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    じれったいお題ったー 6/20江本のチェズルクのお題より
    『かなわない』

    #チェズルク
    chesluk

    「母の愛です」
     ことある度にそう言って、僕を抱き締めたりキスをくれる美しい人は、血のつながりなんて欠片もないはずの僕に、家族に近い親愛を抱いている。そんなこと誰に言われるまでもなく何度も繰り返し伝えられたことで充分わかっているけど、潔癖なその人が自分を相手にしたときは触れることも触れられることも許してくれる事実が嬉しくて、抱きしめる度に鼓動が早鐘を打つ意味に気付いていながら、決してそれを口に出してはいけないと思っていた。
     僕の心の動きなんて、彼はとっくに知っているはずだ。
     はじめのうちは、よくわかっていなかった。父さんとだってこんなにしょっちゅうハグをするようなコミュニケーションを取ったことはほとんどなかったし、こんなに近い距離で誰かと接することは、取り戻した記憶を探っても覚えがない。だから、人と肌を重ねるという行為にドキドキしているのだと考えていた。もしかしたら、そんな風に自分へ言い聞かせていた時点で、頭が気付くより早くこころが知っていたのかもしれない。
    「おはようございます、ボス」
    「う、ん……」
     柔らかな声が、ゆりかごを優しく揺らすように意識を呼び起こす。こうして朝、起こされることもすっかり慣れてしまった。浮上しきらない意識がまた沈んでいこうとするけれど、それを咎めるように目元へ口付けられる。直接的な刺激に目を開ければ、日に透かした宝石みたいに煌く紫紺が目の前に大写しになった。
    「綺麗だな……」
    「おや、光栄です」
    「ん、」
     寝ぼけていらっしゃるようだ、と。
     くすくす笑う綺麗な人が、しなやかな指先を優しく額に重ねる。さらりと前髪を梳く感触が気持ち良くて目を閉じたら、またとろりとした眠気に誘われてしまいそうだ。
    「フフ、なんともかわいらしい……けれど、朝食の用意ができていますから、起きてくださいねェ」
     寝かしつけるような手つきで撫ぜるくせに、耳元で嘯くチェズレイは少し意地悪だ。むずがる子供みたいな真似をしている自覚を持ちながら枕を抱え込めば、柔らかくふかふかした毛布を取り上げられた。さっきまでのやさしい温もりが突然取り上げられて、びっくりして飛び起きる。
    「おはようございます」
    「……お、おはよう、チェズレイ」
     挨拶を交わせば、チェズレイは満足げに微笑むと、頬と頬を合わせて親愛を伝える。どくり、と大きくひとつ心臓が跳ねた。自分よりも低い、ひんやりした温度が気持ちいいけれど、ざわめく気持ちを映し出すように顔がどんどん熱くなる。ぎゅう、と引き絞られるように胸の奥が鈍く痛んだ。
     触れ合う場所から、気持ちはとっくに零れているはずなのに、彼は何も言わない。だから、僕も何も告げてはいけない。

     ――きっとかなわない、恋をしている。
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    MAIKINGジョン・スミスはだれ?

    イアシキ(ミステリ)小説になる予定。序盤。書けたところから足していきたい。
    ※真エンドクリア済み閲覧推奨
     ディスプレイを眺める男の目はひどく濁っていた。
     今日も一人、人間が死んだ。正しくは男が死に追い込んだのだが。死んだ人間の名前は「ジョン・スミス」名無しとして警察の名簿に載ったことを確認すると、鼻から笑いが漏れた。人間の存在など所詮その程度のものだ。データ、書類、人の記憶、媒体が何であれ記録されたものはいとも容易く更新できてしまう。男はそれをおかしいと思わなかった。自分にはそれができたからだ。そんな男自身もしばらく本当の名前というものを呼ばれたことがない。
     名無しのジョン・スミス。
     自分もそうなのかもしれない。



    「いい加減に休みを取れ」
    「取ってるよ。そこで」
     常人なら平伏してしまいそうな高圧さでイアンに見下されたシキが、何の感慨もなく指差した先は部屋の隅にぽつんと置かれた二人掛けのソファだ。ディスプレイを見続けながら返事をするシキに「こっちを向け」と言っても効果がないのはもはや分かりきっている。この会話をするのも実は初めてではなく、お互いがお互いの言い分にうんざりという顔を隠さなくなってきた程度には回数を重ねているのだった。
     ここ二週間ほど、シキは家に帰っておらず、満 2126