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    東瀬響

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    東瀬響

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    渕上要の悪夢と休暇について

    ##異能バディ

    ――「貴様には人の心がないのか」

     ビクリと体が反応したのをきっかけに目を覚ました。
     嫌な夢だったと、たぶん思う。何も覚えてはいないのに、あの言葉だけがふかくふかく突き刺さっている。
     ブブッと枕元に置いたスマホが鳴って、5時半を表示するその下に2つメッセージが表示されていた。さきほど自分が目覚めたのはこの最初の通知によるものだったらしい。

    『今日は丸一日オフでいいよ』
    『後輩の指導も休むこと』

     普段は必要ないことまで喋るくせに、この名雲真昼という男は活字になると簡潔だ。それでいて有無を言わさないのだから、僕はまだ眠っていることにしてスマホを枕元に伏せた。

    「心……」

     ないのだろうか。自分には。
     心がどこにあるかわからないので、なんとなく心臓付近に触れてみる。
     ……昔、穏やかに心拍するそいつが止まった日のことを思い出す。

    『貴様には人の心がないのか』

     空いた左腕で無理やり目を閉ざした。鼓膜を劈くような叫びを聞いたのは初めてだった。
     人が死ぬのは今に始まったことじゃない。
     人の死を見るのは、あれが初めてじゃない。
     だから、涙なんか出なかった。泣ける映画を連日見て連日泣ける人間は少ないだろう。それと同じじゃないのか。人の死は。

    『名雲さんて、人が死んだらどうなりますか』

     気づけば文字を打ち込んでいた。
     休暇のメッセージの下で深く考えずに流れた思考がそのまま表示されいる。

    『人による』

     さっきよりも簡潔な答え。
     まぁ、そうか。

    『藤堂粟生が死んでも涙は出ないけど、雅や君が死んだら悲しむよ』

     ……。

    『休みなさい』
    『後輩に経験を積ませたい』
    『要』

     ぽんぽんと表示されるメッセージに返事をしないでいると、画面が変わり着信を知らせ始める。
     出るか迷ったのはほんの少し。どうせ出るまで掛けてくるだろう。

    「ハイ」
    『元気そうで何より。誰かに何か言われたりしたか?』
    「いいえ別に。夢の内容を引きずりました」
    『ああ、嫌だよねぇああいうの。俺もたまに嫌な夢見るよ』
    「どんな夢ですか」
    『んー、人が死ぬ夢』

     要もそうだろ? と見透かしたように声が聞こえる。
     自分の見た夢で人が死んだのかは覚えていないけど、あの人が死んだ時に言われた言葉だったから、たぶん、間違ってはないだろう。

    「……それで、泣いたりしますか」
    『藤堂粟生が死んでも涙は出ないけど、雅や君が死んだら悲しむよ』
    「さっきと同じじゃないですか」
    『そうだよ~。俺の答えは変わらない。……で? 要は藤堂粟生が死んだ時、その感じだと泣かなかったのかな?』
    「…………」

     答えを、返答を、待たれている。
     どうだっただろうか。いや、考えるまでもない。泣かなかった。あの人が死んだ時、涙は出なかった。

    「泣きませんでした」
    『じゃあ、それでよくない?』

     あっけらかんとそう言われて、そうか? と問い直す。
     ちいさく息を吐く音が、微かに聞こえた。

    『どんな夢を見てそんなに悲しい思いをしているのかしらないけど』
    「……勝手に“同調”しないでくださいよ」
    『あはは、悪いね。ま、けど、理由は知らないけどさ』

     部屋がほんのり明るくなる。6時を過ぎたカーテンの向こうは、きっと朝日が顔を出している。

    『涙が出なかったことは、君が藤堂粟生に対して何の感情もなかったことにはならないよ』

     かなめ、と、この人はたまに、子供の手を引くみたいに名前を呼ぶ。

    『要は薄情じゃない』

     言い聞かせるみたいに言葉を紡いでくる。
     すっと心が軽くなって、けれどそのことに少し引っかかりを覚えて。あやふやに、ふたしかなまま、乱れた心が凪いでいくのが腑に落ちない。

    『分かったら寝るなり朝飯食べるなりして、明日からまたヨロシク』
    「……はい。名雲さんも、無理なさらず」

     軽快な音が通話の終わりを告げた。
     雀の鳴き声が聞こえる。寝るか迷ったが眠気はとうに失せているし、このままベッドにいても気落ちしそうだ。
     ゴミ袋が玄関を塞ぎそうなことを思い出して起き上がる。
     朝ご飯は雅ちゃんに貰った食パンを使おう。卵は今日で賞味期限が切れるはずだから目玉焼きにして乗せて、ベーコンは、ないな、ハムでいいか、それから、後輩たちに昼食でも持っていってあげよう。指導じゃないから問題ないはずだ。
     ゴミ袋を3つ持って外へ出る。まだ人気のないマンションのごみ捨て場にそれらを投げ入れ、ふと外を見る。
     
    「……うーん」

     おはよう目が合ったねと言わんばかりに、距離的にも高さ的にも数十メートル離れた電柱から“ノイズ”が飛んでくる。3つの目玉が自分を捉え、鋭利な手足が攻撃のために向けられている。
     マンション内で争いたくはない。迎え撃とう。手摺壁に立って、そのまま空へ。

    「名雲さんからの『休めよ』で休めた試し、ないんだよなぁ」

     その日、僕は報告書を書き上げ、隕石が落ちたような振動と痕跡があると騒ぎになっているのを横目に後輩と昼食摂り、そのまま彼らに稽古をつけた。
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    東瀬響

    DONE柴嶺、柘榴と真山の転生パロ②大学構内、第2学舎へ続く渡り廊下。
     初めて千暁と再会して別れたあの日から、すれ違うことのなかったそいつはふらりと俺の前に立ちふさがった。
     何の用だ、と目を向ける。そして見張る。あの日とは違う、意志の強い眼差しが俺を射抜く。

    「ッ、……やっぱお前、憶えてんだろ」

     思わず距離をとった。千暁が手のひらをこちらへ向けたからだ。

    「……もう炎は出せねぇよ」

     千暁が腕を下ろす。ポーズは間逆なのに、降参しているように見えた。
     一瞬体中が熱くなったけど、それも本当に一瞬で、すぐに訪れたのは呆れだった。 自嘲するように笑みを浮かべる千暁は記憶よりもずっと痩せていて、再会した時掴んだ腕の感触は間違いではなかったと確信する。
     かばんから出した紫の炭酸を投げ渡され、少し話がしたいと示された。缶を受け取ると千暁は小さく息を吐く。

    「俺だって、もう消えたりしねーし、悠真も同じ。幻なんて、薬でもキメない限り見れないってさ」
    「何、アイツそんな冗談言うようになってんの」
    「そーだよ。俺が仕込んだ」
    「言い方。いつ?」
    「俺は幼稚園の時。何回やっても壁すり抜けらんねぇから思い出した」
    「ヤバイ子供 1835

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    東瀬響

    DONE柴嶺、柘榴と真山の転生パロ②大学構内、第2学舎へ続く渡り廊下。
     初めて千暁と再会して別れたあの日から、すれ違うことのなかったそいつはふらりと俺の前に立ちふさがった。
     何の用だ、と目を向ける。そして見張る。あの日とは違う、意志の強い眼差しが俺を射抜く。

    「ッ、……やっぱお前、憶えてんだろ」

     思わず距離をとった。千暁が手のひらをこちらへ向けたからだ。

    「……もう炎は出せねぇよ」

     千暁が腕を下ろす。ポーズは間逆なのに、降参しているように見えた。
     一瞬体中が熱くなったけど、それも本当に一瞬で、すぐに訪れたのは呆れだった。 自嘲するように笑みを浮かべる千暁は記憶よりもずっと痩せていて、再会した時掴んだ腕の感触は間違いではなかったと確信する。
     かばんから出した紫の炭酸を投げ渡され、少し話がしたいと示された。缶を受け取ると千暁は小さく息を吐く。

    「俺だって、もう消えたりしねーし、悠真も同じ。幻なんて、薬でもキメない限り見れないってさ」
    「何、アイツそんな冗談言うようになってんの」
    「そーだよ。俺が仕込んだ」
    「言い方。いつ?」
    「俺は幼稚園の時。何回やっても壁すり抜けらんねぇから思い出した」
    「ヤバイ子供 1835