ALL 異能バディ 東瀬響DONE柴嶺、柘榴と真山の転生パロ②大学構内、第2学舎へ続く渡り廊下。 初めて千暁と再会して別れたあの日から、すれ違うことのなかったそいつはふらりと俺の前に立ちふさがった。 何の用だ、と目を向ける。そして見張る。あの日とは違う、意志の強い眼差しが俺を射抜く。「ッ、……やっぱお前、憶えてんだろ」 思わず距離をとった。千暁が手のひらをこちらへ向けたからだ。「……もう炎は出せねぇよ」 千暁が腕を下ろす。ポーズは間逆なのに、降参しているように見えた。 一瞬体中が熱くなったけど、それも本当に一瞬で、すぐに訪れたのは呆れだった。 自嘲するように笑みを浮かべる千暁は記憶よりもずっと痩せていて、再会した時掴んだ腕の感触は間違いではなかったと確信する。 かばんから出した紫の炭酸を投げ渡され、少し話がしたいと示された。缶を受け取ると千暁は小さく息を吐く。「俺だって、もう消えたりしねーし、悠真も同じ。幻なんて、薬でもキメない限り見れないってさ」「何、アイツそんな冗談言うようになってんの」「そーだよ。俺が仕込んだ」「言い方。いつ?」「俺は幼稚園の時。何回やっても壁すり抜けらんねぇから思い出した」「ヤバイ子供 1835 東瀬響DONE柴嶺、柘榴と真山の転生パロ「何飲む?」「…………じゃあ、ブラック」 ベンチに腰掛けた男が絞り出すようにつぶやいた。 黒い缶と、さっき押した自分の分のお茶と、それから壁に凭れて一言も発さない柘榴のレモン味の炭酸が深夜の公園にガコガコと音を響かせて落ちた。 無言で冷えた炭酸の缶を柘榴に渡すと、カーディガンの袖を伸ばして受け取った。目も合わさないのは決して俺のせいじゃない。完全にとばっちり。なのにこうしてご機嫌取りに勤しんでいるのだから、後で双方から褒められでもしないとやってられない。「ほら、真山も」「……ありがとうございます」「いい加減にしろよ」「何すか」「は? ソレだよソレ。言わなきゃ分かんね~か」「主語がないんですけど」 チィッ、と長く打たれた舌打ち。それに怯みもしない真山は、むしろ対抗するように柘榴を下から睨みつけた。「なんですぐ喧嘩腰になるわけ? こっちの身にもなってよ」「どっちの身だよ。お前はムカつかねーのかよ」「別にムカつかない」「ムカつくだろフツー! なんで憶えてないんだよって、悠真はキレていいだろ!」「なんで柘榴がキレてるんだよ、全く」 溜め息がこぼれる。 1979 東瀬響MOURNING渕上要の悪夢と休暇について――「貴様には人の心がないのか」 ビクリと体が反応したのをきっかけに目を覚ました。 嫌な夢だったと、たぶん思う。何も覚えてはいないのに、あの言葉だけがふかくふかく突き刺さっている。 ブブッと枕元に置いたスマホが鳴って、5時半を表示するその下に2つメッセージが表示されていた。さきほど自分が目覚めたのはこの最初の通知によるものだったらしい。『今日は丸一日オフでいいよ』『後輩の指導も休むこと』 普段は必要ないことまで喋るくせに、この名雲真昼という男は活字になると簡潔だ。それでいて有無を言わさないのだから、僕はまだ眠っていることにしてスマホを枕元に伏せた。「心……」 ないのだろうか。自分には。 心がどこにあるかわからないので、なんとなく心臓付近に触れてみる。 ……昔、穏やかに心拍するそいつが止まった日のことを思い出す。『貴様には人の心がないのか』 空いた左腕で無理やり目を閉ざした。鼓膜を劈くような叫びを聞いたのは初めてだった。 人が死ぬのは今に始まったことじゃない。 人の死を見るのは、あれが初めてじゃない。 だから、涙なんか出なかった。泣ける 2104 1