兄が、僕の前に立っている。
その向こうにはこちらに燈(あかり)を向ける、女性の姿がある。彼女らは手にマイクを持ち、兄へ、僕へ、何かを歌い掛けている。
ぐわぐわと頭が軋みだし、僕は頭を抱える。兄は吹き飛ばされ、僕の隣に崩れ落ちた。しかしそれは作戦だった。
「++++、小生が囮になるから、隙をついて逃げて」
耳打ちされた言葉に、目を開き視線を向ける。
疲労困憊。立ち上がるのもやっとな兄の表情は、とても誰かを守る余力など持ち合わせていない。不甲斐ない僕はそればかり気にして、瞳に宿る決心に気づけなかった。己を犠牲にしてでも弟を守りたいという、強い決意に。
僕は首を横に振る。わずかに身を乗り出して、兄の眼前に迫る。
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