交流SS/跳羽十駕ピピッ ガチャ
手に馴染んだ暗証コードを打ち込むと、自宅の扉が軽快な電子音を立てて開く。左肩に掛けたレザーのトートバッグがやけに重たく感じ、自動で点灯する廊下からリビングまでの照明を、跳羽十駕はゆっくりとした足取りで浴びて歩く。
上着とバンダナを脱ぎ去って、手を洗う為にキッチンへ立つ。
微かにラベンダーの香りがする固形石鹸を、細く出した温水に潜らせてやりながら、手の平で転がした。徐々に泡立つ真っ白なそれに、夕方食べた生クリームが蘇ってくるようだった。
局からそう遠くはないケーキ屋のショーケースが。
キラキラとした光景が。目に浮かぶ。
そして、あの快活な女性の姿も。
よくよく思い返せば、その日初めて認識した人物と食事をしたんだ。彼女のほうは、以前より自分を認識していたらしいけれど。食事と言っても、スイーツと紅茶なのできちんとした、食事、の意味とは違うかもしれないが。十駕にとっては珍しい出来事だった。
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