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    sangatu_tt5

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    🤕🔮
    髪を切ってもらう話

    #傭占
    commissioner

    毛先にくちづけて、やさしく撫でて「いつから君は髪を伸ばしているんだい」
     ふいに問いかけられて、俺はイライ・クラークのほうを向く。イライはそんなに重要な意味もなく、普通に雑談として話しかけていたようで、振り向いた俺の顔を見て、驚いたように首を傾げた。
    「失礼な質問だったかな? すまない」
    「いや、そういうわけではない。そんな大それた意味もなくて、髪は伸びると邪魔だろう? 下手に短くするより、くくっていたほうが楽なんだ。肩に当たって邪魔だと思うようになったら、こう掴んでナイフで切ればいいしな」
     後ろにまとめた髪を左手で掴んで、右手で切り落とす真似をする。
    「君が自分で切っているのかい?」
    「ああ、楽だからな」
    「はあ、すごい器用だね」
    「褒めるほど器用なものでもないさ。女性陣と違って、身目に気をつかう必要はないからな」
    「まあ、女性に比べたら、わたしたちなんて比べるのすらおこがましいものさ」
    「お前はどうしているんだ」
    「わたしは故郷にいたころは……それこそ婚約者に切ってもらっていたかな。町のひとに切ってもらったことも。母が生きていたころは母に頼んでいたね。襟足とかは自分でも切れるんだけど、後頭部がどうしても、ね」
    「フードで隠れるのにか?」
    「一応のエチケットさ」
     イライは少し拗ねたような声を出す。
    「また伸びてきたから困っているんだ。どうしようね、この荘園だと誰に頼めばいいのか……ナワーブ、君切ってくれないかい?」
    「……は?」
     俺の素っ頓狂な声にイライはぱちりと大きく瞳は瞬かせた。そこまで驚くことかとその瞳が語っている。
    「ダメかい?」
    「いや、まあお前がいいなら構わないが」
    「じゃあ、もう少し伸びたらお願いしようかな?」
     イライは安堵したように笑う。そのいつかに俺は少し怯えていた。

     そんな話をしたのが二週間前。
     彼の髪を切るより早く、俺の髪が短くなった。
     今日の試合中、血の女王との対戦中。彼女の凶刃からウィラ・ナイエルを守ろうとしたとき。彼女のガラス片のようなナイフが俺の背中ではなく、頭部の表皮と髪の毛をばっさりと切った。頭部の傷は本当に刃先が触れたぐらいのものだったが、髪の毛はだめだ。角度も相まってか、右側の耳の後ろから大分短くなるまで切り落とされてしまった。
     しかも、面倒なことに負傷とは異なり、髪の毛はもとに戻らないらしい。縛れないだけならまだしも、相当ざんばらに切られたらしく、庇われた当の本人であるウィラも苦言のように「整えたほうがよろしいわね」と眉根を寄せて告げてきた。
     親切なエマやマーサから「整えましょうか」と提案されたが、俺はそれを素直に受け入れることができず、曖昧な返事を返す。すると、意固地になった女性陣から「ならわたしが」「ならわたしが」と次々に手が挙がっていく。こうなると、固辞する俺がだんだんと悪者になり、野次馬とかした男たちがわらわらと囲んで、俺の対して「誰がいいんだ」「なにがダメなんだ」と声をかけていく。
     どうしてこんな目に。ホールドアップしたまま、俺はみんなが諦めてくれるのを待った。
    「どうかしたのかい?」
     すんと透き通るような声でイライがだんごと化していた俺たちに話しかける。俺がなにか紡ぐよりも早く、ウィリアムがイライの肩に腕を回した。
    「イライ、聞いてくれよ。ナワーブが贅沢者なんだ。よりどりみどり、美しい女性陣があいつの汚くなった髪を整えてやるって言っているのに、だれの提案も受け入れようとしない」
     どう思う、という問いかけに対して、イライは首を傾げて俺のほうを見た。どうにも語弊を生みそうなウィリアムの説明だが、大筋は合っているため否定もしにくい。するとイライが小さく手を上げた。
    「それならわたしが彼の髪を切ろう。それこそ今度わたしの髪を切ってもらう約束をしていたんだ。だから、代わりと言ってはなんだけど」
    「まだしてもらってない行為のお礼にってか? んはは、いいじゃねか。そうしろよ」
     アユソが手を叩いて笑う。女性好きのこの男は俺の現在の状況を面白いとは思っていないだろう。野郎と野郎が髪を切りあうならば、これ幸いといったところだろう。女性陣もそういうことならと引き下がり始めた。
    「うん、じゃあ、わたしが切るかたちでいいかな? あとから来たのにいいところを奪ってしまうみたいで申し訳ないね」
    「いいえ、イライさん。ぜひ彼の髪を清潔感に満ちた髪型に整えてあげて」
     嫌味にも近いウィラの言葉にため息がこぼれる。大概、この荘園に足を運んだ女性たちはみな強すぎるのだ。イライも同様に苦笑いをして、「任せてくれ」と胸を叩いた。

         ♢♢♢

    「すまない」
     食堂から麻袋をもらってきたイライが俺の首元にそれを巻く。そよそよと頬を撫でる風が気持ちいいのに、臓腑はむかむかと怒っている。申し訳なさと同時に背後に立つイライに対してぞわぞわと皮膚を這うような不快感を抱く。
    「いや、わたしは構わないけど。君は大丈夫かい?」
     そっと気遣う声。彼は準備が完了しているにも関わらず、背後から回って、俺のすぐ横にしゃがんだ。
    「君、本当は髪を切られること苦手なんだろう? 私が背後に立つとわかりやすく体を強張らせているし、声も、すこし震えている」
     そのとおりだ。俺はひとに髪を切ってもらうのが苦手だった。だから、村人にも、婚約者にも、そして俺にも散髪を依頼できるイライのことが理解できない。
     他者に背後を取られるなんて、いつ殺されるか分かったことじゃない。しかも、首の近くに、急所の近くで刃物が動く。そんなこと恐ろしくて仕方がない。俺は臆病なのだ。臆病になった。戦争で死んでいくたくさんのひとを見て、死体が人間だったものではなく、なにかごみのようなタンパク質の塊として扱われる光景を目にして。俺は他人が怖い。信用ができないのだ。
     言葉に詰まっていると、イライは困ったように笑って、俺の手を取った。
    「ナワーブ、わたしは君を傷つけたりしない。でも、君は警戒してしまうだろう? どうかな、わたしが君の髪を整えているあいだ、この手に武器を持っているのは」
    「……は?」
     ひどく落ち着いて声で話すから、自分が聞き間違えたようにも感じた。
    「ほら、わたしは君より弱いし、本当なら君に勝てるはずがないんだ。それでも不安なら、こういうかたちのほうが安心できるかなって」
    「俺が錯乱でもしてお前を切るかもしれないんだぞ?」
    「君はそんなことしないから大丈夫だよ。ただの保険さ。君が安心できるようにするためのね」
     イライが子どもでもあやすように俺の手をやさしく叩く。そこまで信用してくれているのに、俺は、どうして、こんなに……臆病なのか──。
     小さく深く長く息を吐き出して、俺は自身の両頬を叩く。パンッと乾いた音にイライは瞠目し、立ち上がった。
    「な、ナワーブ?」
    「大丈夫だ。切ってくれて構わない」
    「え、でも」
    「大丈夫だから」
     それだけの信頼を得て答えないのは男ではない。そうかい? と首を傾げたイライは俺の背後に立って、一瞬だけ、毛先を撫でた。なにかが触れた感触に振り返ろうとすれば、イライが小さく言葉を呟いた。
    「彼を見守り、ともに生きてくださりありがとうございました」
    「それは?」
    「え? ああ、髪の毛は魔力がこもるとも言われるし、この毛先のほうは君の努力を一番見てきているからね。一応祈りというか、感謝というか」
     恥ずかしいね、と呟き、イライは深く息を吐いた。
    「じゃあ、切っていくよ、大丈夫かい?」
    「大丈夫だ、問題ない」
     さっきまでの恐怖心はもうない。鋏の音とともに、髪の毛に触れるイライの手。彼が触れた場所がひどくむずがゆい気がする。じわじわとくすぐったくてひどく熱い。そうして、ひどく心地よかった。

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    kawauso_gtgt

    DOODLE探占の下書き。
    とりあえずさせたい会話を書き並べてここから埋めていく。強かな占い師と諦めることを知っている探鉱者の会話
    ノートンとイライとの間に歪な関係が成立してから早数日が経過していた。その間も毎日とはいかずとも二人が身体を重ねた夜はそう少なくなかった。
    例えばノートンが一人生き残ってしまった日。はたまた心労がたたってイライが使い物にならなくなった日。そういう関係であるという免罪符を手にしたお陰か、気づけばどちらからともなく自然と互いの部屋に足が向かっていた。
    何も考えたくないとばかりに身体を重ねていた。

    荘園の仕組みには理解不能な点が多い。どれだけ深い傷を負ったとしても荘園に戻れば完治してしまうし、不思議なことにハンター達は試合外では攻撃してくることもない。それどころかサバイバーとの交流を持つ者すら存在しているという。それから試合でボロボロになるのはサバイバーだけではない。使い古されたマップでさえも、次に試合が行われるときには染み付いた血の痕でさえも綺麗さっぱり消え去っているのだった。

    イライはどうやら同世代の女性陣に捕まっているらしい。
    元来そういった性格なのか。小さなものではあれをとって欲しいだの何を探しているだの、大きな物なら代わりに試合に出てはくれまいかと。余程の事でなければイライは大抵 1216

    kawauso_gtgt

    MOURNING土竜とやこうふくろうの探占「……! ノー、」
    扉の隙間から覗く部屋の主にの姿を前にして、イライはその名を呼ぶことはできなかった。
    「……」
    積み重なる書類に、険しい表情。時折眉間に寄った皺を揉みほぐしながら空いている手は書類の上を滑っていく。彼が遊んでいるのではない、というのは一目瞭然だった。
    イライとてノートンがこなすべき仕事を全うしているだけだというのは十分に理解している。それを自分が邪魔していい道理があるはずもないということも。それでも、やはり。自分を見つけてくれた唯一の存在を、欲してしまうのはいけないことなのだろうか。イライにはまだ、分からなかった。ずるずると扉の前でしゃがみ込む。布越しに伝わる床の冷たさに小さく身震いをして、両膝に顔を埋めた。
    「つまらない、な……」
    力ない声が唇から溢れ落ちる。薄暗い廊下の果て、それは誰に届くこともなく静かに消えて見えなくなった。
    ***
    「……嗚呼、もうこんな時間か」
    ふっと沈んでいた意識が浮上する。まさか自分ともあろうものが意識を飛ばしていたとは。知らずのうちに無理をしていたのかもしれない。残りは明日でも構わないだろう。暖炉の火もほとんど勢いをなくしてすっかり冷 1029

    kawauso_gtgt

    PROGRESSどこにも行けないセ探占ノートンの自室のベッドの上。腕の中の男は目に見えて身体を強張らせていた。手は出さない、と言ったのにな。ふうと小さく息を吐けばますます力の入った後ろ姿になんとも言えない気持ちになった。困らせている、と言う自覚はある。けれどそういう方法以外で穏やかな眠りを提供する方法など、ノートンには皆目見当もつかなかった。
    「どう、眠れそう」
    「……さあ、どうかな」
    ぐるりと腹部にかけて回された腕の中でイライが呟く。生憎背中を向けられているせいで彼が今どんな表情を浮かべているのかは窺い知ることは出来ない。
    「君って、酷い男だ」
    酷い。だなんて、どの口が言うのだろうか。
    「知らなかったの? 君が手を伸ばしたのはそういう男だよ」
    トランプでいうところのジョーカーを引き当ててしまったこの男には同情の念しか思い浮かばない。自分で言うようなことではないが、きっとこの人は最も引くべきでないカードを引き当ててしまった。しかも、普通の人であれば捨ててしまうようなそれを、お人好しを極めた男は後生大事にしてしまっている。
    「言ったでしょう、誰もがみんな、善人じゃないって」
    お人好しな貴方はとっくに忘れてしまったかもしれない 1341

    sangatu_tt5

    MEMO死神✂️と冬コミ現パロ🔮のリ占小さい頃から不思議なものが見える🔮。
    幼なじみである💍に黒い影がずっと取り憑いているのを見かける。薄い黒いモヤだったそれは段々と人の形に近くなっていく。随分と昔に死期の近かった祖母の近くで見たアレにそっくりな黒い影を🔮はすぐに死神だと理解した。
    幸せになるべきである💍が死ぬのは納得できないと🔮が💍の真後ろを歩き続ける影に話しかけた。
    🔮「……君は死神だろう?なんだってするから、彼女だけは連れていかないで欲しい」
    そう懇願すれば、黒い影は輪郭がハッキリとしていく。首を真上まで上げて見上げないとその死神の顔は見えない。表情の分からない死神を🔮が震える唇を噛み締めながら見上げていれば、死神の手が🔮の頬に触れる。
    尖った爪が🔮の頬に当たりながら、青い目を大きく見開かされた。
    ✂️「私が見えるだけでも珍しいのに……。これはこれは稀有な目をお持ちですね。本当に何でもするんですか?」
    🔮「……何でもする」
    ✂️「私は魂を食べないと生きていけないんですよ。このレディの代わりに貴方を頂いても?」
    🔮「僕の命で彼女が助かるなら……、構わないよ」
    震える身体で睨みつけてくる🔮に✂️ 969

    sangatu_tt5

    MEMO失顔症の✂️と🔮のリ占✂️は人の顔が認識できない。それは画家が出来なかったのではなく✂️が主人格になると出来なくなる。鯖もハンターも服装で認識しており新衣装などが増える度に必死でインプットする
    🔮も🤕と目隠し布がなければ見分けがつかない時がある程だった。
    しかし、ある月の綺麗な日から🔮と満月の夜に酒を飲むことになった。初めはただの興味と場の流れで呑んでいたが段々とこの日が来るのが楽しみになり、🔮と会い話すことを心待ちにするようになった。
    白🌂から貰った酒が強かったためか✂️は🔮への恋心にも満たない感情を漏らす。
    男同士、婚約者もいる男、しかも互いの顔すら知らないのにと✂️は断られ、二度と酒を酌み交わせないと嘆くが、🔮の返事はYesだった。✂️は有頂天になり、いつもよりも鼻歌を多く歌いながらハンター居住区と鯖居住区の境になる湖まで散歩をすれば、紺の服を着た茶色い短髪の男が水浴びをしていた。暑そうな服をたくし上げ、脚だけいれ、水をパシャパシャと飛ばしながら楽しそうに笑っている。
    初めて✂️は他人の顔を認識した。
    凛々しい眉にサファイアのような青く輝く力強い瞳が魅力的だった。胸が高鳴り、赤い実が 2129