Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    amei_ns

    @amei_ns

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 51

    amei_ns

    ☆quiet follow

    不味そうに食べるトールとうまそうに食べる呂布の雷飛

    「貴様は実にうまそうに食べるな」
     スープを音を立てて啜っていたのでイヤミかと思ったがどうやら違うらしい。トールの言葉に裏はない。言葉そのままの意味だろうな、と呂布は思った。
    「そういうお前は不味そうに食うな」
     イヤミではない、とわかった上だが、口に出たのはそんな言葉であった。
     トールに招かれた食事の席である。呂布は多少薄味なところはあるが美味い料理を、遠慮などせずばくばくと食い荒らしていた。会話も少なく、本当に空きっ腹を埋めるだけのそれである。今日の呂布は腹を空かせていたので、それはもう、豪快に皿を空けていったのだった。
     トールは不味そうに食べる、と言われたことで少し目を見開いた。他人からどう思われていようが関係ないが、関係ないはずなのだが、呂布からそう見られていたというのは、あまり好ましくなかったのだろう。顔を顰めたトールは「しかたないだろう」と言った。
    「神にとって、食事とはあまり必要がない。うまいもの――珍しいものであればたしかに楽しむこともあろうが、こう言った日常のものは大抵飽きていることが多いのだ」
    「ふぅん?」
     呂布は興味なさげに相槌を打った。これが不味く感じる、というのであればどれだけ長い間生きてきたのだろうか。きっと呂布では考えつかないくらいの、途方もない時間なのだろう。
    「では今度お前が我のところに食いに来るか?」
     トールのところで出る食事は呂布のことを考えてか肉が中心であるが大体が北欧のものである。呂布が日々食べているものであれば、トールは珍しいのではと思い、呂布はそう言った。トールは驚いたように呂布を見た。自分はそんなに変なことを言っただろうかと呂布は首を傾げたが、トールはふっ、と微笑み首を横に振った。
    「その気持ちは嬉しいが――やめておこう」
    「なんだ? お前一人分くらいはどうにかなるぞ」
    「いや、そうではない。私は別に構わないが、構う連中がいるからな」
     トールは言外に呂布との付き合いをあまりよく思っていない神の存在を示す。呂布は頭をバリバリと掻いて溜め息をついた。
    「めんどくせぇな、神ってのも」
    「そう言うな」
     トールにとって呂布は特別だが、ほかにとってはそうではないのだ。ラグナロクを戦った戦士といえど、神にとって人間の地位というのはやはり低い。人間に混じって神が食事を取るのは、あまりいいことではない。
     ――それでも。いや、だからこそ。
    「私は、嬉しかった」
    「なにがだ?」
    「貴様が誘ってきたことが、なによりも」
    「……別に、お前がいつもしてることだろう?」
     呂布は照れたように頬を掻いた。まあ、ように、ではなく照れているのだが。そのことも、トールを喜ばせた。心底喜ばしい気持ちで、トールは微笑む。
    「ああ、そうだな」
     呂布はいつも誘われているから、トールを誘った。それは友だと思っているから、という自然な考えからきたことだ。それがなによりもトールは嬉しかった。友だと思っている。友だと思ってくれている。戦って、死合って、武器を交わし、笑い合って、そしてこうして共にいられることが、嬉しかった。
     この友を、もう二度と失いたくない、と。トールは、そう、思った。
     それからその思いが、少しずつ変質していったのは、いったいなにが良くなかったのだろうか。呂布が神であったなら、トールが人間であったなら、そう、思わずにはいられない。けれど二人は、呂布が人間であったから、トールが神であったから、出会ったのだ。だからそれは変えようがない。変わりようが、ないのだった。

     トールが呂布に手を出すまで、それほどの時間を要しなかった。
     友という範囲から外れた二人は、これからどこにどう転ぶのか。それは誰にもわからない。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    ❤😭💖💖👏❤👏👏😭
    Let's send reactions!
    Replies from the creator