アイベル原稿進捗① ザワザワと賑やかな喧騒の中を、行くアテもなく一人フラフラと歩く。昔から人混みは苦手だが、この身体になって改めて強く思う。なぜ人はこうも群れたがるのだろう。
「いらっしゃーい! 新鮮な魚だよ! ──おっ! そこの美人な姉ちゃん、一匹どうだい?」
小さいながらも港町なだけあって、妙に活気がある。これなら嫌でもミラの情報が集まるかもしれない──そう思いながら、ベルベットはちらりと声の主の方へと視線を向けた。
「っかぁ──っ! 目が合ったらますますべっぴんさんだ! オマケにもう一匹つけちゃおうかな!」
漁師風の男は聞いてもいないことをペラペラとやたら饒舌に語り出す。こんなリップサービスをしなければならないほど、売り上げが芳しくないのだろうか?
970