番外編2021.7.5夜「おかえり!お邪魔してるよ」
「、、、あぁ」
普段は押すことのない自分の部屋のインターフォンを押してみると、バタバタと廊下を走る音と共にクソメガネが顔を覗かせた。
分かりきってはいたが、誰かに迎え入れられるというのはこんなに気恥ずかしいものなのかと少々戸惑ったが、まぁそれはバレてはいないだろう。
「飯は炊けたのか」
「うん!おまけにホットプレートまで設置完了だよ」
「じゃあ大人しく待ってろ」
「はーいっ!それにしてもリヴァイのお好み焼きすっげぇ久しぶり、新卒の時はよく作ってくれたよね!」
「お前が押し掛けてきただけだろうが。ホットプレートまで置いていきやがって」
「ははは!ほんとリヴァイがいなかったら野垂れ死んでたかもね。私はいい先輩に恵まれたってことだ!」
俺が台所に立ち、キャベツをみじん切りし、
お好み焼きのタネを作っている間、目の前のクソメガネはペラペラと1秒たりとも口を閉じずに話続けている。
(相変わらずよく喋るな、、、)
本当にここは俺の部屋なのかと疑う程騒がしいが、それもまぁ悪くねぇと思ってしまってる自分自身が、よっぽど恐ろしい。
「おい、焼くからこれ持ってけ」
「はーいっ」
ホットプレートを挟んで向かいに座ったメガネは、ジュワァァーっと弾けるソースに目を輝かせた。
「ねぇ、リヴァイ!もう食べていいよね!いいでしょ?」
「あぁ、火傷すんなよ」
「やったー!いただきまーす!」
案の定、あっちぃ!と言いながら、
自分が作ったお好み焼きを白米と交互に食べる姿は、見ていて悪いものではない。
「リヴァイやっぱりあなた天才だよ!ご飯と一緒に食べたくなるのは、やっぱりリヴァイのお好み焼きだけだね」
「そうか、詰まらせんなよ」
気持ちよく食べ進めるハンジを眺めていると、
先ほど自分がおかした失態を思い出した。
(さすがに隠しておくのは、、、)と悩んだ末、
リヴァイは口を開いた。
「おい、ハンジ」
「ん?なんだい」
「大した話じゃねぇんだが、さっき間違えてお前の部下にチャットしちまった」
「なんの話?」
「さっきお前に送ったやつだ、飯を炊いとけと送っただろ」
「えぇぇぇぇ!!」
ハンジの口からは米粒が勢いよく飛んだ。
「ちっ、汚ねぇな」
「ふははは!あなたって仕事はミスしないのにねwww」
「すまねぇ、、、」
「別にいいじゃないか、本当のことだし!でもちゃんと説明しといてくれよ。ただでさえあなたはモテるんだから、勘違いされて若い子達から反感を買うのは御免だ」
「あぁ、わかった」
口の端に青海苔やらソースやらを付けて嬉しそうに食うクソメガネを見ていると、
こいつが新卒の頃を思い出した。
俺のクライアントのプランニング担当として配属されたこいつは、当時の直属の上司よりも何故か俺に懐いた。
飯を集り酒を集り、仕事が上手くいかないと泣きついてきて、徹夜で愚痴を聞かされた。
騒がしくて面倒くせぇ、それでいて俺が引く境界線を軽々飛び越えてくる奴だった。
同期からはお似合いだ何だと言われた。
いつ付き合うんだよ!と飲み会で聞かれる度、
何と返せばいいのか分からなかった。
「なんかさぁ、こうやってリヴァイの部屋でご馳走になるの懐かしいな」
「修業だ!って本社飛び出してったのはお前だろうが」
「まぁね、転勤したのはいい経験だったよ。でもその時も、リヴァイが作ってくれたご飯は恋しかったなー」
「俺はおふくろか」
「ははは!確かにそうだね」
大きな口を開けて笑うこいつは、
あの頃より少し逞しくなって、
それでいて変わらずに俺の目の前に戻ってきた。
「おい、青海苔付いてんぞ」
「ん、ありがとう」
布巾で拭ってやった唇に、まだ触れたことはない。
いままでも、そしてきっとこの先も。
「おい、明日も仕事だ。そろそろお開きにするぞ」
「ちぇーっもうこんな時間か。リヴァイの家が隣だったらいいのに!」
「結構だ、こんなうるせぇ奇行種」
「ひっでぇぇぇwww」
駅の改札まで見送る俺に、見えなくなる所まで手を降るお前は、何も変わっていない。
手持ち無沙汰に右手を軽く挙げる俺も、
何も変わっていない。
俺たちの関係は、何も変わっていない。
変えたいのか、変えたくないのか。
らしくないと思いながら、
この答えだけはまた先伸ばしにしている。