メルティキスは誰のもの?ブルースとバブルとクラッシュは、お菓子好きのバブルのテレビCMで見たチョコを買ってきて欲しいという要望を聞きブルースが買ってきたメルティキスという雪のようになめらかな口溶けが特徴のチョコレートをリビングで食べようとしていた。
クイックもその場にいたのだが、
「クイック、チョコレートを買ってきたんだ。みんなと一緒に食べないか?」
声をかけたブルースに対して
「俺、甘いの苦手」
顔をしかめたクイック
「この抹茶のは、あまり甘くないらしい、ひとつどうだ?」
ブルースが差し出した一つを受け取り、試しに食べてみる。確かにあまり甘くなくて好みの味だ。
どうやら気に入った様子のクイックを見て、その箱から3つだけ抜き取り残りを箱ごとクイックに渡す。
「これお前に全部やるよ。かわりにこっちのをメタルとエアーに差し入れしてきてくれ」
それと一緒にスタンダードなメルティキスもひと箱渡した。
「わかった!」
滅多に気に入ったものがないチョコを独り占めできて機嫌良くクイックはブルースに遣われた。
3人はソファーに腰掛けた。
雪自体を食べたことがないバブルたちは、その口溶けがどんなものか期待して四角い箱を開けた。
「それじゃ、まず一つ…はい、クラッシュ。あーん」
バブルの左隣で、個包装を開けチョコをクラッシュの口に運ぶブルース。
・・・ぱくっ・・・
それを当然のようについばむクラッシュ。そしてクラッシュがチョコを食べる様子をニコニコしながら眺めるブルース。
それはまるで子猫がミルクを舐める様子を眺める飼い主さながらである。
ブルースって本当にクラッシュのこと好きなんだなぁ…。こういうの親ばか?兄ばか?…なんていうんだろ。
バブルは若干呆れつつ、チョコを味わいながらブルースを見ていた。軽く噛むだけで口の中からなくなるそれはまさにトロける味わいだ。表面のほろ苦いココアのあとからくる苺の甘酸っぱさがたまらない。すぐ次に手を伸ばす。
クラッシュもすぐに口の中からなくなったのか、
「・・・ブルース、もう一個・・・」
次のチョコをねだっている。
「ん、ほら・・・」
すでに用意していたブルースが次を差し出す。指先に溶け出したチョコがついているのを指ごとクラッシュが食べる。
「お、俺の指まで食べるなよっ」
さすがに慌てるブルース。その指にはクラッシュの唾液がついている。
「・・・チョコ、もったいない・・・」
口をもごもごさせながら言うクラッシュ。
「そうだよな、クラッシュはえらいな!」
その言葉にすぐに態度を変えるブルース。デレデレだ。もはや呆れを通り越して気持ちワルい。でもチョコは美味しい。バブルは3個目に手を伸ばした。そういえば…
「ブルースは食べないの?」
ブルースはクラッシュが食べるのに見とれていて、まだ一つも食べていなかった。
「あ、そうだな…それじゃ俺も」
ひとつを口にいれた。
「・・・ん?」
不思議そうにブルース
「どうしたの?」
チョコが溶けるのを感じながらバブル
「ほけない・・・」
おそらく“溶けない”と言っているのだろう。
「え?僕のはすぐ溶けたよ」
「・・・ブルース、見せて・・・」
二人のやりとりを見ていたクラッシュが言った。2個目はすでに口の中からなくなっていた。
「ほあ」
少し躊躇いはあったものの、溶けていなくて原型そのままなのがわかっていたからクラッシュに口を開けて見せた。
それを見たクラッシュはブルースに顔を近づけてそのまま…
「!!…クラッシュ!?」
声をあげたのはバブルだった。
クラッシュが顔を横に傾けたと思ったら、自分の口の中にクラッシュの舌が入ってきて、チョコを絡めとったかと思ったら、少しして砕かれたチョコが唾液と共に口内に返された。
「・・・溶けた?・・・」
クラッシュが期待した目で見上げてきている。
確かに砕かれ唾液に晒されたチョコはすぐに液体と化した。
「・・・うん///」
ブルースはどぎまぎした様子で頷いた。が内心、狂喜乱舞していた。
(クラッシュ可愛すぎる!!!)
違う意味で唾液が出てきた。もしブルースに血が流れていたなら、いまごろ鼻から大出血していたかもしれない。
クラッシュとしてはキスをしようと思ってのことではなかった。普段世話を焼いてくれているブルースにちょっとした恩返しをしたかっただけなのだ。だがキスはキスだ。
ブルースは、なんとか理性を呼び戻し、クラッシュに語りかけた。
「クラッシュ、ありがとな」
笑顔で礼を言う。
「・・・うん。」
役に立てたのが嬉しいのか、クラッシュは少し照れぎみに頷く。その仕草も可愛いくて思わず頬が緩むのを引き締め、
「でもな、その…こういうことはだな、本当に自分が特別だと思っている人としかしちゃダメだ」
ブルースは少し照れながらも真面目にクラッシュの無垢な目をみて言っていた。
バブルはそれを少し意外そうに見ていた。前はブルースはメタルを好きなのだと思っていたけれど、クラッシュが生まれてからは、まさにベタ惚れ状態で、率先して手先が不器用なクラッシュの世話を焼いていたから、もしかしたらメタルのことはもう好きではなくてクラッシュに本気なのかと思い始めていた。けれど、それは違うのだ。今のではっきりした。そして最近なんとなく元気がないように見えるのは、おそらく気のせいなんかじゃない。
「・・・こういうことって?・・・」
クラッシュが首をかしげる
「えっと、あ~…その自分の唇と相手の唇を合わせること、だ。」
キスというのが恥ずかしいのかブルースは婉曲した表現をした。
「・・・ふーん・・・」
よくわからないといった様子でクラッシュは言った。
「いつかクラッシュにもわかるようになる」
ブルースはにこっと愛おしそうに笑って
「ほら、チョコまだあるから・・・」
クラッシュのためにまた一つチョコを取り出した。