春を待つ 桜も咲こうかという頃、柔らかな雪が薄く雲のかかった米沢に舞った。冬の忘れ形見はいかにも頼りなく、衣に落ちると染みだけを残して消えた。
「名残の雪だねえ」
こんな時季に、と笑い、慶次が縁から手を伸ばした。冷えた粒が指先で音もなく溶ける。傍らの兼続は僅かに口元を綻ばせ、風で揺れる髪を押さえた。
伏せた睫毛が横顔に影を落とす。――嗚呼。彼らのことを考えているのだろう。先の戦を終えてから、兼続はよくこのような顔をするようになった。気付かないふりをしながら、慶次は俯く肩に触れる。
弾かれたように上がったおもてには、もう微笑みが貼り付いていた。
「寒くないかい」
「私は慣れているからな、大丈夫だ」
かつてはよく通る明朗な声で、危ういほど真摯に得意の演説を行っていた唇からは、今は穏やかな言葉しかこぼれない。そして少しだけ、彼は無口になった。
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