つまくれない「Sir、すみませんがこれを脱がしていただけますか?」
これと言われたのは伸ばされた手。その先にある手袋であることはヘラクレスにもわかった。自分で脱げるではないか、とヘラクレスは言おうとしたが、そこになにかジャックの思惑があるのだろう。乗ってやることにした。
「わかった」
そう言ってヘラクレスは大きな手でジャックの手を包んだ。そして手袋の裾に指を入れ、する、と脱がせる。ヘラクレスの不器用な手ではひっくり返ったようにでしか脱がせられないが、その不器用さすらジャックは愛おしいと感じる。くるりと丸まっていく手袋と覗くジャックの白い手。なにがあるのだろう、と考えていたヘラクレスはその爪先が見えて、なるほど、と思った。その爪には、色がついていた。赤から橙へのグラデーション。おそらくフレックに塗られたのだろう。きれいになった爪を、手袋の下にそっと隠し、ヘラクレスに一番に見せようとしていたのがかわいらしいと思う。すっかりと脱がせ終わって、くしゃくしゃになった手袋。それを握り締めながら、ヘラクレスはそっと手を掬い上げた。
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