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    sumire421232

    @sumire421232

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    sumire421232

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    うさぎもGAME様作成の「活劇ロマネスク」の三次創作です。
    あまりにも萌えすぎて、まだ全クリしていないのに書いてしまいましたすみません。
    カプ未満な気もしますが、おそカラです。
    活ロマのシナリオがあまりにも良すぎるので全松好きさんにプレイしてほしい…。
    素敵なゲームです。現在進行形で楽しませてもらってます!!!!

    #おそカラ
    slow-witted

    活ロマ三次創作(おそカラ)勝手に前日譚「チョロ松、ちょっと」

    長期任務から帰ってきたばかりのおそ松は、帰ってくるなり歌劇場の近くにいたチョロ松を捕まえて話しかけた。

    「あ、おそ松兄さん。もう戻ってきたの? ……トト子ちゃんと何もなかっただろうな?」
    「ねえよ。あったらお前らに自慢しまくってるわ」
    鋭い眼光で睨みを聞かせる三男を軽くいなし、うんざりしたように返す。

    陸軍一番のかわいさを誇るトト子隊員とふたりきりの出張任務ということで、チョロ松を筆頭に隊の男全員から妬まれた。何かあったら呪い殺す…と四男の恨みがましい声も聞こえてきた。しかし、兄弟たちが想像しているような”良いこと”が現実に起こるわけもなく……。怪異を始末したらあとはいつも通り買い物の荷物持ちだった。
    最初のほうこそトト子と一緒に歩けるだけで嬉しかったが、隠密から二番隊隊長が怪我をしたという報告を受けて以降は弟の様態を心配する気持ちのほうが勝ってしまった。そわそわと落ち着きのない様子を見かねたトト子が「おそ松くんがそんなんじゃトト子も調子狂うんだけど。全然ちやほやしてくれないし、つまんなーい」と言って報告書を奪い、「これは私が書いとくから、先に帰ってカラ松くんの様子見にいきなよ。そのかわり後であんみつ奢ってもらうからね」と気を利かせてくれたのだった。

    「カラ松体調悪いって聞いたんだけど。どんな感じ?」
    「ああ、それ……」
    焦る長男を落ち着かせるように、チョロ松はゆっくりと報告をする。
    「こないだ温泉街の方で妖怪に切られた傷がなかなか治らないみたいで。一応止血はしたし医務室で治療も受けたんだけど、妖気に充てられて熱も出ちゃったみたいなんだよね」
    「あー。あいつ、妖力低いから…」
    「安静にしてれば2、3日で治るとは思うんだけど……」
    歯切れの悪い言い方におそ松も眉を顰める。
    「最近のあいつは、ほら……ちょっと不安定で無理しがちだから……」
    確かに、ここ最近次男の様子はおかしかった。
    必要以上に鍛錬し、必要以上に妖怪退治に首を突っ込み、必要以上に怪我をして帰ってくる。以前の能天気なカラ松では考えられないような働きっぷりに、口には出さずとも皆が不安そうに様子を伺っていた。そんな中で負傷して寝込んだという報告があれば、気が気でないのも仕方ない。
    「いまは二番隊の部屋で寝てると思う。もし様子見に行くんならこのお団子渡してくれる?」
    歌劇場前に屋台を出している団子屋の、おいしいと評判の三色団子を渡された。出来立てのあたたかさが包み紙から伝わってくる。
    「あとこのおにぎりは十四松からで、このサンドウィッチはトド松から。これは……なんか入ってたけどたぶん一松からだと思う」
    風呂敷から出てきたものはにぼしと解熱薬だった。一松らしい不器用さに思わず苦笑する。
    「悪いけどまとめて渡してきてくれるかな。僕よりおそ松兄さんから渡された方が気持ちも楽だと思うからさ」
    「そうかな」
    「そうだよ。カラ松、弟にかっこ悪いとこ見せられないっていつも言ってるし、弱ってる姿を僕達に見られたくないと思うから。……まあ僕達はあいつのかっこいい姿とか知らないんだけどね」
    そう言って、チョロ松は呆れ気味に荷物を受け渡す。
    「わかった。渡しとく」
    「食うなよ?」
    「食わねーよ!ちゃんと渡すって」
    渡された大きな風呂敷を持ちながら階段をあがっていく。
    土産のひとつでも用意すれば良かったと今頃になって気づいたが、いまさら仕方ない。あとで売店によってあいつの好きなワインでも買ってやろうと思い、二番隊の隊室に入った。
    「あれ?……カラ松?」
    しかしそこにはカラ松の姿はなかった。
    カラ松好みのギラギラした装飾品や行燈が光っているだけで、布団はきれいにたたまれていた。チビ太とじぐ蔵がいないのは五番隊の集団任務に駆り出されていると聞いていたから不思議ではないが、怪我人がいないのはさすがにおかしい。あたりを見渡してもやはり誰もいない。
    「おーい。出てこーい」隠れている様子もない。
    医務室にもいない、劇場裏の庭にもいない……。おそ松は劇場内にいる隊員たちにカラ松の行方を聞いてまわった。
    有力な情報が得られない中で、桃色の染髪を靡かせて小走りに階段をかけあがる女性隊員に声をかけた。
    「あ、ねえレイカ。うちの次男知らない?」
    「橋本です。……カラ松隊長なら、炭鉱場に行くのを見かけました」
    炭鉱場といえば、西方面の立ち入り禁止区域だ。もう使われていない無人の場所ではあるが、人の恨みなどが籠った力の強い妖怪たちのたまり場となっている危険な場所として有名だ。そもそも妖怪退治は一人で行ってはいけないのが原則だ。動けなくなったときに助けを呼ぶため、最低でもふたりで行動するのが基本だった。
    「なんだか疲れていた様子だったので止めたんですけど、大丈夫って言って聞かなくて……」
    「いつごろ?」
    「えっと、2刻前くらいです。結構経つのに戻ってこないから、不安になって……。今から連隊長に報告に行こうと思ってたところなんです」
    「あー、それは……」
    ちょっとまずいかもしれない。
    おそ松は面倒くさそうに頭を掻く。
    熱のある状態であんなところに行ったらすぐに入り込まれて、とって食われる。しかもこれが隊の規則に厳しい連隊長にバレたとなれば謹慎では済まないだろう。
    「それ、オレが片付けとくから報告しなくていいよ。内緒にしといて」
    「えっ」橋本隊員は驚いて、心配そうに声をひそめる。
    「でも、隊長は今任務から帰ってきたばかりですよね? お疲れでしょうし、少し休んだ方が」
    「いや平気。大した件じゃなかったし。それに……」
    カラ松がいなくなるのではないかという不安が一気に襲ってきた。
    橋本隊員の不安そうな顔を見つめながら、自分を落ち着かせるように言う。

    「弟のことは、俺がなんとかしたいから」


    ・ ・ ・

    濃い土埃の匂いがする。
    足場の悪い道をしっかりと踏みしめながら炭鉱場を歩いていく。
    普段なら低級から中級の妖怪がうようよといるはずなのに、数えるほどしか見かけなかった。
    カラ松の仕業か――。直感でそう思った。
    無限といっていいほど沸いてくる妖怪をたったひとりで切り伏せていったのだ。その異様さに息をのむ。
    何のために一人でこんなところに来たのか。最近なぜ異常なほど焦燥しているのか。
    ……何をひとりで悩んでいるのか。
    「俺に相談のひとつもなしに……クソ」
    聞きたいことは山ほどあった。しかしそれもあいつを見つけ出した後だ。土煙を払いながら地下へとくだっていく。

    地下7階の階段をおりたときだった。
    「う」
    禍々しい妖気が溢れ出している。
    (あれは――……)
    おびただしいほどの妖怪がボロボロのカラ松を囲んでいた。
    ここはいわゆる妖怪ハウスだ。何らかの影響で妖力が溢れ、ある一定の場所に妖怪がひしめきあっている状態のことをこう呼んでいる。任務中たまに遭遇することがあるが、速足で逃げても絶対に囲まれる。斬っても斬っても減らない妖怪を前に何度絶望したことか。そんな場所で単独戦なんていくらなんでも無茶すぎる。

    あまりの多さに驚愕した。いつもの比ではない。カラ松から出る妖力と死の匂いに吸い寄せられてきたのだろう。近づくことすら難しい。
    おそ松は目を見開いて、遠くで舞う弟を見た。


    カラ松は血反吐を吐きながら刀を振るい、周りを飛び回る黄泉烏を屠っていた。
    「妖依術、水刀」
    水が刃のように光り舞い、近くにいた烏は弾け飛んだ。
    ――が、あまりにも数が多すぎる。
    烏、猫股、妖樹、……数えきれないほどの数がいる。
    まだ百はいる妖怪を前に、カラ松はその場で膝をついた。しかし休んでいる暇はない。この数では、少しの間でも隙を見せると終わるということをカラ松は知っていた。
    「はー……はー…………」
    もうとうに限界はきている。意識を保っているのがやっとなはずだ。それなのに、力を振り絞り、次の技を繰り出そうと二刀を構えた。
    「妖、依術……」
    (まずい。あいつが使える妖依術のキャパを超えている)
    「水……」
    薄い刀に妖力が籠った水柱が立つ。
    「ごぼっ」それと同時に、強力な力の反動で鼻と口から血が溢れてきた。
    ぼたぼたと零れる血が地面を濡らす。ぐらつく足ではもう立ちあがることもできないらしく、膝をついたまま項垂れる。それを好機ととらえた黄泉烏たちがすかさずカラ松を囲んだ。
    「う、っ」
    「カラ松!」
    見ていられなかった。
    おそ松はすぐさま刀を抜き、妖依術で近くの烏を斬った。赤い炎で周囲を焼き払い道を作る。妖依術は妖怪の力を憑依させる危険な技で、尋常ではないほど精神がすり減る。できれば使いたくはない技だが、そんなことを言っている場合ではなかった。
    傍まで駆け寄り倒れるカラ松を抱きとめると、カラ松はぼやける目で兄を見た。
    「おそ……松……?」
    「お前何やってんの? 倒れるまで妖依術使うとか馬鹿かよ」
    「……なんで」
    カラ松は驚いたようにおそ松の顔を見てから、力なく寄り掛かった。
    「…………なんで、来たんだ……」
    「しゃべんな。説明は後でする」
    まずこの状況をなんとかしなければいけない。おそ松はカラ松を抱きながらあたりを見渡した。
    あまりにも分が悪い。数の差もそうだが、妖力の差も歴然だった。
    いきなり出てきたおそ松に苛立ったのか、一匹の烏が「ギィイイ!!」とおたけびを上げて襲い掛かってきた。
    「チッ、……妖魂掌破!」
    おそ松は掌に妖気を溜め、フッと息を吹きかける。それと同時に多方向に爆破が起こり、妖怪達は怯んで後ずさった。
    すかさず影打ちを放ち、半径1m以内の敵を一層する。
    道は開けた。
    ここでカラ松を守りながら戦うのは無理だと悟る。それに二人一組で行動するときはどちらかが行動不可能になったらもう片方がどんなに元気でも撤退することが規則である。おそ松は瀕死の弟を背負うと、その場を走り抜け勢いよく階段を駆け下りた。

    妖怪ハウスからは脱出できたものの、炭鉱場自体からは出られていない。そこかしこにまだ妖怪がうろついている。とりあえず死角になる場所に隠れ、ぐったりしたカラ松を寝かせた。糸の切れた人形のように力なく横たわる弟を見て、おそ松はなんともいえない気持ちになった。なぜここまで無理をしたのか。自分が来なかったらどうなっていたのか。怒りと同時に、カラ松に対するそこはかとない恐怖も感じた。
    冷えた手を握る。
    「カラ松、生きてる?」
    「………ぅ……」
    体温が下がってきている。妖力の使い過ぎで体力も気力もギリギリなのだろう。もうカラ松は意識すら朦朧としており、目の色も濁っていた。半開きになった口からはぁはぁと荒い息が聞こえるだけだった。
    いますぐに治療が必要な状況だ。
    「手当のスキルないんだよな俺……」
    ここにきて医術の勉強をサボっていたツケが回って来たと思った。一番隊には回復係のトト子、隊長隊には同じく医療を得意とする一松がいるからと、まったく知識を身につけておかなかった。今更になって後悔が襲ってくる。
    止血だけでは到底間に合わないカラ松の状況に、おそ松は大きくため息をついた。
    「あーー、もう……。これしかないか」
    これはもう最終手段だった。ポケットから回復薬を取り出しキャップを開け、自らの口に含む。
    そしてカラ松の顎をつかんで少しだけ上を向かせると、そこに唇を重ねた。
    半開きになった口から、ゆっくりと回復薬を流し込む。舌を使って歯をこじ開け、液体を喉奥までいきわたらせる。
    ごくりと喉が嚥下したのを見届けてから口を離すと、銀糸が唇をつたってひとつの雫になって地面に落ちた。
    「………」
    しばらくすると、ごほ、ゴホと数回咳き込み、カラ松の目が開いた。
    「ぅ、ん……」
    「大丈夫?」
    薬の力は偉大だ。即効性があるこの薬は陸軍特殊部隊専用の妖力剤。瀕死の状態でも一人で歩けるまでには回復する。その分あとからツケが回ってきて寝込むことになるため、相当切羽詰まったときにしか使用しない。

    意識が戻ったカラ松はすぐに上半身を起こして手や足の感覚を確かめていた。
    「すまない、助かった……」
    「歩けそう?」
    「ああ」
    「じゃあ帰るぞ。ほら」
    「……」
    しかしカラ松は差し出されたおそ松の手をとらずに、その場で踵を返した。

    「お前ひとりで帰ってくれ。オレは最地下までいく」
    「はあ?」
    怪訝な瞳でカラ松を睨む。
    妖力も使い果たし、熱もあり、傷だらけの身体でこの地に挑むのは無謀だ。園児にだってわかる。
    「さっきまで死にかけてたやつが何言ってんの?」
    「地下には未解決の怪異がいる。オレひとりで倒して…それで、認めてもらわなきゃいけないんだ……」
    まるで自分に言い聞かせているかのような呟きだった。
    認める? 誰に?……いや、それより。
    「馬鹿。そもそもここはひとりでなんとかできる場所じゃねえよ。お前の妖気にあてられて妖怪も殺気立ってるし……いいからいったん引くぞ」
    「離せ」
    「いや、お前なあ……力強っ」
    手を掴んで引き戻そうとするがカラ松も意固地になっているらしく譲らない。
    何が弟をこうさせるのか。いらだちにも似た感情に、おそ松の手にも力が籠る。
    「離せってばっ」
    「カラ松」
    「だって、オレは……、オレは、ひとりでしなきゃ……!」
    パンッ、と大きな音がした。
    それと同時に、カラ松の頬に熱が走る。
    「しっかりしろ」
    おそ松に襟を掴まれ無理矢理視線を合わせられ、ようやく今思い切り頬を張られたのだと気づいた。
    「何焦ってんのか知らねえけど、引き際を見誤ったら皆死ぬんだぞ。お前はこうやって、間違った判断をして自分の隊員を危険な目に遭わせんのか?」
    カラ松の頬を両手で挟んで、怒りを含んだ声を張り上げる。
    「お前は陸軍特殊部隊弐番隊隊長、松野カラ松だろ!」
    ――弐番隊隊長。
    なんだか懐かしい響きのようにも感じたその役職名。
    カラ松ははっとして目を見開く。
    そうだ。自分は隊長なんだ。みんなを率いる、弐番隊のトップ。
    自分が強くなることだけを考えて、そのことを見失っていた。
    「そうだ……オレは……。そうだったな」
    どうかしていた。もしかしたら焦燥や不安から妖依石に取り込まれかけていたのかもしれない。
    おそ松の言葉によって頭が冷えていくのを感じた。
    「すまない。取り乱した。撤退しよう」
    正気に戻ったカラ松は、おそ松の手を握る。
    「うん」おそ松もそれに応えて、転移装置を放った。


    ・ ・ ・


    歌劇場に戻り、すぐに医療室で治療を受けさせた。
    妖力の補給と体力回復治療を行なったあと、軽い診察から肋骨が折れていたことがわかった。
    あんなにボロボロだったのに骨折だけで済んで良かったとおそ松は胸をなでおろした。普通の人間なら死んでいてもおかしくない状況だったというのに、「運が良いのか体力があるのか、……」と医務員もカラ松の体質に驚いていた。
    しくしばらく安静にということで、二階の弐番隊室で療養することで落ち着いた。
    また勝手にひとりでどこかに行き死にかけると悪いので、おそ松はしばらくカラ松を見張ることにした。

    布団に寝ているカラ松を、隣で春本を読みながら時間を潰す。
    今日と明日を非番にしておいて良かった、とおそ松はひそかに思った。
    「おそ松……お前、いつまでここにいるんだ」
    「お前が良くなるまでだけど」
    「オレはもう大丈夫だぞ。自分の仕事やしたいこともあるだろ? もう自分の部屋に戻っていいぞ」
    カラ松の言葉にむっとして、おそ松は読んでいた本を乱暴に閉じて畳に置く。
    「お前ねぇ、無茶して迷惑かけんのもいい加減にしろよ。こんな不安定なお前を一人にできるわけないだろ。つうかこれ東郷さんにバレたらどうなってたと思う? 隊長が規約違反なんて、謹慎どころか矯正監禁だぞ。あれ本当にキツいんだからな」
    「……」
    「しかも連帯責任だっつって、俺達にまで迷惑かかるんだから。しっかりしろよマジで」
    「すまん……」
    「……」
    カラ松は目を伏せて素直に謝った。
    あまりにもしおらしいので調子が狂う。普段ならハーン!!とクソ顔をきめながら心配ご無用さぁ!オレが東郷さんに子守歌を聞かせて怒りをしずめてやる!!とかなんとか言ってギターを取り出してくるのに。
    「はー……、調子狂うわ」
    こんなにしゅんとしているカラ松の姿は珍しい。
    自分と仕事をしていたときのトト子ちゃんもこんな感じだったのかな、と今さらになって思う。見知った人物が心ここにあらずの状態になっているのはあまりにも居心地が悪い。
    「……なんか食う? これ弟達からもらってきたんだけど」
    話を逸らすように、部屋に置きっぱなしだった風呂敷を持ってきてカラ松の前で開けてやる。
    冷めた団子、形の崩れたおにぎり、ちょっと具がはみ出てしまったサンドウィッチと割れたにぼしが顔を出した。
    「……弟」
    「……?」
    カラ松は上半身を起こして、並べられた食物を見下ろす。
    しかし手をつけようとせず、眉を下げて悲しそうにそれらを見ているだけだった。

    おそ松はひとつため息をついて、カラ松を見る。
    「なあカラ松。お前、どうして一人であんなところ行ったの?」
    「……」
    「何に焦ってる? いや、……何をそんなに不安がってる?」
    「オレは……」
    自分の弱みをみせたくないのだろう。カラ松は言い淀む。
    「俺にだけはなんでも話してよ。お前の、唯一の兄なんだから」

    しばらく黙っていたが、意を決したのかおそ松の顔を見て真剣な瞳を向けながら呟いた。
    「オレ、みんなと違ってひとつしか妖依石を持てないだろ? それが多分、……コンプレックスなんだと思う」
    「妖依石?」
    「うまく言い表せないけど、お前たちと違うことが、その……すごく怖い」
    「それは体質なんだからしょうがないだろ。妖力は努力でなんとかできるもんじゃねえよ」
    「そう、生まれつきだ。でも、オレは頼れる兄であり、頼れる弟でいなくちゃいけないから」
    カラ松は布団の横に置かれていた自身の刀を見た。
    「努力したんだ。なんとか妖依石のかわりにしようと、オレにしか使えない龍水二刀流を会得した。手の豆が全部割れて痕になるほど刀を握って、死ぬ思いで取得したオレだけの二刀流。けど、その後すぐにトド松があっさり三刀流を編み出して……」
    「あー。それは……。あいつはそういうセンスあるからなぁ」
    トド松はけして突出している力を持っているというわけではないが、妖力を操る才が他の兄弟よりも高かった。ちょっと考えてやれば誰でもできるよーと、けらけら笑いながら、なんでもないようにトド松にしか使えない大技を繰り出すことがある。でもそれは末弟自身の才能であり、特殊な能力といっても過言ではない。それを分かっているからこそ誰も気にしていなかった。
    しかしカラ松は違ったのだ。トド松に嫉妬しているというよりは、自分の不甲斐なさを目の当たりにして打ちのめされたという感覚の方が正しいのかもしれない。
    「それでタガが外れたんだと思う。確かに最近のオレはおかしかった。何かに憑りつかれたみたいだった。でもそうでもしないと、頼られるどころか、そもそも追い付くことすらできない」
    カラ松は刀を握りしめて言う。
    「オレは、オレの存在意義がわからない。お前みたいに強くないし、一松みたいに医療が得意なわけでもない。トド松みたいなセンスもなければチョロ松みたいな器用さもない。十四松のような体力もない。どうしたら良いのかわからない」
    微力ではあるが、負の妖力が漏れ出ていた。
    「……別に他の兄弟と比べてちょっと弱くたっていいじゃん。隊長にまでなってんだし、ひとりだけ突出した落ちこぼれってわけでもないんだから」
    「でも、」
    「カラ松がちょっと弱くたって、俺が守ってあげるよ?」
    その言葉にカラ松は一瞬目を見開いて、そしてすぐ悲しそうに眉を下げた。
    「オレは、お前の……、」
    泣きそうなその表情に、どくんと心臓が脈打った。
    あ、まずい。直感でそう思った。
    「お前の隣に立ちたいんだ」


    「カラま――……」
    おそ松が言いかけたとき、
    「おそ松兄さん、カラ松兄さん、ちょっといい?」
    と部屋の戸が開いた。

    「チョロ松」
    「ごめんね。療養中なのに。急ぎの報告があって」
    「何だ」
    おそ松がカラ松の横顔を見ると、さっきまでの泣き出しそうな顔は鳴りを潜めて、眉毛を凛々しく釣り上げたいつもの顔になっていた。
    「連隊長のことなんだけど」
    チョロ松は帯刀していた刀を外して傍に置き、正座でふたりの前に座る。
    いつになく深刻そうな面持ちにおそ松も何も言わずに耳を傾ける。
    「最近妖力のコントロールがおかしいんだ。……身喰いが起こる予兆かもしれない」
    「身喰い?あの人が?」
    「うん。僕も信じられないけど……。いままでの傾向からしてその可能性があるかもしれないってことを頭に入れて、注意しておいてほしい」
    「あの人に限って……。いや、イレギュラーなことに対処するのがオレ達の仕事だな」
    「そうだね。だからもしものことがあったら、僕達で……」
    「…………」
    ――手にかける。
    誰もはっきりとは言わなかったが、全員の頭の中に最悪の事態が想像できた。
    「だから、できるだけ覚悟しておいてほしい」
    「うん、そうだな。こんなときに自分のことばっかり悩んでうじうじしていられないな。……もしものときのために、一刻も早く怪我も治して鍛錬を積まなきゃな!」
    カラ松はがばっと立ち上がって刀を振るった。
    「危なっ! いやカラ松兄さんは療養しててよ! 肋折れてるんでしょ!?」
    「大丈夫だ! さっき手当してもらったから動ける!」
    「いやいやいや復活早すぎだから! いいから寝てて!」
    おそ松はぎゃあぎゃあと騒ぎ立てるふたりの弟を見て笑った。

    (……嫌な予感がする)
    胸に一抹の不安を抱えながら、いまはその違和感に気づかないフリをしていた。


    連隊長が失踪したのは、その数日後のことだった――。

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