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    秀二🐻‍❄️

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    尾勇です

    それは理解できない歯科医の尾形と、ホワイト企業勤めかつ尾形不在時の通い妻をしてる勇作殿。

    熱が抑えきれず書くか、鯉月…!となったのと同じ時期に書き始めたものです。
    私は「攻めが受けのことでちょっとおかしくなる」のが好きなので尾勇派です。

    ずっとメモ帳に居座っているので、鯉月派の方しかいないだろう場所ですがここに失礼します。いつか完成できたらいいな。



    花沢勇作は、尾形にとって「理解できない」最たるものだ。事実は小説よりもとはよく言ったもので、前世で腹違いの兄弟だった花沢勇作は、またも尾形百之助の腹違いの弟になった。
    偶然再会した際、尾形の頭に前世の記憶が一気に流れ込んできた。母親と父親を殺したこと、顔も覚えていない有象無象を撃ち殺したこと。最後は己を殺したこと。そして、目の前の勇作のことも。

    幸か不幸か、尾形は何事に対しても無感動な男だった。目の前に殺した弟が現れたとて、何かを感じることはない。罪の意識も憎しみも、憎しみに似た他の感情も。もう何もなかった。
    あえて言えば、また兄様兄様と纏わりつかれたら面倒だなという程度。

    勇作も記憶を持っているのだろうか。嫌味なほどに澄んだ瞳を見つめて見たが、何を考えているのかは分からなかった。

    「はじめまして。尾形百之助……兄様ですよね」

    一般的にいって失礼千万とは尾形も承知しているが、大きなため息が出た。

    「はぁ、そうですよ。あんたは花沢勇作殿ですね」
    「殿だなんて……!勇作とお呼びください」
    「ならあんたも兄様なんて堅苦しい呼び方はやめてください」

    でも、私にとっては兄様ですので……。と勇作は歯切れ悪く答えた。

    「まぁ好きにしてください。勇作殿」
    「わ、分かりました。兄様……」

    勇作がどうしてもとひかず、尾形はその場で連絡先を交換した。
    アプリで四六時中メッセージでも飛ばされたらかなわないと電話番号のみを伝えようとしたが、結局メッセージアプリのアカウントも交換する羽目になった。

    終始嬉しそうにする勇作を見て、記憶がないならば気味が悪いし、なかったとしてもそれはそれで恐ろしいと尾形は感じた。

    仕事の繋がり、あとはほんの少しの知人を除いて尾形は誰かにアカウントを教えないようにしている。
    本当に必要な連絡ならば電話をしてくるはずだから、メッセージでちまちまとやり取りできる状態にしておくのは煩わしいことこの上ない。

    久方ぶりに新しいアイコンが友達一覧に並んだ。
    勇作のアイコンは有名な観光スポットでピースをしている写真だった。
    名前はご丁寧に「花沢 勇作」となっている。
    アカウントを悪用されたらどうする気だ、これだから……と呆れた。

    前世で殺した弟と、縁ができてしまった。
    面倒くさい、鬱陶しいとは思えどもそれ以上のネガティブな感情は出てこなかった。
    そのことに尾形は気づかないふりをして、スマホの画面を消した。


    勇作は朝9時に出社に17時半にはきっかり退社できるという、いわゆるホワイトな環境に勤めている。
    雇用にも祝福されているのかと尾形は内心唾を吐いた。

    歯科医である尾形は8時半ごろには出勤し、帰宅時間はなんだかんだ20時を過ぎることがほとんどだ。
    クリニックからほど近い場所に住まいがあるとはいえ、家事は最低限しかしない。
    キッチンは全く使っておらず、せいぜいインスタント食品のあたためや湯を沸かす場に留まっている。

    意外なことに、勇作も一人暮らしをしていた。
    場所はおよそ電車で40分。近くはないが遠いとも言えない絶妙な距離感だった。

    尾形の住まいを知った勇作が、ぜひ手伝いをと申し出るのも当然のことだったのかもしれない。
    あの勇作が家に入ると思うと愉快な気持ちにはならなかったが、跳ね除け続けるのもひたすらに億劫だった。

    「兄様、良いのですか……!合鍵なんて」
    「もう勝手にしてください。知ってると思いますけど、俺はそんなに家に居ませんからね」
    「ふふ。では家事は私にお任せくださいね」

    勇作は尾形の留守時に頻繁に訪ねてくるようになった。
    掃除機で適当に掃除のようなものをしていただけの部屋は、ちりひとつ落ちていない状態になっている。
    適当に袋に突っ込んでいたゴミも分別されていた。
    極めつけは。

    「……あんたは一体何なんだ」

    勇作の手料理が食卓に用意されていた。
    一つ一つラップをかけて、どこから持ってきたのかご丁寧に昭和レトロなフードカバーまでかぶせてある。

    『兄様、今日もお疲れさまです。よろしければ召し上がってください。』

    勇作の心根を表すような、真っ新なメモ帳に腹が立つほど綺麗な文字が並んでいる。
    料理はどれも美味く、栄養バランスがとれていた。

    花沢勇作には、前世の記憶がない。
    尾形はそう結論づけた。

    それからも、勇作は尾形の留守中に訪ねてきては炊事洗濯、掃除などをして本人が戻る前に帰っていた。
    偶然尾形の帰りが早くなったときでも、不思議と勇作には遭遇しなった。

    最後にあったのは、2ヶ月も前のことだ。
    鹿児島の友人からの贈り物をお裾分けしたいといって、いろいろなものを渡してきた。

    別にわざわざ会ってやろうなんて思うはずもない。
    栄養バランスが取れた食事のおかげで体調はすこぶるやくはなっていたが、あくまでゆうさくが勝手に世話を焼いているだけであって、何かしてやるつもりはなかった。
    とにかく、勇作がひたすらそのように姿を見せないことが薄気味悪さのようなものを感じさせた。
    前世は生前のみならず、死後までもああまでべったりとしてきたいたのに。

    メッセージアプリも予想に反して静かなものだった。
    たまに体調はどうだとか嫌いなものはなかっただとか探りを入れてくる。
    何も変わりはなく、とにかくしいたけ以外ならどうともないと送り返すと可愛らしいクマのスタンプが送り返されてくる。
    そんな、ゆるまゆのようなゆったりとした関係が続いている。

    「兄様、お久しぶりです。お変わりはないですか?」
    「えぇ、誰かのおかげで体調はいいみたいですね」
    「お元気そうで何よりです」

    特に自分が世話を焼いているからとは思っていないようだ。
    いつか詐欺に遭うなと尾形はほくそ笑んだ。

    「あっ……今笑ってらっしゃいましたね。何か面白いことでも?」
    「別に笑ってませんが」
    「ふふ、ご自分ではよく分からないのでしょうね」

    その日は勇作が飯に誘ってきていたので、渋々街に出てきたのである。
    常々爽やかな男ではあるが、その日の勇作はいつにも増してにこやかだった。
    尾形は鬱陶しさを感じつつも、おしゃべりに多少は付き合ってやった。



    やはり、勇作も人間ということか。
    尾形は珍しく驚き、瞳を猫のように開いた。
    ダイニングテーブルに伏せて気持ちよさそうに眠っている勇作を揺り起こすと、咄嗟に起き上がり詫びを口にし始めた。

    「あ、兄様!すみません、こんな所で……。すぐに綺麗にして帰りますので」

    途中。





    兄様、あなたは知っているでしょうか。

    私は、本当はあなたが怖いのです。
    あの「最後の瞬間」……私は不思議と驚きはしなかったのですが、やはり人間に備わっている防衛本能というのでしょうか。兄様にじっと見つめられると心臓を鷲掴みにされたような気持ちになります。命を奪われるのではないだろうかと。

    貴方がこわいのです、兄様。

    けれど、貴方の心に触れたくもあるのです。何故でしょうか。

    私はあなたのことが分からない。
    そして、私は私の心さえも分からないのです。
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