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    sumire421232

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    sumire421232

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    マフィアの教育係×新人殺し屋の東カラちゃんです
    知識は全部適当なので流し読みしてください

    #東カラ
    karaEast

    試し行為「1、2、3、4、…5」
    「5.76秒。0.76秒遅い」
    ストップウォッチ片手に、コンマ刻みで正確な数字を見せつけてくる上司にカラ松は内心うんざりしてた。

    深い森の奥にあるコテージには、教育係の上司とカラ松のふたりだけがいた。
    叫んでも声は聞こえないし、脱走しても人里にはつかない。そんな閉ざされた空間は、上司の隠れ家だった。
    身を隠すための別荘だというが、実際にそのようなことに使われたことは一度もない。
    あるときはターゲットを始末する場でもあり、あるときは敵隊組織の人間を拷問する場にもなる。そしていまは組織の一員を育てるため教育の場として使われている最中だった。
    コテージの倉庫には多量の銃器と部品と薬品が詰められており、唯一きれいなこの空間で泊りがけの教育実習中である。
    何もない場所に机といすだけがぽつんと置かれているのは、汚れてもすぐに掃除できるようにという配慮の賜物だった。ミニマリストも真っ青な、本当に何もない空間だ。
    これまでいったい何人のターゲットがここに括りつけられてきたのか、カラ松は知る由もない。
    そんな椅子に座りながら数を数える練習を繰り返す。

    「なあ、これいつまでやるんだ?」
    「5.00秒を20回出すまで」
    「そんなの無理だあ……人間技じゃない」
    「プロになるには、文字通り人間じゃなくなんだよ」
    血の匂いのする机に突っ伏せると、呆れたように頭を叩かれた。

    組織のボスに適正があると認められ孤児院からひろわれてきたカラ松だったが、まだ殺し屋としては半人前で、任務をひとりで遂行したことはない。
    殺しのセンスや人より少しばかり優れた勘なんかよりも、何をするか分からない危うさが上回っており実践ではまだ使えないのだ。
    精神テストの結果、カラ松には倫理観の欠如=サイコパシーの気があるとわかっている。それだけだった。
    身体能力的には並みの並みで、座学に関してはろくな教育を受けてないのか中学卒業程度だった。しかし頭の回転や覚えは良い方なので、ボスは磨き上げれば使えると踏んだのだろう。組織に大切なのは何よりも忠誠心、そして死を恐怖しない心と単純な冷静さ。
    早めに戦力となることを望んだボスは、現在手の空いている男にカラ松の教育を任せた。

    上司は銃器の使い方から長所短所、分解の仕方、改造の仕方、自殺の仕方まですべての知識をカラ松に叩き込んだ。
    覚えられなければ容赦なく殴りつけたし、仕置きと称して指を折ったこともあった。カラ松は暴力に恐怖することなく、黙々と知識を身に着けて行った。

    身近にあるものすべてを武器にする戦い方こそが実践戦闘に役立つ。つまようじを使った人の殺し方も教えた。
    かれこれここ二週間、この木造りの狭い部屋で”立派な仕事人”になるための訓練を受けている。

    しかし今日は3時間以上”これ”をやらされている。ファイブテストというらしい。
    銃の扱い方や対人格闘ならまだ意味があると思えるが、ただただ秒数を数える練習ははっきり言って苦痛だった。
    同じ椅子に長時間座っているからか、尻も痛くなってきたし、喉も枯れてきた。

    「そもそもこれって一体何の訓練なんだ?」
    「んなこと知ってどうすんだ」
    「だって……。ずっと5秒を数えさせられる訓練なんて、目的がわからなきゃやってられないだろ。モチベーションをあげるためにも教えてくれ」
    屁理屈じみた批難だったが、これ以上ごねられても困ると納得したらしい。
    上司は部屋の奥にある隠し扉から黒い球体を持ってきた。

    トン、と机に置かれたそれをまじまじと見つめる。パイナップル状に縦長の球体。カラ松もよく見知ったグレネードだった。
    本物を見るのは初めてだったが、ほぼすべての火器の使い方を頭に叩き込まれているので使い方くらいは知っている。特に改造されていなければ、威力としてはこのコテージが半壊するくらいのものだろう。
    「MK2。軍用のK26でも同じだが」
    目の前に置かれたそれにはセーフティクリップがついていなかった。丸形のリングピンを抜いてさえしまえば今すぐにでも使える品物で、殺し道具というよりはもしもの襲撃に備えた自爆用といったところだろうか。

    「手榴弾はピンを抜いて爆破するまで5秒かかる。頭の中で数字を数えて投げる必要があるんだ」
    「それがなんで秒数を数えるテストにつながるんだ? 別に数えなくったって、抜いてすぐ投げればいいじゃないか」
    「それは馬鹿と素人のすることだ」
    ハッと鼻で笑われた。
    上司は黒い手榴弾を手でわしづかみ、まるでボール遊びでもするかのように上に投げてキャッチする。
    言っている意味が分からずきょとんとしていると、子供らしいと思われたのかまた鼻で笑われた。
    「グレネードは斜め45度に爆破するからすぐに地べたに伏せられたら仕留めきれない。それに爆破までの間に反撃されたり投げ返されたりしたらこっちが死ぬだろ。だからピンを抜き脳内で3秒数えてから投げるんだ」
    カラ松は、ここでようやく上司の言っていることの意味がわかった。
    「確かに、残り2秒じゃ相手は伏せることもできないな」
    「そうだ。だが数秒でも投げ遅れると今度はこっちの腕が吹っ飛ぶことになる。だから少しのズレもない時間間隔を脳ミソに叩きこんでおかなくちゃならない。実際は相手との距離と投げる速度も計算する必要があるが、まあそれはおいおいだ」
    「プロになるなら3秒5秒はもちろん、60秒くらいまではコンマのズレもないくらいきっちり数えられる人間になれ。冷静さはどんなときにも役立つ」
    この時間把握能力はスナイパーでもスポッターでも使える、と付け加え、ストップウォッチのスイッチを2回押して見せた。
    見せられた画面には5.00という数字が並んでいた。
    「すごいな」
    「プロだからな」

    以前ボスが言っていた「目の前で味方が死のうが何があろうが冷静さを欠かないやつだけが生き残れるんだ」という言葉を思い出す。
    いつも命のやりとりをして緊張状態にありながらも冷静を保つプロが「冷静じゃなくなる瞬間」は、はたして存在するのだろうか。
    こんな殺しの役にしかたたない神業を身に着けた人物は、人間らしいという感情はもう捨ててしまっているのだろうか。
    その後何回かファイブテストをしたが、やはりコンマ何秒かのズレがあり、上司のように5.00をたたき出すことはできなかった。
    「冷静に」とは思っていても、それを結果に出すことは難しい。これは努力でどうにかなるものではなく、きっと場数を踏んで慣れていくしかないのだろう。
    しかし、とカラ松は思う。
    上司はもちろん、他のいわゆるプロの面々も、冷静さを失うようなことに直面することはあるのだろうか。場数を踏んだとしても、冷静になれない状況下での焦った姿。数さえ数えられないほどパニックになって焦る姿。
    その姿を、カラ松はどうしても見てみたくなった。

    「東郷さんはどういうときに動揺するんだ?」
    「あ?」
    カラ松の唐突な質問に上司は何も答えなかった。
    「冷静じゃなくなることってあるのか?」
    「……」
    腹の内を探られてると思っているのか、怪訝そうな瞳を向けて押し黙る。
    「いつも冷静な東郷さんが、取り乱すところを見てみたいんだが」
    いまここで銃を向けてみても、多分すぐに奪われて、背中に腕を回されて押さえつけられる。
    自分の頭に銃口を突きつけてみても、そのまま殴られて終わりだろう。
    ではどうしよう。
    「オレが貴方と心中したいと言ったらどうする? 動揺する?」
    「何馬鹿なこと言ってんだお前」
    「しないのか?」
    「当たり前だ。ガキの戯言なんか相手にしてられるか」
    「そうか」
    残念だ。そう言ってカラ松は小首をかしげた。
    「うーん。どうしたら東郷さんが冷静じゃいられなくなるかな」
    「お前な」
    「あ、そうだ」良いことを思いついた、と言ったように笑顔になる。
    「じゃあ、ここでこれのピンを抜いてみるとか?」
    カラ松は上司のほうを見ることなく、手榴弾のプルリングに手をかけた。
    そしてその指を素早く引く。
    「な」
    上司の短い声がした。と同時に、強い衝撃が背中に走った。
    「ッ」
    そして真っ暗な暗闇と上司の煙草臭いにおいが広がる。
    床に押し倒されて、そのまま上に覆いかぶされているのだとわかったのは痛みを感じてから3秒後のことだった。
    「……」

    5秒以上経っても手榴弾は爆発しなかった。

    「あっはははは!」
    張りつめた沈黙を破ったのはカラ松の大きな笑い声だった。
    しんと静まり返った空間に、心底おかしそうな声だけが響いている。
    「あんたのそんな顔、初めて見た」
    覆いかぶさる上司の背中に手を回して抱きしめる。
    どくどくと逸る心臓の音が聞こえる。ああ、この人も人間なんだ。人の命を奪う仕事をしている男でもちゃんと心臓が動いて、冷静さを欠くこともある、普通の人間なんだ。そう思うとたまらなく愛しい気持ちが湧き上がってくる。
    「不発……?」
    転がったままの手榴弾に視線を向ければ、カラ松は悪戯っぽく答え合わせをした。
    「残念、違うぞ。抜いたフリだ。東郷さんなら分かると思ったんだが、こんなにあっさり騙されてくれて気持ち良いぜ」
    よく見れば手榴弾にはリングがついたままだった。
    けらけらと笑うカラ松を見ながら、上司はゆっくり起き上がる。そしてカラ松の襟を乱暴にひっつかんだ。
    「このクソガキ」
    怒った上司に頬を張られてもカラ松の笑いは止まらなかった。
    怒られている状況でも脳内の喜楽を抑えられないのは昔からの性だった。今だって痛みよりも楽しさやおかしさのほうが上なのだ。サイコパシーというよりは、してはいけないことを抑えられない、純粋な子どものようだった。疑問に思ったことはすぐに行動で試す。その後のことは考えていない。
    「あははは、あ、血……」
    カラ松は自分の鼻から血が垂れているのに気づいた。赤黒い血が頬につたい衣服を汚したことで、ようやく声を出して笑うのをやめた。
    「結構強く殴ったな。止まらないぞ、ふふ」
    それでも可笑しそうにくすくすと微笑みながら指で血を掬い取る。
    「てめぇのせいだからな……」
    「うん、わかってる。ごめんな」
    鼻の下をごしごしと拭って鼻血を拭き、カラ松はまた笑顔を見せた。
    「でも嬉しかったんだ、庇ってくれて。使い捨ての駒を育てるだけだと思ってたから。東郷さん、ちゃんとオレのこと大事に想ってくれてたんだな」
    「好きで庇ったんじゃねえ。教育係が教育中の新人を死なせたなんて知れ渡ったら死ぬよりひどい目にあう」
    保身のためだと言いたいのだろう。でも、例えそうだとしても、――カラ松は嬉しかった。
    冷静さを売りにしている男が取り乱したときにとった行動、そのぬくもりに触れ、心が溶けていく感覚に陥る。
    「いままで生きた中で一番おもしろかった、ありがとうな」
    「試し行為なんてガキみてぇなことしやがって。一から教育しなおさねえとだな」
    きちんと本番で使えて、手綱を握れるようにするにはまだ時間がかかりそうだ、と上司は内心ため息をついた。
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