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    骨さんと輪さんの第四次世界征服事件後の話

    とある戦闘用ロボットの憂鬱人を殺したことがある。


    リングマンは戦闘用として開発されたロボットだ。曰く、ロックマンを倒すためのものとして。
    製造者たるコサック博士がどういう動機で己をそのように造り上げたのか、訊いたことはないし訊こうとも思わない。自分が製造された時分にはかの国と自国の関係性は良好であったように思うし、個人的に対立をする意義もあまりなかったはずであったし、だからリングマンがそのように作られる理由など無いに等しいのだが。
    ともかくリングマンは戦闘用のロボットで、ロックマンを倒すにあたって充分な機能をつけられてこの世に立った。

    ところで、あなたはドクター・ワイリーの四番目の事件についてご存じだろうか。そう、コサック博士に世界征服の罪がなすりつけられようとしていた、あの事件である。
    その際、計画が進めばロックマンと戦うことができると聞いてリングマンは密かに喜んだ。ついに本懐を遂げることができるのだ、と。自分の製造理由である「ロックマンとの対決」を果たすことができるのだ、と。
    だからそのために、ロックマンを出動させるに相応しい状況を用意するために、都市を破壊せよと、人に危害を加えよと言われて、リングマンはそれに従った。カリンカ嬢を人質にされたコサック博士の手によってロボット三原則の縛りから解き放たれて、ワイリーの手によって出力のリミッターを解除されて、それで、そう。
    リングマンは人を殺したことがある。

    ロックマンに倒されて、全てがワイリーのせいということになり、執行猶予付きの無罪がコサックナンバーズの所業に対する裁定として下されて、そうして無事に再起動したあとのリングマンは絶望した。
    リングマンは、きっともう二度と本来の役割を果たせない、人殺しのロボットになってしまったのである。



    「おーい」
    「……」
    「いつまで拗ねてる。何度も迎えに行かされるおれたちの身にもなれ」
    「うるさい。拗ねてないって言ってるだろ。お前に俺の気持ちがわかってたまるか」

    コサックロボット研究所の私有地にある動作試験施設、その中でも特に広い広域運動試験フィールドの真ん中にリングマンはしゃがみ込んでいた。膝を抱えて項垂れ、声の主が誰なのかの確認さえしようともしない。
    彼は第四次世界征服事件後、こうしてひとりであちこちへ(と言っても、研究所の敷地よりも外に出ることはないのだが)行ってはエネルギー切れになるまでじっとしているようになった。事件前まで素直で従順なロボットだった彼の突然の奇行にコサック博士やカリンカ嬢、そして彼の兄弟機は当然のように心配し、どうにか事情を聞き出そうとしたが「お前たちにはわからない」の一点張りでなんなら抵抗さえして見せた。武器のリングブーメランを手で回し、それでいて決して投げようとはしない。引き下がれば大人しく武器をしまうし、そうしてまたじっとして何も話そうとはしない。エネルギーが切れて動けなくなれば回収も可能だが、話を聞くために再起動させるとまた脱走してしゃがみ込みを敢行するのでもう手に負えなかった。

    「どう見たって拗ねてる」
    「うるさい! 放っておいてくれよ、なんなんだ皆して、俺みたいなのに構ってる暇があるんだったら自分の仕事に集中してろよ!」
    「おれに仕事はない」
    「……」

    ただ一機、まだリングマンの迎えに駆り出されていなかったロボットがいた。スカルマンである。彼はコサック博士が造り上げた二体目の純戦闘用機で、第四次世界征服の計画立案後にワイリーの依頼によって新規に設計されたロボットだった。ワイリー好みなドクロの意匠が禍々しい。スカルマンは事件の落着後、電子頭脳やプログラム等にワイリーの影響が無いかの検査のためにしばらく拘置されていたのだ。こうして解放されているということは、無事に無問題と証明されたのだろう。
    そのスカルマンが今、リングマンを迎えに来ている。リングマンは首を持ち上げて、ようやくアイカメラの認識範囲にスカルマンの機体を収めた。作られたばかりなのに細かな傷の目立つ白黒のロボットは、眉間に皺を寄せるリングマンとは対照的に無表情だ。

    「純戦闘用だからな、お前と同じで。他の連中よりはおそらくお前に共感してやれると思うんだが」
    「……いやだ。お前なんかに共感されたくない」
    「おれはお前に共感したい。お前の意志はそこに介在しない」
    「は?」
    「手始めに何故こんな行動を繰り返しているのかを話せ。共感とは対話から始まると習った」

    スカルマンはリングマンの歩幅でおよそ三歩ほどかかる位置に腰を下ろして、リングマンと同じように膝を抱えた。タータン合成ゴムトラックの上で戦闘用のロボットがふたり、少年のように向かい合っている。

    「は?」
    「さあ話せ」
    「絶対嫌……」

    そのあと三時間ほど粘られて、先にリングマンの限界が来た。……エネルギーの、という補足が付く。
    互いに紫外線に焼かれながら虚無の時間を過ごす経験は、リングマンのもともとそんなに強靭ではないメンタルにささやかな傷を残した。


    リングマンとスカルマンは一度も会話をしたことがない。これまでは、なかった。
    それはそうだろう。スカルマンはついこの間作られたばかりなのだし、作られてからしばらくはそれぞれバラバラの場所で働いていたし、事件の後はリングマンの方が他者との交流を放棄していた。そんな状態で会話のある方がおかしい。
    だから、リングマンはスカルマンが一体どういう奴なのかを何も知らない。

    「対話とは交流の先に生まれるものだと習った」
    「……」
    「なのでこれからはお前と交流を重ねる。よろしく」
    「一方的に話しかけるのは交流とは言わないからな」
    「そうなのか。じゃあお前からも話しかけろ」
    「……変な奴だな、お前……」

    研究所の私有地の端にある農園、そのさらに端にある植林地の中で、戦闘用機がふたり微妙な距離感で膝を抱えている。今日はロボット二体分の間をあけた平行のポジショニングだ。

    「変か」
    「変だよ。言われたことないか、お前」
    「無い。研究所の他のロボットからは微妙に距離を置かれているし、父さんはおれに優しいからおれの人格に対してはとやかく言わない」
    「待って何? なんつった今」

    リングマンは最初、この変なロボットのことを適当にあしらったり追い払うつもりでいた。だがスカルマンは最初の一回以降はリングマンの行動の理由を問うて来ることはしなくなったし、無理やり連れ戻そうとはしなくなった。そういう相手を邪険にする理由もないので、リングマンは仕方なくスカルマンの行動に付き合ってやっている。

    「おれの人格に対してはとやかく言わない」
    「その前だよ! お前、もしかして博士のこと父さんって呼んでるのか!?」
    「ああ。姉さんがそう呼べと」
    「カリンカお嬢様にッ……ッ!? !?」
    「どうした。おれはやはり変なのか」

    スカルマンはリングマンを連れ戻そうとする代わりに、微妙な距離感を保って座ってはどうでもいい会話でリングマンがエネルギー切れを起こすまで隣にいるようになった。リングマンは毎回エネルギーが充填されきる前に外に出るから、毎回満充填されてから来ているらしいスカルマンより後に倒れたことはない。

    「……変だぞかなり。ワイリーの奴の影響か?」
    「おれの内面にワイリーの要素がないことは外部機関によって証明されている。だからおれが変なんだとしたらそれはおれ自身の個性だということになるな」
    「だとしてもお嬢様を姉さん呼びはやめろ! 不敬だぞ!」
    「おれは敬意をもって彼女を姉さんと呼んでいる。それについてお前の意志に左右される筋合いはない」

    うぎーっと一声叫んだリングマンは、そのまま天を仰ぐように倒れて静かになった。スカルマンが覗き込むと、なるほど今日の限界はここだったらしい。エネルギーの切れたリングマンの機体を肩に担ぎあげたスカルマンは、ぶらぶらと揺れる彼の腕が背中にあたってガシャンガシャンと騒音を立てるのも気に留めずに研究所へと向かう。
    途中でトードマンと遭遇した。どういうやり取りをしたかと訊かれて、スカルマンは「特に何も」と答える。トードマンはほんの少しだけ残念そうにしていたが、本当に大した話をしていないのだ、彼らは。軽くお辞儀をしたせいでずり落ちかけた機体を担ぎ直して、動かない両脚をぐっと抱えた。

    ちなみにこれは余談だが、スカルマンはリングマンと仲良くなりたいと思っている。

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