窓からよく見える。
    「目標A地点通過。距離50、40……南南西から風あり、風速7.2、銃口3時の方向に47mm」
    冷静に状況の説明をして、ターゲットがバルコニーのドアを開けると同時に合図を送る。チョロ松は使い慣れたH&K SL8-4を無言で構え、銃口で目標を追う。
    「ハートショット……いや、この角度なら……頭にしよう。手筈通り眉間だ」
    「OK」
    「ヘッドショットエイム……3、2、1」
    カチリ、音がする。 
    「ファイア」
    オレの合図と同時に、大きな破裂音がして耳が軋んだ。
    キィン、と金属同士を打ち付けたような耳鳴りがする。
    チョロ松の放った弾は風に流されながら右にやや傾いてターゲットの眉間に命中した。
    「ヒット」
    後方に血しぶきと脳漿が飛び散り、背後のガラスが割れる。後ろに控えていた愛人が悲鳴をあげているが、その声はこちらまで聞こえない。
    「おお……すごいな」
    「死んだね」
    「きれいな一発だ。やるじゃないか」
    ヘッドショットはターゲットが即死するので反撃の心配もない、スナイパーが行う一番安全な始末の方法だ。しかし通常より距離がある狙撃ではほとんどの場合心臓を狙う。頭よりも照準が合わせやすく簡単に仕留められるからだ。
    頭を狙って外してしまえば場所も知られるうえに逃げられて失敗に終わる。最悪の場合護衛に反撃されて死ぬ。
    今回オレがそんなリスクを負ってまでも頭を狙う指示をだしたのは、チョロ松にはヘッドショットそれができるという確信があったからだ。
    それでもこんなにきれいに眉間に打ち込めるなんて思わなかった。
    天才スナイパーの名もダテじゃないな、と感心してしまう。
    チョロ松はふぅと一息ついて早々に銃を片付け始めた。
    「プロだからね。それより」
    三白眼でオレをじろりと睨む。
    「お前計算ザルすぎ。弾道下に2mmズレてた。僕が撃つ前に軌道修正したからいいけど、あのままやってたら着弾に影響してたよ。ちゃんとして」
    「す、すまん。観測は慣れてなくて。っていうかお前が変なこと言うから集中できなかったんだが」
    「言い訳すんな。……はー、まったく、帰ったらお仕置きね」
    チョロ松は武器の入ったバッグを片手に、もう片方の手でオレの右手を引いた。
    「ほら早くズラかるよ」
    「は、裸でセックスはしないぞ」
    「わかってるよ」
    振り向かず階段をかける。下で迎えの車が待っているはずだ。
    「それは将来の楽しみにとっておく。だから、今日は着衣でいいよ」
    チョロ松が振り返って口端を釣り上げる笑みを見せた。時折見せる子供っぽい笑顔。
    階段を駆け下りながら、そんな未来くるのだろうかとオレも笑った。
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