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    頭から壁に突っ込む

    縦書き至上主義だけど英字や記号が妙なことになるので横書きにせざるを得ない。
    主にTwitter鍵付きアカで流してた物を再掲。ジャンル雑多、スーパー遅筆。

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    POIPOI 10

    えあるびイベスト因習村ネタ(空+十)

     「おい、しばらく水場に近づくんじゃねえぞ、十四」
     十四が帰ってきたら自分を置いて獄と二人だけでキャンプという面白いことをした件を詰りまくる腹積もりだったが、数日ぶりに修行へ来た弟子と顔を合わせてみたら妙なものを土産代わりに纏わりつかせているので小言よりも先にそう口にしていた。
     「ええっ、何でっすか!?というか、その前におかえりなさいぐらい言ってくださいよおー。大変だったんすから」
     胸の前で握った両拳を上下にブンブン動かしながら不満気な表情を隠しもしない十四に、これはきちんと説明してやらないと治まらないだろうなと感じて溜め息を吐く。
     「あんま繋げたくねえんだけどな・・・・・・」と小声で呟いてから、十四と向き合うようにしていた体を90度右に回転させる形で視界に入らないようにした。十四に前へ回り込まれないよう即座に手で制する。
     「そのまま拙僧の有り難い忠告を聞きやがれ。・・・・・・何があったかは説明しなくていい。いや、言われると困るんだよ」
     「空劫さんが困る?何でっすか?」
     一緒に居る機会が多いからか、見えなくても十四が不思議そうな顔で首を横にコテンと傾げてる様が脳裏に浮かんだ。
     「繋がっちまうからだよ、お前に纏わりついてるソレと。拙僧にも、たぶんうちのクソ親父にもどうにもできねえ存在だ」
     「えっ、えっ?自分、危ない状態なんすか?特に変わったとこはないと思うんすけど」
     「そりゃあな、目ェつけてる奴をわざわざ傷物にするわけないだろ。食うなら新鮮な方がいい。そういうのは人間と変わんねえんだな」
     「なるほど。今は危なくなくても、いつかは食べられちゃうってことっすか。・・・・・・そ、そんなの嫌っすー!空劫さん、寺生まれなんだからなんか破ァーッ!!て感じにどうにかできないんすか!?」
     ふわりと空気が動いたかと思えば、その場へ両膝を地面に付いたらしい十四は、こちらの腰に抱き着きながら幼い子どものようにわんわん泣き始めた。修行の成果も今は未知への恐怖には勝てないようだ。
     「たわけ、寺生まれだからって何でもできるわけねえだろ。それにお前にご執心な相手は、人間がどうこうできるレベルの存在じゃねえ。向こうにとって喝なんてカスみたいなもんだろ。分かんだろ?」
     「う、たしかに。じゃ何とか様に捧げるって、三郎くんと一緒に湖へ沈められそうに」
     「やめろやめろ、説明すんなつっただろうが!」
     「うう、ごめんなさいっす・・・・・・」
     「まっ、選ばれちまったのはお前のせいじゃないしな。力が及びそうな水場には念の為しばらく近づくのはやめろってこった。ソコが川と繋がってないことを祈るしかねえ。ソレが薄まって完全に執着が消えるまでは滝行も中止だな」
     「や、やったあっ!あれ、かなりキツかったんっすよね。ちょっとの間でも休めて良かったっす」
     「?十四、テメェまだまだ修行が足りてねえみたいだな。滝行やらねえ分、他の修行を増やすに決まってんだろ!ついでに本堂の雑巾掛けもやれ!!」
     「はわわわわ、ちゃっかり空劫さんがやる事も押し付けられてるっす」
     未だ縋り続ける十四を引き剥がしながら、ふと先程の会話を脳裏で反芻する。
     「ちょっと待て、三郎も一緒だったのか?」
     「はいっす。三郎くんも、一郎さんや二郎くんとキャンプに来てて」
     「ったく、ンなこと聞かされたら増々置いてかれたのが悔しくなっけど、それよりもまあ一郎にも連絡入れとかねえとな」
     「さ、三郎くんも危ないってことっすか!?」
     「そーだよ、お前と同じ目に合ったんだからな」
     上着のポケットからスマホを取り出し、目当ての番号に掛ける。
     すぐに電話へ出た一郎の少し嬉しそうな声に思わず破顔しそうになるが、スッと気持ちと表情を引き締めて手短に用件だけを伝える。
     一郎が息を飲む音と、「分かった、三郎には俺から伝えておく。ありがとな」という硬い声が耳に響く。それに「おう」とだけ答えて電話を切った。
     「またな」と言いたい思いはあったが、今この話題でそれを口にするのは良くないと感じたから心の内だけに留めた。
     「十四、次にどっか行く時は拙僧も連れてけよな」
     「そうっすね。空劫さんが居てくれれば、たぶんそういう危ないのも事前に分かるはずだから安心っす!」
     人を探知機呼ばわりする弟子の頭を渾身の力で叩くと、いつものようにキャンッと子犬のような甲高い悲鳴が上がった。
     ふと、山の向こうへ目をやれば、どす黒い雲がこちらへと広がって来ていて、それと同時に風へ乗って湿った土のような臭いも届いた。
     きっと雨が降るのだろう。そんな自然現象でさえも、このタイミングで訪れると人智を超えた者の采配に思えてくる。ただの雨雲のはずなのに、まるで何かを捕まえようと伸ばされた手のようにも見えてきた。
     触らぬ何とやらとは言うものの、既に向こうから障られてしまった状況ではどうすればいいのか。
     気休めにしかならないだろうけれども、こう唱えるしかなかった。
     「くわばらくわばら」
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