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    48Yoshimi

    @48Yoshimi
    Twitter投稿のR-18話をおいておく場所。裏垢のお気に入りもおいておくことにしました。
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    48Yoshimi

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    🎲📚 📚目線
    📚が明晰夢、予知夢を見るお話
    多分書ききれないので供養投稿

    この後ラブハピエンに向かって、
    5〜10万くらいでしたためる予定でした。無念。

     兄が、僕の前に立っている。
     その向こうにはこちらに燈(あかり)を向ける、女性の姿がある。彼女らは手にマイクを持ち、兄へ、僕へ、何かを歌い掛けている。
     ぐわぐわと頭が軋みだし、僕は頭を抱える。兄は吹き飛ばされ、僕の隣に崩れ落ちた。しかしそれは作戦だった。
    「++++、小生が囮になるから、隙をついて逃げて」
     耳打ちされた言葉に、目を開き視線を向ける。
     疲労困憊。立ち上がるのもやっとな兄の表情は、とても誰かを守る余力など持ち合わせていない。不甲斐ない僕はそればかり気にして、瞳に宿る決心に気づけなかった。己を犠牲にしてでも弟を守りたいという、強い決意に。
     僕は首を横に振る。わずかに身を乗り出して、兄の眼前に迫る。
    「嫌だ。二人一緒じゃなきゃ嫌だ」
     そう返した時、女性の一人が兄の頭を後ろから掴んだ。スピーカーが耳を囲うように小さく連なり、爆音を轟かす。兄弟は気を失い、そして。
     僕が小生となる、一連が訪れた。

     幾年経っても色褪せない、運命の分岐点。夢野幻太郎が肉を変え生まれ直した、己だけが知る事実。あの日から切々と続いている中王区への何某は、彼女らの展開する策略に身を乗せる次第となった。
     これを決断したのは自分だ。しかし決断をさせたのは、ひとつの夢だった。
     兄を失い、僕が小生になるまで。何度も悔いて泣いたある日の夜。夢が未来の分岐を示し、とあるパラレルワールドの顛末を見せてくれた。
     飴村乱数という青年に、チームを組まないかと勧誘される。夢の中で自分は、乱数の事務所に向かわずその日を終えた。すると自分は、鬱々とした日々を送り続け、中王区に支配されるだけの生活を送って行った。
     その夢で飴村乱数は、メンバーをコロコロと変えながら、シブヤディビジョン予選会に参加している。しかし結果は燻り、その影響か知らないが中王区の祭典はことごとく失敗。政権守備に焦った女性達は、男性に更なる酷い仕打ちを与えていった。
     夢を見終えた自分は、ひどい眼で作業机から首を持ち上げ、乾燥する頭を掻きむしる。
     これまで見てきた夢は、僕という夢野幻太郎を名大の文豪にしてきた。文才は天賦の才なれど、チャンスを掴むには目前の選択肢を正確に選ばねばならない。齢24にして新人賞や数多の文学賞に候補立てられるまで、夢は何度も誤った選択の果てにある、未来を示した。その逆を選んで、成功の現実をこなした。
     そんな夢が見せた、夢野幻太郎を有名にする新たな未来。兄を昏倒させ僕の人生をぐちゃぐちゃにした、ヒプノシスマイクの祭典。男同士をぶつけ合い、戦力を削ぐ策略。
     乗らなければならないのか。
     宵闇にため息をとかし、物思いに耽る。卓上の電灯を消すと、今晩は寝床を作り就寝した。
     これ以上下手な夢は見たくない。

    「僕とチームを組まない?」
     激しいほどのデジャヴ。渡された名刺に書かれている事務所の住所も、飴村乱数と名乗った青年が浮かべた笑顔も、寸分違わず同じ光景を、自分は夢で見たことがある。
     あの時自分は、乱数の誘いに乗らなかった。結果は、散々たる様だ。ならば選ばなければならない。中王区の策略に、まんまと乗るような選択肢を。
     その葛藤は半日を費やした。それからの未来は、一般の人々にも知れ渡っていることだろう。自分たちは2回目の大会にて、絶対の優勝を収めた。少しずつではあるが、新たな課題とともに中王区に迫る算段が積み重なりつつある。
     夢で見た未来とは大きく異なる、成功の現実。フリングポッセを結成したのちも、夢は多分の分岐を自分に見せていた。僕自身の成功と思う事ならなんでもいいらしく、本当に沢山の夢を見た。
     例えば、初めてのデートと称する帝統との外出において、手を繋ぐかどうか、なんてことも。
     恥ずかしがり屋な僕は夢で、何度も帝統からは手を繋いで貰っていた。けれど、ついぞ自分から手を繋ぎに行くことをしなかった。結果は散々たるものだ。
     そこから帝統とすれ違って、あっという間に破局。フリングポッセにも居られなくなり、自分は形を潜めた。
    「夢で良かった」
     目覚め一発、青ざめた自分の顔を見ながら、ひとりつぶやく。それは夢に見たデート、当日の朝だった。
     映像美を堪能する、プロジェクションマッピング。デート最終の目的地は、そこだ。自分が提案したのだが、帝統は二つ返事で承諾してくれていた。
     カウントダウンを観客で行い、午後5時きっかしに点灯する。この目で焼き付けようとマフラーを握りつつ、懸命にその時を待った。帝統は隣で、スマホを構えていた。
     カウントダウン、0。音声と共に灯りが広がる。向かい風を受けたような衝撃と共に、感動が押し寄せる。周囲の歓声が音楽と共に耳に流れ込んで、ぎゅうぎゅうと心を締め付けてきた。それが、感動にむせぶ僕の感情。
     たまらず溢れ出した涙をそのまま流し、映像美を堪能する。滑らかに壁面を流れていく光の糸が、曲線を描くと形を作り、眼前いっぱいの雪結晶を実らせた。
     キラキラと音の鳴る結晶が舞い上がると、雪景色から桜の吹雪に変わる。希望を見せる演出にあれよあれよと勇気づけられる人々が、次第に言葉を失っていった。
     時間が間延びしていく。徐々に我に帰る自分が、今日1日こちらから差し出さなかった手を思う。どこかで帝統と手を繋ぎたい。今以上のチャンスはない。勇気、勇気、勇気!
     ぱ、と温かいものに触れた。恐る恐る降ろした腕。そこからほんのわずかに持ち上げた冷えた指先に、何本も絡みついてくる。
     ぐい、ぐいと引っ張られた指は、太く肉付きの良い手のひらに包まれる。帝統の指がモゾモゾと動く。
     ああ、これは失敗かしら。自分から指を伸ばしてみたもののーー夢とは違う形だけれどーー結局帝統から手を繋がれてしまった。やっぱり駄目かしら。
     手を繋がれた気恥ずかしさや嬉しさ、幸福感も飛び越えて不安に苛まれる。耳が真っ赤で、頬もこれ以上ないくらいほてっているのに、焦りが脳漿を冷やしている。
     夢は帝統とすれ違う未来を示していた。今日さよならが終わった頃に、帝統が「ほんとは好きじゃないんでしょ」とLINEを入れてくる。LINEの返事すら恥ずかしくて言葉を濁したら、決定打になって別れる。
     じゃあ、さよならを言うまでに、挽回できるかしら。
     人混みに紛れて駅構内を進む。改札を通り電車を待つ間、帝統は優しく手を繋いだままでいてくれた。
     ずっと近い距離。耳がくっつきそうなほど、間近にいる帝統。自分が横を向いてもし帝統も横を向けば、自分たちはバチリと視線を交わすことのできる、運命的な身体。でも口は近づけないと、耳と少し距離のある関係。
     小さな口では、届かないかもしれない。
    「帝統」
     周りは雑踏で賑わっている。
     ほんの少しの勇気で絞り出した呼び声は、雑踏に紛れて帝統に届かなかった。
    「帝統」
     肩のぴくりも反応しない。帝統は向こうを向いて、電車が来るのを待っている。寒いのか足踏みをやめないで、自分にうなじを見せている。
     これは帝統がショックを受けている反応なのかしら。あまりにもこちらからアピールしないもんだから、気がないのかもなってがっかりしてるのかもしれない。そしたら自分のしみったれた勇気と呼び声は、何の価値もない徒労だ。
     徒労でいいのか?
    「帝統!」
     どうにでもなれと大声で呼んだ。電車の来る風の気配に、人の声が一瞬だけ途切れたタイミングで。
     帝統は驚いたように肩をこわばらせてから、わずかに反射で握りしめた指を緩める。
    「なに?」
     驚きと戸惑いの残った表情で振り返られ、それは耳を自分に近づけてくる。想定外の恥を取り繕う暇もない。周囲へ向けていた自分の俯瞰が、瞬く間に自分1人の、一人称の焦りへと変わる。
     時折このマフラーで温めてやりたいと思った裸の耳が、赤く冷えながらも懸命にこちらに澄ましをきかせている。一音一句聞き逃すまいと、最初の小声さえ拾われそうな大きな集音器。ぷわんと鳴り響いた電車の汽笛に、そっちのけの態度なのは誰の何を聞きたいのかを明白にさせる。
    「あ、の……」
     続ける言葉を失い、挙動不審になる。遠ざけてしまう唇を思い出しては帝統の耳に向き直り、また俯く。たった3文字に込めすぎた勇気が、今欠片も胸中におらず言葉を遮る。それに手は繋いだままなのだ。無いものを有らせるのではなく、わざわざ離して繋ぎ直す手に、どれほどの勇気がいる。
     ビクビクと、小指が痙攣する。帝統の温かい肉が、ふにふにと押されている。不要な右往左往。
     帝統はいよいよ自分に顔を向けてくる。戸惑いと思っていた表情の不意打ちに、バチリと焦点が合った。高揚と、期待に満ちた笑顔。
     降車人を見送り入り込む人々に、自分を瀟洒に紛れ込ませる。それでいて高い吊り革のある場所をきっちり陣取り、自分の手を颯爽と握り変えさせた。
     一連の流れるような人捌き。その中でも絶えず笑顔を浮かべていて、ずっと意識がこちらを向いていたのがわかる。ここまで人に親切をしてやりながら、言葉を待っていてくれる優しさはいかほどか。
     ほどなく動き出した電車に、握りしめた吊り革の高さを思わせる。
     座席前の吊り革は低すぎることが多い。その場合は上の鉄棒を掴むのが、自分や帝統の背丈だ。乱数は吊り革も高いので、縦に伸ばされた鉄棒を両手で握る。3人で過ごしてきたいくつかの電車旅で、帝統はすっかりそれぞれの違いを理解していたようだ。
     ぷらぷらと、腕に力を込めやすくも揺さぶられる吊り革が好き。そんな他愛もないぼやきも、きっと覚えているのだろう。嬉しい。
     閑話休題。じっとこちらを見つめている瞳に応えなきゃいけない。自然と離していた手と、逆のそれを帝統に差し出す。
    「今日はありがとうございました。また次もよろしくお願いします」
     なんとはなしに差し出された帝統の手を掴み、2度上下に振る。手を繋ぐというか握手を交わして、それが勇気の限界だった。冬の電車はやけに暑い。
     ぱっと離した手を吊り革に持っていき、両手で掴む。陽気な帝統のことだから、快活に返事が来るのだと思っていた。けれど、予想と裏腹に会話は続かなかった。
     気に触るようなことだったかしら。また次もよろしくお願いします、なんて。今日1日リードされっぱなしだった自分。帝統からしてみたら負担だったかもしれない。先ほどの乗車もそうだが、落としかけたクレープや歩行者信号の点滅、ランチの注文についても至れり尽くせりだった。また次もよろしくお願いします、なんて。失礼にも程がある。
     帝統、そういう意味じゃないんです。
     胸中の帝統と実際の帝統を重ね合わせて、視線を上げながら弁解をしようとする。
     決して僕に気遣いを続けろというわけではなく、ただこうしてデートと名付けられる逢瀬を重ねさせて欲しいと、そういう意味なんだ。
    「帝統」
     言い訳だけはよく舌の回ることで、僕の声は滑らかに先ほどの文句を読み上げた。
    「だからどうか誤解しないで」
     本当に好きで、大好きで、たまらないからね。
     ずっと胸元に話しかけていた。それをおずおずと上げようとしていた。電車の揺れに釣られて視線が左右に揺さぶられるが、それをまたかき回すように心臓が強く脈打っている。ぐらぐらと乱れる視界に帝統の青髪がチラついて、血色のいい肌色、よく光る赤目、黄色い笑顔。そんなことを予想していたら帝統色の虹が渦を巻いて僕を混乱させてくる。
     トンボを捕まえる時は、目の前で指先をくるくると回してやるんだ。そうすればトンボが目を回して動けなくなるから、あとは羽を掴んで……ほら!
     誰がいつ言っていた言葉だったろう。そうそう、3つ前の長編で少年時代の兄が言っていた。そのトンボに想像力を働かせた僕は、くるくると目を回して倒れたんだ。
     懐かしいなあ。あれは本当にあった温かな思い出。あの日に至るまでの、誤った選択。僕が兄を苦しめた、間違いへの道程。
     気がつけば、視界は暗転していた。
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