Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    秀二🐻‍❄️

    ヘキの墓場🪦
    現在はくるっぷメインのため、通常は更新していません

    ☆quiet follow Send AirSkeb request
    POIPOI 89

    秀二🐻‍❄️

    ☆quiet follow

    現代 時間停止

    すべてが停止した街で ある日、街が呼吸を止めた。
     私以外の人間、動物、虫。すべての生き物がその動きを止めた。全く同じ姿形の人形になってしまったように見える。変わらず現れる太陽と月だけが規則的な時の流れを感じさせた。

    「おはよう」

     朝、目覚まし時計で起きる。無機物は相変わらず動いていた。停止する前はスマートフォンを利用していたが、今は電源を落としている。当然インターネットも通話機能も使えないのだから、いたずらにバッテリー残量を減らすこともないだろう。

     ベッドから抜け出しテレビの電源を入れる。勿論テレビ番組は映らない。停止してから毎日確認しているが、もはやこれも惰性だ。何かが映るかなど期待していない。

     カセットコンロで沸かした湯でインスタント味噌汁を飲み、外へ出る。

    「いってきます」

     当たり前だが車や電車なども走っていない。人々はある瞬間を境に、静止したままの姿勢でそこに存在している。通勤通学中と思われる人間が多い。朝の時間帯に停止したのだろう。その瞬間、恐らく私はまだ眠っていた。

     停止した街で何をするか。何もすることなどない。仕事に行く必要もない。毎日、誰か私のように動いていないか確認するためだけ街を見て回る。

    「……」

     今日も街は変わらない。停止した人々で賑わうだけだ。
     
     無駄に歩き回り体力を消耗するのも面白くないので、最寄りのスーパーに向かう。生鮮食品は危うい状態なので、レトルトや缶詰を手に取った。街が機能していない以上、仮にこのまま持ち出しても犯罪にはならないだろう。しかしいつ街が生き返るともしれないし、何より寝覚が悪いためレジに代金を置いておく。できるだけ釣りがないように計算するのが手間だ。

     昼過ぎに家に戻る。買ってきたものを片付け、寝室へ戻った。

    「ただいま」

     月島は変わらずベッドの中にいた。

    「変わりないか」

     横向きに寝転がる月島は、身じろぎひとつしない。あの朝と同じ姿勢のまま停止している。だが他の人間と違うところがひとつだけあった。

    「変わりないならいい」

     月島も停止しているが、私の言葉に反応し瞬きをする。恐らく肯定の意味であれば1度、否定であれば2度瞬きしてみせる。

    「外は今日も変わらずだ。やはり、戻るとしたらお前からではないか。こうして話もできることだし」

     10秒ほど時間をおき、月島は1度瞬きした。

    「気長に待っているぞ。もしかしたら、次にお前が動く時には……同い年になっているということもあるかもしれんな」

     月島は2度瞬きした。
    Tap to full screen .Repost is prohibited

    recommended works