Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    東瀬響

    (no profile)

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 3

    東瀬響

    ☆quiet follow

    柴嶺、柘榴と真山の転生パロ

    #異能バディ
    supernaturalBuddy

    「何飲む?」
    「…………じゃあ、ブラック」

     ベンチに腰掛けた男が絞り出すようにつぶやいた。
     黒い缶と、さっき押した自分の分のお茶と、それから壁に凭れて一言も発さない柘榴のレモン味の炭酸が深夜の公園にガコガコと音を響かせて落ちた。
     無言で冷えた炭酸の缶を柘榴に渡すと、カーディガンの袖を伸ばして受け取った。目も合わさないのは決して俺のせいじゃない。完全にとばっちり。なのにこうしてご機嫌取りに勤しんでいるのだから、後で双方から褒められでもしないとやってられない。

    「ほら、真山も」
    「……ありがとうございます」
    「いい加減にしろよ」
    「何すか」
    「は? ソレだよソレ。言わなきゃ分かんね~か」
    「主語がないんですけど」

     チィッ、と長く打たれた舌打ち。それに怯みもしない真山は、むしろ対抗するように柘榴を下から睨みつけた。

    「なんですぐ喧嘩腰になるわけ? こっちの身にもなってよ」
    「どっちの身だよ。お前はムカつかねーのかよ」
    「別にムカつかない」
    「ムカつくだろフツー! なんで憶えてないんだよって、悠真はキレていいだろ!」
    「なんで柘榴がキレてるんだよ、全く」

     溜め息がこぼれる。
     柘榴は布越しに黄色い缶を握りしめて、荒くなった呼吸を整えた。真山はその間、俺と柘榴から目を背けて手元を見つめるだけだった。

     ――俺と柘榴が出会ったのは小学生の時だ。小5の時に俺が柘榴の学校に転校して、自己紹介の時、俺が名前を言うよりも先に「あ! 悠真じゃん」と言われてから全部“思い出した”。
     俺達には、俺達が生まれる前の記憶がある。
     前世と呼んで良いそれはまるでおとぎ話のような人生だったけど、確かに存在した世界だった。現に中学では「かつて魔法と呼ばれる不思議な力がありました」とテストに1問は出る内容が教科書に乗っていたのだから、そしてそれを「魔法じゃなくて異能だ」と柘榴と共に訂正もできるのだから、この記憶をただ脳がイカれただけだと処理するにはあまりに都合が良すぎた。
     それから柘榴とは中学高校、果ては大学まで仲良く進んだ。……俺のバディ、真山千暁とは合うことのないまま。

    「……申し訳ないけど」

     口を開いた真山の紡ぐ言葉に、なんの期待もしなかった。
     如何せん、コイツのことは俺がよく知っていた。

    「オレ、ほんとに分かんないから」
    「だよね。ごめんね」
    「……別に、いいですけど」
    「ッッハァ~~~嘘乙じゃん!」
    「もう、柘榴、いいから」

     怒りを抑える気のない柘榴を制して、それから真山を見る。
     俺の知る真山とは無縁のブラックコーヒーを飲むその人は、確かに前世の俺のバディだった。

    「すみません、なんか」
    「ううん、いいよ、ほんと」

     だけどこの敬語も、このよそよそしさも、俺の知る真山千暁ではない。
     ……サークルの勧誘をすり抜けている真っ最中、俺達は出会った。今日のことだ。柘榴がかつて俺にしたように「千暁じゃん!」と腕を引いたのが最初。
     自分の視界が輝いたのが分かった。鼓動が高鳴った。真山に会えないな、と時折こぼす柘榴とは違って、俺はそれほど主張してこなかったけど、実際目にすると思っていたよりずっと心待ちにしていたことを実感した。
     だから、驚いた顔が切り替わって、怪訝になって「どこかで会いましたっけ?」なんて言われたとき。さっきまで輝いていたはずの視界は色を失ったし、高鳴った鼓動が耳につくほどの静寂と冷えていく体は、ひたすらに絶望を訴えていた。
     それからの柘榴は今と変わらぬ怒りを振りまいて、バイトがあるからと俺達を撒いた真山を追いかけなかった俺に変わってバイト先を突き止め、待ち伏せをし、公園に引っ張り、予め用意された俺は心底驚きながらも柘榴と真山に飲み物を驕ったのだった。

    「ほんと、もう、いいから」

     声が震えたのはバレバレだっただろう。そして予想外だったのだろう。柘榴が言葉を紡ぐのを辞めて、俺の背中を1つ叩いた。

    「ごめんなさい」
    「いいって。ムカついてないしさ」

     ちらりと真山へ目をやると、1度視線が交わったものの逸らされてしまった。鼻がツンと痛んだ。胸が少しだけ苦しい。

    「……行くか」
    「そうだね」
    「悪なかったな」
    「いえ。こちらこそなんか、期待に添えなかったみたいで」

     グッと舌を噛む。涙が溢れそうになったのは、背中に添えられた柘榴の手が暖かかったからだ。最後まで突き放す言葉に砕けそうな心を支えてくれたからだ。

    「……ムカついてないけどさ」

     歩みを止める。柘榴が俺の顔を心配そうに見ている。

    「けど、ちょっとだけ、悔しいよ」

     振り向かず告げた。後ろで立ち上がる音がしたけど、柘榴が威嚇でもしたんだろうか、それ以上彼が行動を起こすことはなかった。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    東瀬響

    DONE柴嶺、柘榴と真山の転生パロ②大学構内、第2学舎へ続く渡り廊下。
     初めて千暁と再会して別れたあの日から、すれ違うことのなかったそいつはふらりと俺の前に立ちふさがった。
     何の用だ、と目を向ける。そして見張る。あの日とは違う、意志の強い眼差しが俺を射抜く。

    「ッ、……やっぱお前、憶えてんだろ」

     思わず距離をとった。千暁が手のひらをこちらへ向けたからだ。

    「……もう炎は出せねぇよ」

     千暁が腕を下ろす。ポーズは間逆なのに、降参しているように見えた。
     一瞬体中が熱くなったけど、それも本当に一瞬で、すぐに訪れたのは呆れだった。 自嘲するように笑みを浮かべる千暁は記憶よりもずっと痩せていて、再会した時掴んだ腕の感触は間違いではなかったと確信する。
     かばんから出した紫の炭酸を投げ渡され、少し話がしたいと示された。缶を受け取ると千暁は小さく息を吐く。

    「俺だって、もう消えたりしねーし、悠真も同じ。幻なんて、薬でもキメない限り見れないってさ」
    「何、アイツそんな冗談言うようになってんの」
    「そーだよ。俺が仕込んだ」
    「言い方。いつ?」
    「俺は幼稚園の時。何回やっても壁すり抜けらんねぇから思い出した」
    「ヤバイ子供 1835

    related works

    東瀬響

    DONE柴嶺、柘榴と真山の転生パロ②大学構内、第2学舎へ続く渡り廊下。
     初めて千暁と再会して別れたあの日から、すれ違うことのなかったそいつはふらりと俺の前に立ちふさがった。
     何の用だ、と目を向ける。そして見張る。あの日とは違う、意志の強い眼差しが俺を射抜く。

    「ッ、……やっぱお前、憶えてんだろ」

     思わず距離をとった。千暁が手のひらをこちらへ向けたからだ。

    「……もう炎は出せねぇよ」

     千暁が腕を下ろす。ポーズは間逆なのに、降参しているように見えた。
     一瞬体中が熱くなったけど、それも本当に一瞬で、すぐに訪れたのは呆れだった。 自嘲するように笑みを浮かべる千暁は記憶よりもずっと痩せていて、再会した時掴んだ腕の感触は間違いではなかったと確信する。
     かばんから出した紫の炭酸を投げ渡され、少し話がしたいと示された。缶を受け取ると千暁は小さく息を吐く。

    「俺だって、もう消えたりしねーし、悠真も同じ。幻なんて、薬でもキメない限り見れないってさ」
    「何、アイツそんな冗談言うようになってんの」
    「そーだよ。俺が仕込んだ」
    「言い方。いつ?」
    「俺は幼稚園の時。何回やっても壁すり抜けらんねぇから思い出した」
    「ヤバイ子供 1835

    recommended works

    東瀬響

    DONE柴嶺、柘榴と真山の転生パロ②大学構内、第2学舎へ続く渡り廊下。
     初めて千暁と再会して別れたあの日から、すれ違うことのなかったそいつはふらりと俺の前に立ちふさがった。
     何の用だ、と目を向ける。そして見張る。あの日とは違う、意志の強い眼差しが俺を射抜く。

    「ッ、……やっぱお前、憶えてんだろ」

     思わず距離をとった。千暁が手のひらをこちらへ向けたからだ。

    「……もう炎は出せねぇよ」

     千暁が腕を下ろす。ポーズは間逆なのに、降参しているように見えた。
     一瞬体中が熱くなったけど、それも本当に一瞬で、すぐに訪れたのは呆れだった。 自嘲するように笑みを浮かべる千暁は記憶よりもずっと痩せていて、再会した時掴んだ腕の感触は間違いではなかったと確信する。
     かばんから出した紫の炭酸を投げ渡され、少し話がしたいと示された。缶を受け取ると千暁は小さく息を吐く。

    「俺だって、もう消えたりしねーし、悠真も同じ。幻なんて、薬でもキメない限り見れないってさ」
    「何、アイツそんな冗談言うようになってんの」
    「そーだよ。俺が仕込んだ」
    「言い方。いつ?」
    「俺は幼稚園の時。何回やっても壁すり抜けらんねぇから思い出した」
    「ヤバイ子供 1835