まるで子どもの初恋のような ルブランではこちらの様子もお構いなしに話しかけてくる。
洗い物をしているときだろうが、カレーの具材を炒めているときだろうが、慎重にサイフォンを扱っているときだろうが。こちらを気遣ったことなどあっただろうか。集中しているから黙っていてくれないか、と乞うたこともあったが首肯されることはなかった。ふと、では自分がいない間はどうしているのだろうか、まさか惣治郎の邪魔をしているのか。訊ねてみると、明智は静かに読書をするか何かしらの資料を眺めて携帯を弄っているということだから、自分の邪魔をするということもルブランに訪れる目的の一つになっているのかもしれない。傍迷惑な話だ。
彼と会話することが嫌いなわけではない。テレビ業界や、警察、その他流行りものなど、自分が知らない世界の話を聞けるのは楽しいし、仲間内では出来ない議論に花を咲かせるのは面白いものだ。彼が何度も自分と議論をしたがっていた理由が今になって分かる。そして何よりも、あの柔らかい声が耳朶に響くのは悪くはなかった。
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