甘え下手 籠絡しようと思えば彼は容易くできるのだろう。
そんなことを、甲斐甲斐しくわたしに世話をやく彼を見て思うのだ。いや、もうすでにされているのかも? なんて考えて任せっきりだったシャワー後のドライヤーを取り戻す。
「このくらいで貴女をどうにかできると思っていませんよ」
「それにしたって頼りすぎだなと思って」
まるでお母さんと子ども……アルジュナは男の人だからせめて兄と妹か。それではよくないと、考えを改める機会にはなった。
「全て任せて戴いても大丈夫ですよ」
清廉としているはずの声が、甘く響く。黒い瞳はどこか含みをもって揺蕩って。
「だめだよ、それじゃわたしじゃなくなっちゃう」
甘い誘惑だとに、つい身を任せたくなることもあるけれど、今はだめだと思う。
544