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    頭から壁に突っ込む

    縦書き至上主義だけど英字や記号が妙なことになるので横書きにせざるを得ない。
    主にTwitter鍵付きアカで流してた物を再掲。ジャンル雑多、スーパー遅筆。

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    百←春

     コロシアイを強いられる学園生活、そして『超高校級の暗殺者』である自分。そのどちらをも苦々しく思っていたはずなのに、首謀者である白銀からそれら全てが『嘘』だったと告げられても何も嬉しくなかった。
     今ここに居る私は『ダンガンロンパ』という、リアルフィクションのコロシアイゲームの登場人物として記憶を植え付けられて出来たもの。過去も人格も何もかもが、このコロシアイを面白くするエッセンスとして他人から与えられたもの。・・・・・・百田への想いすらも。
     首謀者や視聴者が待ち望んでいたとおりだとしても、こんなの絶望するしかない。本当の私なんて、とっくの昔に消えていた。ここに居る私はフィクション、コロシアイという見世物の中での役割を与えられた存在。外の世界に今の私の居場所なんて無い。本当の気持ちなんて私の中には無かった。
     安全圏で、このコロシアイ学園生活を楽しんで見ていた連中の居る世界へなんて絶対戻りたくない。そうするぐらいなら、いっそこの世界で死んだ方がマシだ。新たな記憶を植え付けられて、ダンガンロンパ次回作へと引き継がれるだけだとしても、その前に白銀だけでも殺してやる。『超高校級の暗殺者』がただの設定に過ぎなかったのだとしても、この記憶には幾つもの殺し方が存在している。人一人ぐらいなら確実に殺してみせる。
     ──────そう、思っていた。
     「僕は、ダンガンロンパを否定する!」
     あいつが、最原がそう口にするまでは。
     これまで幾つもの絶望の度に、失ってきた者達の意思を継いで希望を諦めなかった最原が、絶望はもちろん希望までをも否定した。希望がある限り続くコロシアイゲーム、『ダンガンロンパ』自体を終わらせようとしている。
     亡くした者の分まで生きようと足掻いてきたはずなのに。これまでの犠牲者を悼み、これからの犠牲者を生まないために、己の命を使うと彼は言った。それは何もかもを他人に決められていた私達が、唯一自由にできる物だった。
     誰かの命を奪うことも、逆に奪われることも、そして自らそれを手放すことも、それらをこのコロシアイで見てきたはずなのに真実へのあまりのショックで忘れていた。
     最初から何も持っていなかったと思い込んでいた私も、自分だけの武器(いのち)を持っていたんだ。ただ死を選ぶのではなく、それで首謀者や視聴者に一矢報いれるのなら使う価値はある。
     首謀者である白銀の『ゲームを放棄する展開』さえも「わたしのシナリオ通りかもよ?」という発言に狼狽える私に向かって、最原は彼自身を、そして百田を信じた己を信じろと語り掛けてきた。その瞬間、これまでに最原や百田と行ってきた夜のトレーニングの場面が幾つも脳裏に浮かんできた。
     これが首謀者にとって都合の良すぎる結末だとしても、それでも、私はっ・・・・・・!
     そうして私も夢野も、最原の意見に同意した。そして白銀の目論見は外れ、密かにキーボも投票していなかったのだった。こうして希望も絶望も無い、全てを放棄して最後の学級裁判は幕を下ろした。

     キーボによる、才囚学園の破壊と恐らく彼の自爆が行われたのだろう。瓦礫の下から這い出て見上げると、空のような映像を映していた天井ドームには大きな穴が穿たれていた。白く眩しいだけで外の様子は分からない。
     周囲を窺ってみても白銀やモノクマの姿は見つけられなかった。江ノ島盾子に拘っていた、『超高校級のコスプレイヤー』と名乗っていた白銀はその最期をも模倣したのかもしれない。

     過去が無くて居場所も無い自分達はどうなるのか。そして外の世界は本当はどうなっているのか。何が嘘で何が真実なのか。様々な未知に足が竦んでいると、
     「たとえ嘘だとしても・・・たとえフィクションだとしても・・・世界を変える力があるなら、それって、真実と同じじゃないかと思うんだ」
     最原が、そう口にしてこれまでの出来事を振り返った。
     嘘かどうかは受け取る側次第、嘘でも世界を変える力があるならそれはもう真実と同じ。嘘と真実、正しいのがどちらかだなんて誰にも決められない。
     私は私として、嘘の存在である春川魔姫として命を使って、『ダンガンロンパ』という世界を仲間と共に否定した。世界を変える力とまで行ったかどうかは外に出ないと分からないだろうけど、少なくともちょっとは真実としての存在に近づけたような気がする。
     だから、そんな私が肯定したのなら、ここに居た彼らも嘘の存在では無かったことになるのかもしれない。疑心暗鬼やコロシアイ、そんな血なまぐさい出来事だけが真実ではなかったはずだ。たとえ植え付けられた記憶だったとしても、彼らはそこに居て日々を共にした。嘘で塗り固められてはいたけれども、彼らは彼らとして生きていた。そして私も。
     ──────だから、私の百田への想いも、やっぱりそこにあったんだ。あれは確かに初恋だったんだ、私の。春川魔姫としての。
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