Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    sangatu_tt5

    @sangatu_tt5

    ☆quiet follow
    POIPOI 65

    sangatu_tt5

    ☆quiet follow

    戦鴆🤕🔮
    試し行動と増長した欲望の話

    #傭占
    commissioner

    試し行動 イライ・クラークは試し行動をする人間だ。
    いや、する人間になってしまった。

     カシャンと音を立てて落ちたスプーンを彼は見下ろす。かがんで、拾おうと手を伸ばしもせず、食事をする手も止めた彼がなにを望んでいるかなど簡単に理解できた。近寄り、スプーンを拾って、新しいものをテーブルのうえに置く。
     すると、再びカシャンと音がした。
     スプーンが床に落ちている。彼はまたつんと澄ました顔でそれを眺める。
    「イライ」
    「なんだい?」
    「行儀が悪いぞ」
     むっと唇を尖らせ、すねた真似をする彼は片肘をテーブルについて、スプーンを指さした。
    「拾って」
    「わざと落とすなら拾わない」
    「わざと落としたって証拠はあるのかい?」
     子どものような屁理屈にため息が出る。なんて餓鬼だ。しかして、彼はもうそんなわがままを許されるほど幼子でもない。
    「イライ」
    「君もわたしを裏切るのかい?」
    「裏切るってお前、そんな大それたことでもないだろう。行儀が悪いし、態度も悪いからやめろ、と言っているだけだ」
    「……」
     黙りこくって、ただただその青い瞳をつり上げた。
    「次は落とすなよ」
     拾って、また渡せば、そのまま目の前でイライはスプーンを床に捨てた。
    「君だってわたしを裏切るんだ」
     イライは立ち上がって、部屋を出ていった。食事はほとんど口がつけられていない。
     はあ、と大きくため息を吐き出せば、とんっと一度、扉をノックする音がする。

    「イライ不機嫌だったね」
     マイク・モートンがにやにやと笑いながら、イライが座っていた席に腰掛ける。そのままイライの食いさしを口に運んだ。
    「おいしいのに」
    「なにかあったのか?」
    「なにもないよ。僕は知らない。でも予測なんて簡単につくでしょう」
     まあ、そうだ。簡単につく。イライ・クラークが癇癪を起こす理由なんて限られている。
    「でも、まあかわいらしい癇癪だよね。スプーンひとつ床に落とすだけなんだもん。僕なら、このスープを床にこぼすし、このステーキを君に投げつけるね」
     彼は厚切りのステーキを切り分け、口に運んでいく。
    「はあ、面倒くさい」
    「あーあ、聞かれたらまた拗ねるよ。いや、”視られた”らかな?」
     けたけたと笑うマイクを無視して、侍女に片づけを命じる。この屋敷はそれなりに大きい。それなのに雇われている使用人たちは極端に少なく、入れ替わりも激しい。この新人の少女もイライの癇癪を初めて目にしたのか、不安そうな顔をしている。
    「大丈夫だよ、お嬢さん。彼は君たちに対してひどいことをするひとではないから。大丈夫、大丈夫。一応僕たちは“正義の味方”だからね」
     狡猾な狐がよく言う。正義とは強いものを指す言葉だ。いや、逆だ。弱いものが悪。負けたほうが悪。ならば、俺たちは現在進行形で正義と悪の陣地争いをしているところだ。
     正義になるために、マイクもイライも俺も手段を選ぶつもりは毛頭ない。だから、そんな善人面などするべきではない。非難の感情が視線に含まれていることに気が付いてか、マイクはゆっくりとまなじりを細めた。
    「それより、早く、イライを追いかけないと。面倒くさいことになるよ」

         ♢♢♢

     もともと、イライはマイクが言うとおりわかりやすい“善人”だった。彼は本当の意味で悪をくじき、弱者を守ろうとしていた。しかし、虚妄の宴によって、彼は本来の純粋さを失い、他人を疑っては試し、金銭ばかりに縋る人間となった。
     それは彼が持つ瞳の代償だったのかもしれない。
     他者への懐疑心は末端からついに俺にまで訪れた。

     彼の寝室の扉を叩く。トントン、返事は当然ない。トントン、追加で叩いても、返事はなく、彼の不機嫌具合が伝わってくる。
    「イライ、いるんだろう? 次、返事がなかったら入るからな」
     トントン、と先ほどよりも強く扉を叩く。そして、彼の返事を待つ間もなく扉を開けた。
    「っ! なんで‼」
     イライは悲鳴のような声を上げるが知ったことではない。硬貨が転がったベッドに彼を倒して、上に覆いかぶさる。彼は少しだけ暴れるそぶりを見せて、すぐにくつくつと喉奥で笑った。
    「そうだ、そうだ。君も裏切るんだろう? いいさ、予言のとおりだ。彼女もそうだった。わたしを捨てた。この世で裏切らないのはこればかりだ」
     手首を縫いつけられたままにもかかわらず、彼はすとんと体から力を抜いて、空いた手で転がった硬貨を撫でた。
     腹が立つ、腹が立つ。この男は諦観を覚えてしまった。自分を置いて行ってしまった婚約者を追いかけることもせず、いまそばにいる人間の心を信ずることもできず、楽なほう、楽なほうへと逃げている。馬鹿な男だ。愚かでどうしようもなくて、いとおしい。
     ぺらぺらとこっちの感情を決めつけて、喋る口を塞ぐ。噛みつくような口づけにイライはきょとんとした顔でこちらを見上げてきた。
    「普通はナイフかなにかで刺すものだ。毒でも飲ませるなら、口に流しこまないと意味がない」
    「なんで、俺がお前を害す前提で話が進むんだ」
    「じゃあ、なんで、君はわたしを押し倒しているんだい」
     イライ・クラークはひとが信じられなくなった。ただその反面で、まだだれかを信じたいと願っていて、そばにいてほしいと心が泣いている。だから、何度だってひとを試すような行動をとる。子どものような大人だ。かわいそうに、だからこんな大人をそばに置くことになる。こんな、身のうちまで潜りこませてしまうのだ。
    「……その目を使えば、俺がこれからすることなんてわかるだろう?」
     怪訝そうに眉をひそめたイライは素直にその目の力を使った。こういうところが幼く、純粋なままだ。
     大きく目を見開いて、イライは体をよじった。一生懸命抜け出そうとしている。この先、なにが起きるか理解したのだろう。
    「イライ、お前がひとを信用できないなら、俺はわからせるまでだ」
    「ッ、いらない、そんなの、わたしはただ」
     彼の詰まった襟元を開いて、白い首に噛みつく。
     虚妄の宴、あれはひとの弱さ・欲望を増大させる。イライは過分の力によって燻っていた自尊心を増長させ、同時にすべて失った自分を受け入れてくれる存在を求めた。同様に、同じ宴に参列した俺だって同じように欲望が増長している。
     はねる体に、こぼれる吐息。さんざめと涙をこぼすイライを見下ろして、俺は喉奥で小さく笑う。孤独なんていくらでも埋めてやるのに。

    Tap to full screen .Repost is prohibited
    ❤❤❤💖💖💖💖
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    recommended works

    kawauso_gtgt

    PROGRESSここからすけべに発展するなんて誰が思っただろうかの探占今日のハンターはどうにもやる気がなかったらしい。
    一人黙々と暗号機を回していれば無線越しに聞こえてきたのはなんとも気の抜けた鼻唄とその向こうできゃっきゃと騒ぐ味方の声。ハンターと馴れ合う気などさらさらないがそれならそれで都合がいいと次から次へと暗号機を解読して脱出を果たしたのが今朝のことだった。朝一番の試合がそんなだったおかげでまだ昼前だというのにどうにも小腹が空いて仕方がない。見つかれば叱言を言われるだろうと思いつつも腹の虫を放って置くこともできない。出来ることならば誰にも会いたくないと思いつつも、ノートンの足は自然と食堂へ向かっていた。
    「イライさんの婚約者さんってどんな人なの?」
    食堂の扉を開けた瞬間聞こえてきた声に、ノートンはぴたりと一瞬足を止めた。それから声のする方へと視線を向けて、再び歩き出す。
    「え、ええと。私の話なんて別段面白くないと思うよ」
    「そんなことないよ! ボクも聞きたいなぁ、あ、話したくなければ無理にとは言わないけど!」
    どうやらノートンの予想は大外れだったようで、食堂には既に幾人かの先客がいたようだった。ノートンと同じように小腹を満たしにきたのか、個別で席に 1465

    sangatu_tt5

    MEMO失顔症の✂️と🔮のリ占✂️は人の顔が認識できない。それは画家が出来なかったのではなく✂️が主人格になると出来なくなる。鯖もハンターも服装で認識しており新衣装などが増える度に必死でインプットする
    🔮も🤕と目隠し布がなければ見分けがつかない時がある程だった。
    しかし、ある月の綺麗な日から🔮と満月の夜に酒を飲むことになった。初めはただの興味と場の流れで呑んでいたが段々とこの日が来るのが楽しみになり、🔮と会い話すことを心待ちにするようになった。
    白🌂から貰った酒が強かったためか✂️は🔮への恋心にも満たない感情を漏らす。
    男同士、婚約者もいる男、しかも互いの顔すら知らないのにと✂️は断られ、二度と酒を酌み交わせないと嘆くが、🔮の返事はYesだった。✂️は有頂天になり、いつもよりも鼻歌を多く歌いながらハンター居住区と鯖居住区の境になる湖まで散歩をすれば、紺の服を着た茶色い短髪の男が水浴びをしていた。暑そうな服をたくし上げ、脚だけいれ、水をパシャパシャと飛ばしながら楽しそうに笑っている。
    初めて✂️は他人の顔を認識した。
    凛々しい眉にサファイアのような青く輝く力強い瞳が魅力的だった。胸が高鳴り、赤い実が 2129

    sangatu_tt5

    MEMOリ占/付き合ってない伯猟のミス🔮を見る度に動悸がする。息が乱れ、顔が赤くなる。姿が見えなければすぐに彼を思い浮かべ、彼のそばに自分以外がいると思わず殺してしまいたくなる。これは、なんでしょうか……?
    ✂️が漏らした言葉に夫人も執事も口が塞がらない。血族の中で1番の力を持つ彼が幼子のようなことを言い出した。どう伝えるべきかと目を見合わせる。
    ✂️「………病気ですかね?」
    バル「いやいや、今まで1度もなったことないじゃろ」
    マリ「多分それは治らないと思うわよ」
    ✂️「治らないんですか?」
    困ったと俯き、✂️は思考を巡らす。
    治らない…治らないだろう。だってこれは憶測が正しければ恋の病だ。人間がかかるものだ。
    純血種、血族の頂点、永遠の生命、全てを持ち合わせた✂️は子供を必要としない。繁殖など不要だからだ。繁殖が必要なのは永遠に近い生命を持たぬ下等なモノたちのみなのだから……
    夫人も執事も過去に人間であった頃ならいざ知らず、今はそんな感情凍てついている。
    マリ「なら、🔮に聞いてみれば?病気をするのは人間よ?彼の方がきっと詳しいし、解決策も出てくるのではないかしら?」
    本人に恋愛相談をしろと言うのも変な話だが、適任者 2836