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    頭から壁に突っ込む

    縦書き至上主義だけど英字や記号が妙なことになるので横書きにせざるを得ない。
    主にTwitter鍵付きアカで流してた物を再掲。ジャンル雑多、スーパー遅筆。

    ☆quiet follow
    POIPOI 10

    本編さといろ告白→デート回でのメエメエ視点。メエ→さと?

     話を聞いてくれる。最初はただ、それが嬉しかったんです。
     プリキュアとなった、いろは様やこむぎ様にお約束した事を守ってもらえず、わたくしはニコガーデンの執事として自信を失いつつありました。そして、そのような状況の時にあなたと・・・・・・悟くんと初めて出会ったのです。
     プリキュアではない悟くんがニコガーデンを訪れる事自体あってはならないことでしたが、それよりもわたくしの話をきちんと聞いて考え、そして理解してくれた事への喜びの方が勝りました。そういったこともあってか、執事としてではなく、わたくし個人として悟くんとは接するようになっていました。
     執事として厳格に対応するのが当然だと分かっていましたが、悟くんとお話すると胸の奥が温かくなり、楽しくてもっといろいろお話したくなるのです。

     ある日、自由奔放にニコガーデン内を走り回る犬の姿のこむぎ様の後を大変そうに、でも楽しそうに追いかけているいろは様を眺めながら、わたくしはいつものように悟くんに愚痴を聞いてもらっていました。
     そんな折にトランクを経由しないと、つまりはいろは様達と一緒でないとあなたと話したくても会えない。そういった類いの話を私がすると悟くんは、
     「それなら携帯電話を使えばいいんじゃないかな。いや、ニコガーデンと僕たちの世界の間で電波が届くのかは分からないけど。そもそも、この世界にも携帯電話ってあるのかな。それに電話代はどうなるんだろう」
     と、真剣な面持ちで他にもあれこれ考え始めてくれました。
     「携帯電話・・・・・・。そ、それなら、ここにありますよ!」
     わたくしは自慢のふわふわの毛並みの中からサッと携帯電話を取り出し、悟くんに見せました。
     「ニコガーデンの住人の方は誰も持っていないので、今まで使ったことはありませんが」
     「えっ、じゃあなんで持ってるの?」
     「・・・・・・執事ですから」
     「そ、そう」
     アハハと困った様に笑うあなたを見て、わたくしはまた一つ悟くんの新たな顔を見られたことに喜びを覚えました。
     「電波に関しては大丈夫だと思いますよ。トランクが悟く、いろは様達との世界と繋がっていますし、それを通して携帯電話も問題なく使用ができると思います。実際にまだやったことがないので試してみる必要はありますが・・・・・・」
     わたくしはそこで言葉を切り、目線に想いを込めて悟くんを見ました。すると、すぐに悟くんは、
     「だったら、僕の携帯電話でやってみようか」
     と、わたくしが欲しかった言葉を口にしてくれました。
     こういうのを阿吽の呼吸というのでしょうか。もう、わたくしと悟くんは友達と言ってもいいのでは。
     「ありがとうございます!それなら早速電話番号の交換を」
     「うん、そうだね」
     初めて埋まったアドレス帳には、悟くんの電話番号。それを見るだけでわたくしの心は、今まさに池の向こうで跳ね回っているこむぎ様のようにピョンピョンとなったのです。
     「数字じゃなくて記号が混ざってるんだね。一見すると文字化けしてるように思える。やっぱり僕たちの世界とは違うことが多いみたいだ。ちゃんと繋がるといいけど」
     「きっと、大丈夫ですよ!わたくしと悟くんの仲ですから!」
     「そう、なのかな?」
     何やら戸惑っているかのような悟くんですが、それよりもわたくしは大事な事に気がついたのです。
     「あ、あの、悟くん・・・・・・」
     「どうしたの、メエメエ?」
     身体をモジモジとしながら言い淀むわたくしに向かって、心配そうな表情で悟くんは続きを促してくれました。
     「電話はわたくしと悟くんのどちらから掛けた方がいいでしょうか。わたくしは今日の何時でも大丈夫ですので、悟くんの都合がよろしい時間で」
     「そうだね。こういった事は早くやった方が駄目だった時の修正にも早く取り掛かれるし、今からやってみようか。とりあえず僕が一度外に出て、そこからメエメエに電話を掛けてみるね」
     テキパキと方針を決めて実行する。そんな悟くんの姿にわたくしは理想的な執事像を見て、感嘆のため息を漏らしながら、去りゆく彼の背を目で追っていました。そして、いくらも経たない内に手にした携帯電話から着信を知らせる音が鳴りました。
     「もしもし、メエメエ?悟です。ちゃんと聴こえてるかな?」
     電話越しに耳へ届く声はいつもの悟くんのものよりも少しくぐもって低く響き、わたくしは何故だか胸がドキリとしました。
     いつもあんなにたくさんお話しているのに、まるで今初めて会話するかのような緊張感があります。それを抑えつけるように、わたくしはギュッと携帯電話を握り直しました。
     「はい、きちんと聴こえていますよ。悟くん」
     「良かった。これでいつでもメエメエと話せるね」
     「ッ!そ、そそ、そうですね。わたくしも悟くんと二人きりでずっと話せるなんて嬉しいです!!」
     「学校のこととかもあるから話せる時間帯は限られちゃうけど、とりあえずそっちに戻るね。じゃあ、また」
     「は、はいっ!」
     プツッという音ともに通話の切れた携帯電話を胸に抱き、わたくしは悟くんの最後の言葉を頭の中で繰り返し繰り返し再生しました。
     『じゃあ、また』、こんなに短い言葉なのにとても胸を揺さぶるのは何故でしょうか。きっと次が有る事を約束されているからかもしれません。
     戻ってきた悟くんとお互い都合の良い時間帯を話し合って、電話するタイミングを決めました。その時にはもう、いろは様やこむぎ様も戻ってきていました。
     わたくしがアドレス帳の頭数を埋めたさに、
     「もしよろしければ、いろは様もわたくしと電話番号を交換しませんか?」
     と提案すると、いろは様は、
     「ありがとう、メエメエ。でも私、携帯電話持ってないんだよね。使う用事も無いしさ。家の電話でもいいかな?・・・・・・って、プリキュアの事とかは内緒にしないとダメだから電話もダメか」
     と、頭の後ろに手をやりながらアハハと照れくさそうに笑いました。それをチラッと見た悟くんは何故か悲しそうに目を伏せていました。
     「けーたいでんわ?と、家のでんわ?って何が違うワン?」
     いろは様に抱きかかえられた、こむぎ様が不思議そうに首を傾げると、悟くんが、
     「家の電話は家に居ないと使えないけど、携帯電話は電波が繋がっていればどこでも使えるんだよ。だからプライベートな会話もしやすいんだ」
     と、説明をしますが、
     「ぷらい、べーと?」
     こむぎ様はますます考え込んでしまいました。見兼ねたいろは様が、
     「秘密のお話、とかかな」
     と言うと、
     「それなら、こむぎもいろはとたくさん秘密のお話してるワン!今より小さかったいろはが、靴下の色が左と右で違うまま学校行っちゃって恥ずかしかったって」
     「わあーっ!こむぎ!だからそれは秘密なんだってば!!」
     「他にもいっぱい秘密のお話あるワン」
     「秘密は秘密だから秘密って言うんだよーっ!わ、私たちもう先に帰るね!!」
     慌ててこむぎ様を連れて走っていく、いろは様の顔は耳まで赤く染まっていました。悟くんはそんないろは様の背中が見えなくなるまで、とても優しげな微笑を浮かべてその姿を眺めていました。
     その様子にわたくしの胸にはガルガルになっていた時とは異なる、ザラリとして重く嫌なものが生まれたのです。
     それを『嫉妬』というものだと、わたくしが知ったのは自分の失言をきっかけとし、悟くんがいろは様に愛の告白をした時でした。
     一旦は冗談と受け取られかけましたが、悟くんは真摯に再び想いを告げました。いろは様は突然の事に思考の限界へ到達したのか、「バイバイ!」とだけ言って走り去りました。
     悟くんがいろは様へ想いを寄せていたことは殆どの人達には知れ渡っていたようですが、いろは様ご自身は全く気付いていなかったらしく、その驚きは計り知れないものがあるのでしょう。
     『悟くんには特別に大事に思っている人がいる』。
     それを彼の親友であるわたくしが少し前まで知らなかった。気づかなかった、教えてもらえなかった。そのことがとても悲しく、又、『特別な人』と『親友』は悟くんにとってどちらがより上位なのかを考えると胸が締め付けられそうでした。
     ガルガルになっていたわたくしを救ってくれたのはキュアワンダフルのこむぎ様でしたが、その後キュアフレンディとなったいろは様もニコガーデンのニコアニマルの多くを救ってくれた恩人なのです。二人共、わたくしの話をあまり聞いてはくれませんでしたが、それでもここまで一緒に歩んできた仲間です。憎めるはずがありません。
     そして、悟くんもその仲間の一人です。でも、わたくし個人にとっては初めての『特別な人』も悟くんだったのです。
     わたくしは、いったいどうしたらいいのでしょうか。
     楽しみにしていた悟くんとの電話の日が、こんなにも苦しく感じる時が来るとは思いませんでした。いろは様の件にはお互い触れませんでしたが、それはそれでおかしな空気になったので、二言三言話して電話を終えました。勿体ないと感じるよりも、ホッとした自分自身が情けなく思えました。

     そうして、どうしたらいいのか分からないまま、気づいた時には悟くんといろは様は心を通じ『特別なワンダフル』となっていました。
     入っていけない、入ってはならない雰囲気。そういうものを目の当たりにして、わたくしの胸の中のとても嫌なものはますます大きく膨らんでいきました。
     悟くんは大親友のわたくしよりも、『特別なワンダフル』な人であるいろは様を優先するだろう。そう考えるととても悲しくて、悲しくて。何とかしてまたお話してほしい、わたくしを見てほしい。優しく笑いかけてほしい。
     そう考えていた時に降って湧いたのが、悟くんといろは様の『初めてのデート』の件でした。わたくしはあの手この手で悟くんに影ながらアピールをしましたが、その度に大福様やニコ様にお叱りを受けました。それでもめげずに止めなかったのは、悟くんにわたくしとお話してほしかったからなのです。
     水族館まで来た際にまゆ様やユキ様にもお叱りを受けましたが、そんな時に巨大で首の長いガオガオーンが街に現れて暴れ始めました。
     急いでいろは様を呼びに行こうとするわたくしをまゆ様は、
     「メエメエも知ってるでしょ!?二人共、いつも誰かの為に頑張ってる。だから、お互いの事だけを考えて、素敵なデートをしてほしいの」
     と、制し、『本当に危なくなったら呼びに行く』という条件で行く末を見守ることとなりました。
     しかし、キュアワンダフルとキュアニャミーの動きが沢山のカートによって封じられ、キュアリリアン一人という劣勢を見たわたくしは今にもいろは様の元へと駆けていきたい気持ちになりましたが、キュアリリアンの
     「大丈夫だよ。ガオガオーン、私、あなたと仲良くなりたい」
     という言葉に、胸を抉られるような思いでその場に踏みとどまりました。あの怖がりで頼りなげだったまゆ様が、こうしてキュアリリアンとして一人で立ち向かっている。ガオガオーンを助ける為に、そして悟くんといろは様の為に。
     そう、彼女も誰かの為に頑張っているのです。悟くんやいろは様のように。
     それはとても温かく、とても綺麗なものなのです。わたくしの中にある、このザラリとして重いものとは違って。
     ─────相手の幸せを願う、ダチってそういうもんだろ。
     大福様の言葉が脳裏を過ぎりました。
     わたくしの胸の痛みはわたくしの問題であり、その解決を悟くんに求めてはいけなかったのです。これまで彼には彼の胸の痛みがあったのに、それを悟くんは秘め続けていたのですから。
     わたくしは決心してニコ様に大福様のことをお願いし物陰から躍り出ると、
     「今日は、わたくしの大親友の初デートなんです!!」
     そう叫びながらガオガオーンの足元を走り抜けました。
     わたくしにはプリキュアやニコ様のような身を守る術はありません。何かあれば傷を負うでしょうし、もしもの事態も有り得るのです。けれども、それは悟くんも同じだったのです。それでも彼はプリキュアの傍に居続け、その知識を持ってプリキュアと共にアニマル達を助けてくれていました。わたくしだけ「怖い」なんて言っていられません。
     「大親友の初デートは大親友が守るんです!!」
     やっとの思いで辿り着いた、キュアワンダフルとキュアニャミーが閉じ込められている、ドーム状になったカートの塊を両前脚の蹄で何度も殴りつけ弾き飛ばしました。涙が溢れてきますが、拭っている暇などありません。
     1分でも、1秒でも長く、悟くんがいろは様と時を過ごせるように。
     わたくしは悟くんの大親友として、わたくしにできることを今ここでやり続けるのです。たとえ、この蹄が割れようとも。
     それがわたくしにできる、お二人の初デートを邪魔しようとしたことへの贖罪でした。
     何撃目かも分からない殴打の末にカートの山は崩れ、キュアワンダフルとキュアニャミーはようやく解放されました。わたくしがカートの残骸に隠れるようにして涙を拭っていると、デートよりもプリキュアとしての使命をやはり優先してくれたキュアフレンディと悟くんも合流し、ガオガオーンは無事に元のニコアニマルへと戻れたのです。

     一件落着を迎えてみんなで集まっていつものように談笑する中、わたくしは未練がましくも悟くんの手を取り、
     「悟くん、わたくしとも遊んでくださいねぇーっ!!」
     と哀願しました。そんなわたくしに悟くんはいつもと変わらぬ優しい表情と声で、
     「もちろんだよ」
     と返してくれたのです。天にも昇るような気持ちとはこのことでしょうか。その一言だけで私の中のザラリとした重いものは消え去ったのです。
     悟くんがわたくしを見てお話してくれて、微笑み、そして約束をしてくれた。それだけで良いのです。わたくしにとってはこれが『特別なワンダフル』だったのです。
     これからは大親友として、悟くんといろは様の仲を応援していきます。あなたのメエメエにお任せください!
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