迷惑この上ない メルが死んだ。メルカトル鮎が、死んだ。殺された。
その訃報をメルカトルの事務所経由で知らされたのは、名探偵木更津悠也によって今鏡家での事件が解決してから二日ほど経った後だった。どうやら銘探偵メルカトル鮎は、今回の事件にはピリオドを打てなかったようだ。代わりに自らの人生に終止符を打たれるという、それはそれで銘探偵の名に相応しいと思える閉幕(カーテンフォール)を迎えた。
テレビや新聞越しに知るものもそうだけれど、それとはまた異なる形で身近な人間の死というものにも、日が浅いからかまだ実感が薄い。メルカトルでも死ぬんだなとか、彼も生き物だったんだなとか。今際の際にメルカトルはどう思ったのか、どんな顔をしたのか。わたしはこれから何を飯のタネにしていけばいいんだ。等々、哀悼とは程遠いことばかりが次から次へと湧いてくる。
そんなわたしでもメルカトルの死を心から悼み、涙を零す日がそのうち来るのだろうか?
その様子を想像しただけで、お前は本当にわたしか!?と気持ち悪くなったので、墓前に花を手向ける程度で許してほしい。それすらもメルカトル本人からは、花選びにもセンスがないとかなんとか鼻で笑われそうではあるが。
(きみの為に仕方なく身銭を切ってやるんだ!少しは弁えろ!!寺の蛇口の水だけだと、それはそれで文句言うだろ。というか、花をチョイスするのは花屋で僕じゃない)
そんな風に脳内でメルカトルをボコボコにしたが、脳内メルはノーダメージにどこ吹く風でスルリとわたしの背後へ回り、ポンと肩に手を置いた。
「美袋君、君の身銭の大元は私だろう。それに何より私に手向けるものなんだ。口を出す権利は大いにある。ああ、それと水は軟水のミネラルウォーターにしてくれ」
「うるさい、死人が話すな!」
振り払うように肩を揺すり、次いで放った裏拳が虚しく空を切る。
そこには当然誰も居ない。誰もいないのだ。メルカトルは、死んだ。それなのに生きていた頃よりも、メルのことが頭に浮かぶ。
とんだ呪いをわたしに掛けて、メルカトル鮎はこの世から去っていった。