あわれっぽくクンクン鳴く様は、犬っころみたいだ。
身長差のせいでこちらを見上げるから、尚更に。
思わず頷いてやりたくなった自分自身に舌打ちして、見えない尻尾をぶんぶん振ってるドギーの脛を蹴り上げる。
「いてっ……‼」
「あんなくっそ甘ったるい匂いしかしねえトコに行けっかよ! だいたい何でオレなんだ」
「うう……いちいち蹴らないでくれ。そりゃあ、君しかいないからだけど」
その答えに、思わず目を眇める。
確かに、今はあいつらがまだ到着していない時期だ。あの女はそもそも海外ツアーの真っ最中だし、ナデシコはこいつの道楽に付き合えるほど暇じゃない。ナデシコについているヤツらも同様だ。
だから、オレを捕まえた。
ルークからしてみれば、それは当然のことだ。
きっと、他の奴がいたら、そっちに頼む。
もちろんその方がオレにとっては良いはずなのに、何故かやけにその事実がイライラした。
「警察官が、善良な市民を騙していいのか?」
「騙してないよ」
「アァ?」
「だって、カップルになってくれなんて、好きな相手にしか言えないだろう?」
じっとオレを見据えるルークの、耳のふちが僅かに朱く染まっている。抜けるような白い肌を、鮮やかに彩る色に強く引き付けられた。
思わずルークを見つめ返すと、目線がうろうろ泳ぎはじめる。少しずつ肌の赤みが増して、やっと合った視線の先の緑はわずかに潤んで見えた。
「だから、君しかいないんだ」
いつしか頬まで真っ赤に染めて、ほとんど吐息で出来た呟きが転がる。視線をかわして目を伏せている、その様子は物慣れないくせに充分人を誘う色を帯びていた。
こくりと喉を鳴らす動きに、目が離せなくなる。
「オレでいいって?」
わざとらしくからかうように紡いだ自分の言葉は、少し掠れてどこか上滑りしているように聞こえた。何が気に入らないのか、キッと強い視線に睨まれる。まだ目元に赤みを残したまま、ほんのわずか潤んだ目で、それでも真っ直ぐオレを見据えていた。
「君でいいなんて言ってない。君が、いいんだ」
相棒としてだろう、とか。
そうした茶化し方をすることもできなかった。
「どうしても駄目なら諦める……けど」
挑みかかるような視線の強さに灼かれる。
大きな声を張り上げているわけでもないのに、不思議なほどすんなり耳に馴染む声が、身体の内深くまで届いてそのまま根付いた。
「できれば、君と一緒に入りたいとおもって決めたんだ。ここも、次の店も。だから、その……今日だけでいいから、僕の好きにさせてもらえないか?」
おねがいだ、と。
続けられたルークの言葉に、首を横に振ることは簡単だ。
そうしなかったことが答えなのだと伝わっている気はしないのに、言葉で返事をかえすことは出来なかった。
――結局、店には二人で入った。
男二人の組み合わせだったが、特に店員が気にした様子はなく、ルークは無事にカップル限定のスペシャルスイーツにありついている。
ふかふかしたパンケーキは幾重にも層をなして、高く積み上げられている。
綺麗な焼き目のついたパンケーキは、溺れるほどのメープルシロップに二度コーティングされていた。