熱「またかよ……」
仕事から帰るなり玄関に見慣れた靴を見かけた。
それは、去年の誕生日に黛がプレゼントしたもので、同年にサイズの違う同じ物を黛はもらっている。いわばお揃いなのだが、なんとなく気恥ずかしくてあまり口にはしたくなかった。その靴がここにある、ということは合鍵を渡している後輩が来ているのは確かなのだが、家の中はしんとして、静まり返っていた。1LDKの部屋は、廊下を抜けた先にLDKがあり、その隣に寝室がある。しかし、すりガラスの向こうに灯りは見えない。いつもなら、玄関の音がすれば忠犬のように我が物顔で迎えに来ていたが今日はそれもない。期待してたつもりはないが、それでも毎回されていれば、いやでも期待してしまう。習慣というべきか、なんというべきか。
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